サキさんのチェンマイ日記
■527■ 7月10日 2008
「孫の手」
誕生日のお祝いに「孫の手」をもらいました、勿論タイ製です。多少不細工な感じがし
ますが、この孫の手、使いやすさは抜群です。
僕の記憶にこんな光景があります。祖母は縁側の日だまりで、まるで、背中が身体中に
めり込んだような状態で縮こまって座り、愛用の孫の手を着物の襟首から背中に突っ込
んで、気持ちよさそうに背中を搔いていました。僕がそばにいると祖母はよく
「ちょっと背中を搔いてくれないかい」と言い、僕は「もうちょっと右」
「もっと下」などと言う祖母の注文を聞いていましたが、そのうち古い「孫の手」を引
っ張り出して、かゆいところを自分で搔くようになります。
僕はこれがいつも不思議で、痒いところがあれば僕に頼めば事足りると思っていたので、
この祖母の行動はちょっと残念で、寂しく感じるのでした。
祖母の使っていた「孫の手」は竹できており、かなり年季の入ったもので、黒光りして
いました。記憶が薄れてしまっていますが、あれははじめから黒くぬってあったのか、
長年使っているために黒光りしていたのかは定かではありません。
しかし、僕の顔を見ると「ちょっと背中を搔いてよ」と依頼するので、僕は
「孫の手」というのは、祖母は孫が好きで、孫も祖母が好きだからいつも一緒におり、
自分の手が届かない背中の痒みを解消するのは、孫の僕に依頼するのが一番便利だと解
釈していました。
これは現在まで信じて疑いのない事でしたが、チェンマイでもらった孫の手を使ってい
る間に疑問が頭をもたげ出しました。たまに背中の痒みが耐えられず、そばに座ってい
る家人に依頼して搔いてもらうのですが、痒いところに手が届かず、「孫の手」
を使う方が、かゆい部分を的確に掻けるので重宝する事を発見しました。きっと、祖母
も、いつもそばにいる孫に、背中をかくことを依頼はするが、かゆいところには手が届
かないので、いらいらしていたのではないかと思いあたりました。
こうなると、そのことが気になり出して仕方ないのは、僕の性格です。竹でできた孫の
手は、生身の孫の手に比べてそれほど便利なものなのかどうか、今朝はこの長年の疑問
を解決すべく「ウイキペデア」で「孫の手」を調べてみると、意外な回答が出てきまし
た。
まず名前から。
孫の手(まごのて 英 Backscratcher )とは、背中などの自分の手が届かない部位を
掻く際に使う長い棒状の器具である。英語では scratch-back のほか magonote とも呼
ばれる(日本語が英語になった例のひとつ)。
日本語が英語になったということは、これは日本発の製品であり、あまりの便利さに世
界中に広まったという事ができます。英語でも「magonote」と呼ばれているなどとい
う事実は、なんだかうれしくなってきます。
しかし、次の記述を見ると日本発とは一概に言えない感じもします。
身近な日用品だけに、孫の手がいつから使われているのか、あるいは誰が発明したのか
などはわかっていない(有史以前から木の枝などを用いてヒトは背中を掻いていたと想
像することに特別の無理はない)。
前述のように日本のものは木や竹製がほとんどだが、とくに17〜18世紀ヨーロッパの
上流階級においては、象牙などによって作られたものや、銀などの貴金属による装飾が
ほどこされたものが使われたこともある。これは当時の貴婦人たちが用いるものであり、
外出のときなどにもアクセサリー代わりにドレスの腰からぶら下げるなどして持ち歩く
ことがあった。
この理由は、当時の貴婦人たちの着衣にある。日本のように入浴を好む習慣もなく、さ
らには当時の下着類はそれぞれの人のサイズに合わせて作られたぴったりしたオーダー
メイドであったこともあり、必ずしも毎日脱ぎ着することもなかった。それらにより、
シラミなどがいて痒みを感じることが頻繁にあったからといわれる。
このように携帯する孫の手の中には、普段はただの直棒状であり、使用時に「手」部分
を装着して用いるものがあった。また、その「手」は、鳥の足などを模したものが使わ
れることがあった。
こうなると、日本発がますます怪しくなってきます。でもかなり昔から使われていた事
がわかります。この記述では、ヨーロッパの貴婦人はシラミのかゆさに耐えかねていた
などと、ちょっとユーモラスでさえあります。
ウイキペデアには孫の手の語源も語られています。
中国の西晋時代の書『神仙伝』に登場する仙女・麻姑(まこ)に由来する。麻姑は爪を
長く伸ばしており、あるとき後漢の蔡経が、その長い爪で自分のかゆいところを掻いて
もらうと気持ちがいいだろうと言い、叱責されたことに因む。のちに「麻姑の手」が訛
って「孫の手」と言われるようになった。しかしながら、ただの音のなまりだけではな
く、小さな子供の手を示す意味となったこと、さらにはそうした孫による祖父・祖母孝
行をイメージさせつつ、その形状をも表す言葉となったことは注目に値する。
なお、このようにかゆいところが掻ける、すなわち物事がうまくいくことを「麻姑掻痒
(まこそうよう)」という(対:隔靴掻痒)。日本でいう「痒いところに手が届く」と
出自は似たようなものであるが、慣用句としての意味が異なる。
なるほど、僕がもらった孫の手はこんな長い歴史や、世界中で使われていることが判明
しました。チェンマイで手にはいるという事は、日本製ではないことは理解できますが、
ここまで広く、古くから使われていたとなると目から鱗です。
孫の手の語源を知ると、孫はいつも祖母のそばにいて、背中がかゆくなると、孫にかい
てもらうという利便性が、その名前になったという僕の解釈は間違っていた事になり、
孫の手は、生身の孫の手ではなく、その形状から名前が付いたということが理解できま
す。
しかしこんな孫の手の写真を見せられると、その形状から名前が付いたと一概には言え
ない事になります。孫の手と言うよりは「魔女の手」という感じで、孫の祖母孝行とい
うイメージからはほど遠くなってしまいます。
現在日本で売られいぇいる「孫の手」もかなりの種類があるようです。
興味は知識の源泉です。
これに類した珍しいものと言えば、「金の爪楊枝」と言うものを見たことがあります。
僕が香港で仕事をしていた時、ドバイに長年駐在していた日本人のお客がありました。
当時はブリティシュカレドニア航空という会社があり、香港―ドバイーロンドンに定期
就航していました。大阪からこの飛行機を利用する場合、香港で一泊ししなければなら
ないスケジュールでした。
その人から、当時のドバイの様子をよく聞かされました。今でこそ脚光を浴びています
が、当時はアラブの一産油国というイメージだった様です。付き合っている人は、石油
関係のサルタンで、彼らは金製品を好み、その結果金の爪楊枝の出現となったという事
です。
この金の爪楊枝、なんとかの「カルチェ」製だと言うから開いた口がふさがりません。
黄金に輝く金の爪楊枝は、使用時にはケースからするすると出てくるという細工がなさ
れていました。ドバイにはおいしい寿司屋がないという事と、香港には、日本の老舗に
も勝るとも劣らない寿司屋があるという関係から、彼が香港に一泊するたびに寿司屋に
行き、この金の爪楊枝を拝見するという事がたびたびでした。
アラブ人は金が好きだというエピソードでは、こんな事もありました。このドバイの日
本人は、大のゴルフ好きです。時間のあるときは良くゴルフに出かけました。グリーン
上でボールをピックアップするとき使うボールマークはプラスチックでできている小さ
な丸い形状のものが普通です。僕もそれを使っていたところ、彼はポケットから3、4
枚の金貨を取り出して、これを使うようにと僕にくれました。黄金に露に輝く金貨のマ
ークはどんなに離れたところからでも、確認ができ、重宝していました。キャディーバ
ッグに入れていたのですが、いつの間にか行方不明になってしまいました。タイピンや、
カフスに作ることもはやっているとのことでした。
それ以来、僕もコインをマークに使う様になり、僕のキャディーバッグには、最近訪れ
た国のコインがたくさん入っており、楽しいゴルフの想い出になります。僕のバッグに
は、今、タイや、フィリピンのコインがたくさん入っており、日本のコインはいつの間
にか姿を消してしまいました。それだけ、最近は日本にゴルフに出かけない証拠です。
閑話休題。誕生日にもらったタイ製孫の手は、結構気持ちよく使えます。僕は週3回ゴ
ルフに出かけていますが、南国の強烈な太陽は容赦なく背中を焼きます。傘を差して気
をつけていても、翌日になると猛烈な痒みを背中に感じる事があります。そんな時は、
そばにいる家人に依頼して、この痒みを解消しようとするのですが、家人は的確に痒い
場所を掻いてはくれません。
そんな時は、物差しなどを使って痒みを抑えるのですが、どうも僕の痒みは強烈で、
柔らかい物で搔いても物足らず、プラスチックの物差しの、鋭利な角でごし
ごしとかくことがあります。そうすれば、頑固な痒みもなくなるのですが、後にはみ
みず腫れの様な筋が残ることがあります。
チェンマイ製の孫の手は、その点では僕好みです。造りが多少雑な分、孫の手の部分が
ざらざらしていて、これでごしごしとかくと、僕好みの強さで掻けるのです。さらに、
みみず腫れもできず(もち論自分で確認できるわけはありませんので、T-シャツをめく
って家人に見てもらった結果です)重宝しています。
多分、その昔、祖母が使っていた、細工に手が込んでいて、角が取れて、丸みを持った
形の、黒光りした孫の手は、強く搔きたい僕には不満が残る代物だったかも知れ
ません。
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