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2008/06/27

日刊デジクリ[#2453] 何者かになりたかった…あの頃

この記事を取り寄せる

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【日刊デジタルクリエイターズ】 No.2453    2008/06/27.Fri.14:00.発行
 http://www.dgcr.com/    1998/04/13創刊   前号の発行部数 16553部
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        <僕はひとりで喋って自らを追い込んだ>

■映画と夜と音楽と…[380]
 何者かになりたかった…あの頃
 十河 進

■Otakuワールドへようこそ![76]
 幻妖の棲む森:人形と写真を展示します
 GrowHair

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■映画と夜と音楽と…[380]
何者かになりたかった…あの頃

十河 進
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20080627140200.html >
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●発売を待ちかねていた「小説現代」七月号

ちょうど一年前には、「小説宝石」7月号が書店に並ぶのを待っていた。大沢
在昌さんとの対談「ハードボイルドがなければ生きていけない」が掲載になっ
ていたからだ。今年は、「小説現代」7月号の発売を待っていた。第54回江戸
川乱歩賞の選考経過が掲載されているからである。

今年の受賞者がふたりだということは、すでに知っている。最終選考に残れば
連絡があることも聞いていた。最終選考に残ったのは5篇だったという情報も
入っていた。しかし、僕が応募した作品がどこで落ちたのかは、選考経過を見
なければわからない。一次選考も通らなかったのか、二次選考くらいまではい
ったのか…。

乱歩賞あてに原稿を送ったのは、締め切り直前の1月下旬だった。それから受
賞作の発表があった5月の半ばまで、もしかしたら受賞するかもという甘い夢
をときどき見た。そう思う反面、ダメだよなあ、きっと…という気分が襲って
くる。その繰り返しだった。しかし、最終選考まで残らないと、大沢在昌さん
には読んでもらえないのである。

小説を書こう、と久しぶりに火がついたのは、大沢在昌さんのひと言からだっ
た。昨年の5月末、対談の間に「ソゴーさんは、小説書かないの?」と聞かれ
た。「昔、書いていたんですけど…」と、僕は言葉を濁す。「最近は、年配に
なってからのデビューも流行ってますよ」と、大沢さんは笑った。

もう30年近く前のことになる。「文学界」新人賞に応募して、一次選考に通っ
た。小説のタイトルと名前が雑誌に掲載になった。それがどの程度のものかわ
からず、僕は有頂天になった。続けて応募したものは、一次選考も通過しなか
った。その数年後、三度目の応募作も一次選考は通ったが、もう自分の名前と
タイトルを見ても大して感激はしなかった。

文藝春秋社が出版している関係から「文学界」新人賞受賞作は、そのまま芥川
賞候補作になることが多い。石原慎太郎や丸山健二などは、「文学界」新人賞
受賞作でそのまま芥川賞を受賞した。だから、僕も「芥川賞候補まで70分の1
だった」などと、自分で慰めたりしていた。受賞作と落選作の質の差を無視し、
確率の問題だけで語っていた。

もっとも、僕は純文学だけをめざしていたわけではない。同じ文藝春秋社の
「オール読物」新人賞にも応募したことがある。「一五〇〇回の夜」というタ
イトルの作品で、これも一次選考は通ったが、さすがにエンタテインメント系
は応募作が多いらしく、選考を通った作品のタイトルと筆者名だけが数ページ
にわたって掲載されており、ガックリした記憶がある。

「一五〇〇回の夜」というタイトルは、日活映画「夜霧よ今夜も有難う」(19
67年)から借用した。これは「カサブランカ」(1942年)のリメイクなのだが、
石原裕次郎と浅丘ルリ子が印象的なセリフを交わす。「4年だ。ひと口に4年と
言えば短いが、朝が……」と裕次郎が言えば、ルリ子が「1500回、昼が1500回、
夜も同じだけあったわ」と答える。離ればなれになっていた恋人たちが、日々
を指を折る気持ちで数えていたのが伝わる名ゼリフだった。

その頃、僕が書いていた応募作は80枚程度の短編ばかりだった。枚数制限が80
枚だったからだが、80枚を書くのも僕としてはやっとだった。その後、応募は
やめてしまったけれど、趣味のように何かを書き続けてはいた。柴田編集長に
頼まれて「日刊デジタルクリエイターズ」に毎週コラムを書くようになってか
らは時間もなく、小説はまったく書いていなかった。

●応募作品を抱えたまま逡巡する漫画家志望の青年

確か「純」(1980年)という映画だった。主人公の純(江藤潤)が、漫画の新
人賞に応募する原稿を持ったままポストの前で逡巡するシーンがあった。恋人
(おお! 若き朝加真由美よ!)が純を励まし、投函させようとするのだが、
純は迷い続ける。その気持ちが、僕にはよくわかった。

「純」というシナリオが「キネマ旬報」に掲載されたのは、その映画を見るよ
りずっと以前のことだった。僕の記憶が正しければ、僕は浪人生のときに豊島
区立図書館で「純」が掲載された「キネマ旬報」を読んでいる。だとすれば、
1970年のこと。映画化まで10年近くかかったのだろうか。

「純」は不幸な映画だった。シナリオは売れっ子の倉本聡さんが、映画化のあ
てもなく書いた。純という青年の屈折した青春を描いた作品だ。純は電車の中
で痴漢を繰り返す。映画化された「純」は、その部分がクローズアップされす
ぎていたのか、倉本さんは「脚本・倉本聡」というクレジットを外すことを要
求した。

1980年に東映セントラルが配給した映画だから、僕はちょうど新人賞に応募し
ていた頃に見た。だから、漫画家をめざす純が新人賞への応募作の封筒を胸に
抱えたまま、迷い続ける姿に共感したのだろう。自負と不安…が交錯し、とき
に根拠のない自信にあふれたかと思うと、しばしば底なしの絶望に陥る。

純は、自分が何者なのか、自分が何になれるのか、不安なのだ。漫画を描き続
けていても、自分に才能があるのかどうかはわからない。夢はある。しかし、
その夢を追い続けるだけの確信はない。彼には恋人がいるが、その恋人の手さ
え握れない。彼は、自信がないのだ。宙ぶらりんの状態である。

そんな彼が電車の中では大胆に痴漢を続ける。しかし、僕はその痴漢シーンが
あまり好きではなかったし、女性の方からの視点がまったく欠落しているな、
と思いながら見ていたので、純に対して批判的ではあった。若さ故の不安…、
その発露が痴漢行為なのか、という疑問が脳裏から去らなかった。

結局、純の痴漢行為を目撃した恋人は去り、彼は自分の行為を自分で意味づけ
なければならなくなる。ラストは、戻ってきた恋人とのセックスが成就するシ
ーンだったと思う。純は、現実と向き合えたのだ。痴漢という卑劣な行為では
なく、女性の人格と対峙するまっとうなセックスができたことで、彼はもう迷
わずに漫画家をめざすだろう。そんなことを思わせる終わり方だった。

「純」を見てから30年近くの時間が流れた。僕は会社勤めを33年続けてきた。
30年以上も仕事を続けていれば、仕事が自分のアイデンティティを形成する。
仕事には責任を持つ、どんな場合もいい仕事をすると、実践は伴わないかもし
れないが覚悟はできた。そして、若い頃ほど、自分の夢に拘泥することはなく
なった。

●「もう一丁あればジョン・ウーができる」という殺し文句

しかし、僕は久しぶりに応募原稿を出しに郵便局へいき、30年前の気持ちを思
い出していた。あの頃、僕はもっとせっぱつまったような気分だったなあ、と
思う。いつも、何かに追われているようだった。下手な小説を書いて自惚れる
と同時に、自分が何の価値もない存在のような気がした。

あの頃の不安感は、今はもうない。将来への不安のようなものも、いつの間に
か消えてしまった。あの頃の僕が将来と思っていた時間は、今の僕にとっては
過去になった。20代の僕が、50代半ばになった僕を想像できたはずがない。し
かし、50半ばを過ぎた僕は、20代の自分が何を思っていたかわかっている。あ
のせっぱつまったような気分は、現実のものとしては甦らないが、その気分だ
けはわかっている。

今の僕は、もう人生の第四コーナーをまわった気分だ。現実には、まだ10年は
現役で仕事をしなければならないだろうし、子供たちの将来もまだまだ心配だ。
しかし、どこかに余裕のようなものが生まれている。焦っても仕方がないし、
諦めても意味がない。毎週、コツコツと書いていたコラムが本になることもあ
る。まさか50半ばで本を出すことになるとは、月並みな言い方だが夢にも思わ
なかった。

だから、大沢さんのひと言で「もう一度小説を書いてみよう」と火がついた自
分を楽しんでみたくなった。久しぶりの情熱だった。その高揚した気分にのっ
てみようと思った。そんな火がついた僕を、新宿ゴールデン街の酒場「深夜+
1」カウンター部の匡太郎くんのひと言が、さらに煽った。

あれは、大沢さんと対談した少し後のことだ。「深夜+1」で日本冒険小説協
会特別賞の副賞である刻印の入ったコルト・ガバメントをもらった僕は、ずっ
とその拳銃を握ったままバーボンを呷っていた。すると、隣にいた匡太郎くん
が「ソゴーさん、もう一丁あるとジョン・ウーができますよ」と言ったのだ。

ジョン・ウー。香港ノアール「男たちの挽歌」(1986年)で一躍名をあげたア
クション映画の名手だ。今やハリウッドの売れっ子監督である。彼の映画には、
主人公が二丁拳銃を乱射しながら跳ぶシーンが必ずある。チョウ・ユンファも、
トム・クルーズも、ジョン・トラボルタも、ニコラス・ケイジも、みんな二丁
拳銃を撃ちながら跳んだ。

「でも、特別賞は絶対二度は獲れないでしょ。大賞を何度も獲った人はいるけ
ど…。そうなると大賞を獲るしかないよ。そのためには、冒険小説かハードボ
イルド小説を書いて出さなきゃ」と、僕はひとりで喋って自らを追い込んだ。
その時には、大沢さんのひと言で火がついた気分が燃えさかっていたのだった。

翌日の土曜日から、僕は書き始めた。スケールの大きな冒険小説は書けないか
ら、愛読する藤原伊織さんのテイストを狙ったビジネス・ハードボイルド(藤
原さんの「シリウスの道」のキャッチフレーズ)の路線にした。なぜか、スイ
スイ書ける。適当に書き始めた物語が勝手に動き出す。休日は、ほとんど自宅
に籠もって原稿を書いた。

調べものをする必要が出ると、まずネットで検索した。昔と違って、本当に便
利だった。業務用焼却炉について知りたくなって検索したら、いろいろなサイ
トがヒットした。昔なら、どうやって調べるんだと途方に暮れただろう。資料
本も何冊か読む。その資料がアタリだった。ある業界について詳しくなった。

3か月ほどで第一稿が完成した。手直しに1か月をかけ、僕の本の編集者である
水曜社の北畠さんに読んでもらった。北畠さんから「一気に読みました」と長
文のメールが届き、自信をつけた僕は日本冒険小説協会の内藤陳会長に厚かま
しくも原稿を渡した。会長は「500枚? 短いねえ」と言う。「だってミステ
リ書いたの初めてで、500枚も書いたのも初めてですよ」と、僕は言い訳をし
た。

会長は二度も読み込んでくれたうえ、ふたつのアドバイスをしてくれた。それ
に従って結末は修正したが、もうひとつの要望「どこかで、やったーと思わせ
てくれよな」については、手直しできたかどうかは自信がない。その最終版を、
年末に呑み友だちのIさんに渡して読んでもらった。「引き込まれましたよ。
でも、知ってる人の小説は評価がうまくできません」とは、年明けに会ったと
きのIさんの言葉だった。

さて、応募した小説はどこで落ちたのか、と思いながら、僕は6月21日の土曜
日の朝、たまたま出社する必要があったので、早くから開いている秋葉原駅構
内の書店で「小説現代」7月号を広げた。自分の名前が飛び込んできた。ゴチ
ック体の太い字だ。ということは、二次選考までいったのか?

選考の記事によると、応募作品は331篇、93篇が一次選考を通り、さらに23篇
が二次選考を通ったという。さらに三次選考で選ばれた5篇が最終候補作とし
て選考委員によって読まれ、2篇が当選作となった。僕の応募作は、23編の中
に残っていた。乱歩賞の副賞は1000万円だ。だとすると1000万円まで23分の1
だったのだ、と僕は思った。

しかし、乱歩賞は宝くじではない。確率の問題ではなく、質の問題である。当
選作と落選作には、天と地ほどの差がある。しかし、と僕は思う。まあ、そん
なところで順当じゃないのという穏やかで落ち着いた気分は、もしかしたら、
あの頃なりたかった何かになれたのかもしれない。

【そごう・すすむ】sogo@mbf.nifty.com
また、土日にエアコンの入れ替え工事で出社している。会社の周辺がいつもと
違うので、こういうのも何となく楽しい。土日に働き、週日に休むというのが
性に合っている気がする。電話もないし、静かだ。しかし、ムリだろうなあ。

●305回までのコラムをまとめた二巻本「映画がなければ生きていけない1999-
2002」「映画がなければ生きていけない2003-2006」が第25回日本冒険小説協
会特別賞「最優秀映画コラム賞」を受賞しました。
http://www.bookdom.net/shop/shop2.asp?act=prod&prodid=193&corpid=1 >
受賞風景
http://homepage1.nifty.com/buff/2007zen.htm >
http://buff.cocolog-nifty.com/buff/2007/04/post_3567.html >

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■Otakuワールドへようこそ![76]
幻妖の棲む森:人形と写真を展示します

GrowHair
http://blog.dgcr.com/mt/dgcr/archives/20080627140100.html >
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深い深い森の奥、冥(くら)い水の流れるところに、幻妖が棲むという。人間
界と地続きでありながら、決して人を寄せつけないその地は、ただの鬱蒼とし
た森と変わりないように見えて、何かが違う。支配する法則がまるで異なり、
怪異な現象が日常的に起き、妖術が飛び交う。

そんな森に棲む幻妖とは、どのようなものだろうか。妖精や精霊のように穢れ
なく神々しいものなのか。鬼や天狗のように荒々しいものなのか。死霊や変化
のようにまがまがしいものなのか。いやいや、ひょっとしてもしかすると、き
ゅんきゅんにキュートであったり、妙になまめかしくエロティックであったり
はしないだろうか。

そんなコンセプトの下に、人形とその写真を展示することにしました。
三人の創作人形作家、橘明、林美登利、八裕(やひろ)沙(まさご)が
それぞれのイマジネーションで制作した冥き水の森の住人たちを展示します。
それと、制作者が深い森に連れていった人形をGrowHairが撮った写真も。
 会期:10月23日(木)〜11月1日(土)
 時間:平日12:00〜19:00 土日12:00〜17:00
 会場:ヴァニラ画廊(東京都中央区銀座 6-10-10 第2蒲田ビル4階)
 < http://www.vanilla-gallery.com/index.html >

慣れないことで、なにかと至らぬ点はあるかもしれませんが、渾身の力作が
並ぶ予定です。ご興味があれば、どうぞ足をお運びくださいませ。

●人形に導かれるように話が進む

グループ展を開こうと決めたのは、実は、一年以上前のことである。まるで人
形に導かれるように、話がほいほい進んでいった。私の浅い人形遍歴を振り返
ると、中学時代にうっかり無意識下で博多人形に恋をしてしまったということ
があるが、近い存在としてはっきりと意識するようになった始まりは「ローゼ
ンメイデン」である。真紅を脳内妻に迎え、左手の薬指に「誓いの薔薇の指輪」
をするようになったのは、3年前の4月29日(金)、新宿のロフトプラスワンで
「ローゼンメイデン決起集会」が開かれたときのことである。その前日、浜松
町へドールショウを見に行ったのは、作者であるPeach-Pitがパンフレットの
表紙の絵を描いているという理由からである。そのときに創作人形を出品して
いる美登利さんと出会っている。

美登利さんは、非常にリアルな幼女の人形を作る、私から見ればひれ伏したく
なるほど高いところにいる人形作家なのだが、気取ったところが少しもなくて、
いつもさらっと本音をぶっちゃけてくれる、楽しい人である。ぜひ撮らせてく
ださいという私のお願いを快く聞いてくれて、5月27日(金)にはバラ園で撮
らせてもらっている。その写真を喜んでくれて、その後もちょくちょく撮らせ
てもらえているのは、それまでコスプレ写真を中心に撮ってきた一介のカメコ
としては光栄身に余る感じ。真紅の導きと考えたほうがむしろ合点がいく。

最初に行ったドールショウから二年後、去年の4月29日(日)の開催のときに
は、美登利さんの隣で展示している八裕さんと初めて会う。吉田良氏の主宰す
る人形教室「ピグマリオン」の生徒として知り合ったそうである。そのとき、
都内の日本家屋で美登利さんの和装人形を撮らせてもらえる話が進行していた
ので、八裕さんも誘う。6月2日(土)に二人の人形を撮影。帰りがけに近くの
喫茶店で遅めの昼食をとり、雑談している中からグループ展をやろうという話
が持ち上がったのである。

ところで、そのときに撮った美登利さんの和装人形の写真は、マリア書房の
「GRAPHIC クラフトアート人形 13」(2008/3/1)に掲載されている。A4変型
サイズ、224頁の豪華な年鑑で、7,980円もする。マリア書房のウェブサイトの
書籍紹介には「固定ポーズ・球体関節・ビスクドール等様々なジャンルの人形
が一堂に会する誌上展覧会。活躍中の人形作家200名を厳選掲載」とある。も
ともとこれに応募するつもりがあると聞いてはいたが、ろくに話を聞かずにほ
いほい撮ってる私のおっちょこちょいぶりは、今振り返ると冷や汗が出る。人
形自体が採用基準をクリアしているのは、私からみれば当然として、写真でよ
くボツにならなかったなぁ、と。

届いた本を見ると、非常にうまく製版してくれていて、まるでプロが撮ったみ
たい。つい最近には、高田馬場の芳林堂書店に置いてあるのを見つけた。特に
写真の学校に通ったわけでもなく、写真雑誌に投稿したって入選した試しもな
いのに、いきなりこんないいところに掲載とは、やはり持つべきものは魔法の
使える妻である。

さて、展示会の会場選びで、美登利さんが特に希望したのは銀座のヴァニラ画
廊である。
http://www.vanilla-gallery.com/ > (見るときは、背後に注意!)

ヴァニラ画廊は、サイトでは特に明言していないけど、過去の展示の実績やこ
れからの予定を見ると明らかなように、エロスとフェティッシュをテーマとし
た作品を専門に扱う。例えば、去年の6月18日(月)〜6月30日(土)には、
「人造乙女博覧会」と題して、オリエント工業が30周年記念に、男性向けの実
用的な人形を展示している。

ぜひヴァニラ画廊で開きたいという理由を美登利さんに聞くと、画廊のコンセ
プトと作品のコンセプトがよく合うから、だそうで。美登利さんは、正統派の
リアルな少女人形も作るが、空想世界から連れてきた異形の人形の制作にも意
欲的である。

「正統派のほうはどこの創作人形のイベントでも気軽に展示できるんだけど、
異形のほうはなかなか規制がきびしいのです。創作人形を展示できるイベント
で規模がでかくてなんでもありなのはデザインフェスタと、出品したことはな
いけどGEISAI、ワンフェスくらいかなぁ。小規模なのをいれると他にもいろい
ろあるとは思うんだけど。そういうわけで、ちょっとそういう規制を気にせず
人形を展示したいなぁと思ったのでした。で、そっちの方向なら、本場のヴァ
ニラ画廊さんでできたら言うことないよなぁと思いました」とのことで。

「ピグマリオン」の生徒として八裕さんと知り合いだった橘さんを引っ張り込
んで、四人展とする。8月11日(土)、それぞれポートフォリオを用意して、
雁首揃えて「ヴァニラ画廊」へ。翌年の11月に展示会を開きたい旨を言い、作
品の趣旨を説明すると、その場で交渉成立。やっほう!──という経緯で、開
催が決まった。

●異形萌え?

一口にエロと言っても、その意味するところは非常に広く、漠然としている。
これまで脈々とヴァニラ画廊に展示されてきた作品は、どれもこれもみな、そ
れぞれにエロい。しかし、それらはエロという単一の概念でひとくくりにして
片付けることのできないほど、それぞれが際立った個性を放ち、なにかを語っ
てきた。では、その流れの中にあって、われわれ四人はいったいどんなエロを
提示するのか。ここはひとつ言語化しておく必要があるのではないか。

それと、もうひとつ。エロと聞いて、たいていの人が反射的に思い浮かべるイ
メージが高貴か低俗かといえば、どうしたって低俗の側に振れざるをえないで
あろう。確かに、本能的な欲望を満たすために、ただの需要と供給の関係で取
引され消費されるにすぎない露骨なものは、分かりやすすぎて、芸術的な観点
からすると、面白くもなんともない。それは、低俗と呼んでいい。

そっち方面の市場では、インターネットの普及であんな画像やそんな画像がい
くらでもタダで入手できるようになったこともあり、まさにインフレ状態、商
品価値が暴落しているという。ではそういうものと一線を画する芸術としての
エロとは何だろう。やはり、いっしょくたにされないためにも理論武装は必要
なのではなかろうか。

三人に問いかけてみると、驚くべきことに、異口同音に返ってきたのは、次の
ような答えである。「むじゅかちーでちゅー。ばぶばぶ……」。あ、やっぱり
芸術家に課せられたのは、作ることであって、論じることではないですな。じ
ゃ、ここはひとつ私が考えましょう。えーっと……。むじゅかちーでちゅー。
ばぶばぶ。終了。

6月21日(土)に打合せで銀座に集まり、案内状の文言について5時間ほど議論
した。そのとき出てきたのは、人は多かれ少なかれ変態だよね? という仮説。
そして、人形作家は多かれ多かれ変態だよね? という仮説。たとえば、人形
に恋するということ。ギリシア神話に登場するキプロス島の王ピグマリオンは、
現実の女性に失望し、みずから彫刻した理想の女性ガラテアに恋をする。彼の
憔悴していくさまを見かねたアフロディーテが、願いを聞き入れ、彫像に生命
を与える。ピグマリオンはそれを妻に迎える。

それと、コッペリアの話も出た。バレエ作品であるが、土台になっているのは、
ホフマンの「砂男」である。大学生ナタナエルは、スパランツァーニ教授の娘
オリンピアに恋をする。しかし、オリンピアは、実は、教授が作った自動人形
なのである。窓辺にいるオリンピアの姿は、望遠鏡を通じてのぞき見ると、な
ぜか生き生きとして、魅力的に映る。ナタナエルは、オリンピアを人間と信じ
て夢中になる一方、婚約者のクララに対しては、「この生命のない、呪われた
自動人形!」と罵倒し、正気を失っていく。

人形に恋をすること、その裏には、ちょっと光を当てるのが憚られる、いろい
ろなどろどろしたもの〜狂気と言ってもいいし、変態性欲と言ってもよいが〜
が見え隠れする。成長しないことから連想されるのはロリコン、ペドフィリア
の類だし、生命のなさからはどうしたってネクロフィリア(死体愛)に行き着
いちゃうし、意思の疎通があるようでいて実は自分の内面の投影・反射にすぎ
ないという点では、自閉性にも思い当たる。

まあ、下手すると、いわゆる「アブナイ人」と紙一重のところにいるわけで、
うっかりタガが外れて社会に迷惑をかけたりしないのは、自分の変態性から目
を逸らさずに、しっかりと対峙し、冷静に自己分析しているからであり、勇気
を要する真面目な姿勢と言えよう。このようなスタンスから出てきたキーワー
ドは「ピュアな変態」。これが、議論の中心に据えられた。ただし、これをキ
ャッチコピーのようにして前面に押し出すのもアレなので、裏に隠されたテー
マとして脈づくことになる。

多分、今回の展示に一番親和性のある変態性はディスモーフォフィリア
(dysmorphophilia)であろう。畸形に性的興奮を覚える倒錯者。畸形偏愛者。
まあ簡単に言うと「異形萌え」である。

●沢辺までは片道40分、歩くしかない

去年から今年春にかけて、幻妖の棲む森のイメージに合う風景を求めて、あっ
ちへこっちへとロケハン(撮影場所探し)に行った。11月に手術を受けるまで、
左目が白内障でほとんど見えていなかったので、あんまり活発には動けなかっ
たが、それでも、八裕さんが赤い河童を作ったと聞いて、9月23日(日)には
遠野へ行ってみたりもした。

思い描いているのは、百名滝でもなければ温泉宿でもキャンプ場でもないので、
行楽ガイドはまるで参考にならない。どうも行楽ガイドって、見てると、旅す
ることが工業製品を買うのと同質なことのように思えてきて、好きになれない。
実業之日本社「源流を歩く〜関東近辺 川のロマンを求めて」(1998/05)が、
すごくいい。テーマがよく、俗化されていないモデルコースの選定がよく、歴
史にも言及して各地の特徴を伝える文章がよく、載せてる写真がいい。

4月13日(日)にロケハンに行った、山奥の沢が、イメージにぴったりだった。
申し訳ないのですが、場所は伏せさせて下さい。1月2日(水)と1月19日(土)
にそっちの方へロケハンに行っているのだが、二度目に行ったとき、密漁者が
いないかどうか監視して回るレンジャーの方がいたので、こんなイメージのと
ころはありませんか、と聞いてみたら、教えてくれた場所である。そうやって
やっとたどりついた場所なので、もったいなくて、言いたくないんです、すい
ません。

麓の駅に着いたときは、雨が上がったばかりでどんよりと重苦しい天気。バス
で登っていくと、霧の中へ突っ込んでいく感じで、視界が一気に悪くなる。終
点でバスを降りてからは、山道を歩く。こんな天気の日に一人で歩くのは不安
だが、霧のまいた針葉樹林の眺めは神々しく、感動的だ。沢辺に降りると、ま
さに求めていた通りの景色だった。深い森を緩やかに流れ下る小川。どこまで
もどこまでも続いている。水しぶきのせいか、倒木も岩も瑞々しい色の苔で覆
われている。苔の喜びの大合唱が聞こえてくるようだ。私の中で勝手に「スピ
リチュアルの森」と名づけられた。

ここ、景色は理想的なんだけど、人形のロケ撮りにはひとつだけ難点がある。
遠いのだ。沢辺に出るまでに徒歩40分。往きが登って下るなら、帰りも登って
下るで、やっぱり40分。どうしようかと三人に相談すると、撮ってきた写真が
すごい説得力で、ここなら大変な思いをしてでも、
ぜひ行きたい、ということでまとまった。その写真はこちら。
http://www.geocities.jp/layerphotos/Waterside080413/ >

いちおう、4月27日(日)に近場へも行ってみた。山なら東京都にだって、あ
る。景色として10%引きぐらいでも、行く手間が半分だったら、差し引きプラ
スかも、という損得勘定が働いたのだが。.……ぜんぜんだめ。沢の流れに沿
って黒いパイプが引かれていたり、何かの作業の後のネットやらシートやらが
放置されていたり、かつてはぴかぴかであったであろう成金趣味丸出しの別荘
が朽ち果てていたり。なんか、きたならしい。避けて撮れば撮れなくはないだ
ろうけど、なんか、気分が出ないんだよねー。却下。

一日で三体撮るのは無理だと気がつき、二回に分ける。5月1日(木)には八裕
さんちの人魚、5月6日(火)には美登利さんちの天使と橘さんちの妖精。第一
弾の日は、いい具合に薄曇り。二人とも大荷物抱えては、40分ではとてもたど
り着かず。沢辺に降りたところで、それ以上進む気力が起きず、そのあたりで
撮る。霧がまいていたときに比べれば神秘感は薄れたが、けっこうよく撮れた
と思う。
http://www.geocities.jp/layerphotos/Waterside080501/ >

困ったのは第二弾だ。五月晴れとはまさにこのことを言う、ってぐらいカラッ
と晴れてくれちゃったのである。もう、スピリチュアルの森、台無し。陽気で
さわやかなハイキングの森だ。木漏れ日で緑色にかぶるし、背景が明るすぎて、
重みが吹っ飛んじゃうのだ。大変な思いをして来ているので、撮らないという
わけにもいかず、撮ったことは撮ったのだが、内心は、うわーだめだーどうし
よー、だった。それが、3時を過ぎて、太陽が山の後ろに隠れて直射日光が射
さなくなると、にわかにいい雰囲気になってきた。暗くて撮れなくなるまでの
一時間ほどが勝負だった。後で写真を見てみると、この時間に撮ったのがなか
ったら、ほぼ全滅だったよ。
http://www.geocities.jp/layerphotos/Waterside080506/ >

おまけ。メイキング・オブ・人形写真。
http://www.geocities.jp/layerphotos/Making08/ >

10月の展示に向けて、人形制作と写真撮影は、まだまだ続きます。

【GrowHair】GrowHair@yahoo.co.jp
カメコ。NOVAに復帰! (株)ジー・エデュケーションが引き継いで営業を再
開したNOVAだが、高田馬場校がオープンしたというので行ってみた。以前は芳
林堂の上だったのが、近くのビルの四階の狭いフロアーに引っ越している。会
員証は手書きだし、コスト削減は歓迎。頼むからまた潰れたりしないでね(←
懲りてない私)。旧NOVAへの債権分と釣り合うまでは、受講料75%引き。つま
りは、古いチケットがそのまま使えるのとほぼ同じこと。がんばって消化すれ
ば、損はしないのだ。久々に会う人、再会を喜び合う。ところで、あの大きな
NOVAうさぎはいなくなっている。ドナドナされちゃったのか?

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■編集後記(6/27)

・昨日、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト「Mitaka」がMacintoshで
見られないと泣いていたら、3人の読者から、OSX 10.3以降の環境で動作する
ように移植されていると教えてもらった。ありがとうございます。「Mitaka」
をベースに、使い勝手や機能の向上を行った派生版「Mitaka Plus」です。/
ご近所でよく見かける「お年寄り」が二人。四つ角のおじいさん。元現場監督
みたいな風貌で、自宅の外壁に沿って組み上げた植木や花の棚の手入れがお仕
事らしい。いつも水をやったり、ハサミを入れたり、腕を組んで眺めたりして
いる。その一角はある意味アートである。そしてどこの家の方か知らないが、
いつも屋外で何かを見ているおばあさん。朝7時前に犬の散歩に出るが、ほぼ
毎日、どこかで出会う。腰を伸ばしてすっくと立っている。工場の塀際から中
をじっと見ていたり、橋の上から川を眺めていたり、日中でも思わぬ所に一人
で立っている。会釈はするが話したことはない。なにか事情があるのか、たん
に外を出歩くのが好きなのか。でも、なにを考えているんだろう。……ここま
でに、重大な誤りがあることがおわかりだろうか。それは「お年寄り」という
言葉である。新聞の古井由吉さんのコラムで、「年寄り」と「老人」の違いを
知った。「年寄り」とは、高齢者本人あるいはその身内が口にする、高齢者サ
イドの謙譲をあらわす言葉で、「うちの年寄り、おたくの御老人」が正しい言
葉の使い方で、「老人」が尊称。「よその老人を『年寄り』と、勝手に成り代
わってへりくだっておいて、それに『お』の字をたてまつるとは、慇懃無礼も
いいところではないか」「今の世の中があれこれ老人を保護するようなことを
口にしながら、じつは老いということを言葉の上でも避けているしるしである」
と書かれていて、なるほどなあと思った。それでも、「お年寄り」のほうがソ
フトでいいような気もする……。後期高齢者、というのも無神経もいいとこの
言葉だが、この医療制度はいわれているようにとんでもない内容なのかという
と、実はそうでもない。広報が不親切、お粗末だったから招いた混乱だと思う。
裁判員制度の広報の方がはるかにうまい。内容は問題だが。でも、裁判員制度
PRのボールペン、実に書きやすく愛用しているんだなあ。いつも文房具店で同
型のボールペンを探しているのだ。               (柴田)
http://orihalcon.jp/mitakaplus/ >「Mitaka Plus」

・結局PDFで1枚ずつスキャンし、iPhotoに自動登録(スキャン後に使用するア
プリとして登録)させるようにした。一気にスキャンさせている今は、PDFブ
ック化やイベントでのブラウズはあきらめて必要に応じてアルバム化すること
にした。OCRするかどうかは不明、というか仕事書類以外はやらない気がする
けれど、書類だけYepで管理するようになるかもしれない。いくらiPhotoが優
秀だといっても、ジャンル別(仕事、趣味、私用、雑誌バックナンバーなど)
に分けておいた方が後々楽そうなので、オプションキーを押しながらiPhotoを
起動して、ジャンル別ライブラリを作成。ScanSnapする前に登録したいライブ
ラリを立ち上げておけば、自動的にそこに追加されていく(でなければ最後に
使ったライブラリに追加される)。ScanSnap以外からのものは、手間はかかる
が個別に表示し、プリント時のダイアログボックス左下にある「PDF」から
「PDFをiPhotoに保存」を選べば良いのだと気付いた。ドラッグ&ドロップで登
録できたらいいのになぁ。Yepをインストールすれば、同じようにYepへも送れ
る。たとえばオンラインショッピングをして、「受付番号の入ったこの画面を
保存しておいてください」画面をiPhotoに送っておけば、他の書類とともに一
元管理できるのだ。iPhotoのライブラリはひとつのファイルだから、肥大して
いくのはちと不安ではあるが、元PDFを残す選択もできる。/Mac版付属の
「ScanSnap Manager」とサイトからダウンロードできる「ScanSnap Manager」
の違い。設定を保存できないのだ。最後に使った設定は保存されるが、書類の
時と雑誌の時とでは解像度変えちゃおう、などと考えるならば、気軽に設定が
切り替えられるMac版ScanSnapを買う方がいい。このドライバはもう少し設定
が細かくできれば言うことないんだが。いちいち仕様を見に行って、えーと
「スーパーファイン」が300dpiで〜などと調べるのは面倒だったりする。Mac
版には本体より高いAdobe Acrobat Proffessional(Windows版はStandard)が
ついてくるので、持っていない人にはかなりお得。もう少し待てば最新版の9
がつくかも。しかーし、名刺をOCRするなら、専用付属ソフトがついてくる
Windows版が便利なんだよなぁ。             (hammer.mule)
http://scansnap.fujitsu.com/jp/product/s510/specification/ >
ノーマルは150dpi

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