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中国内陸の省都の大学に招かれて単身赴任、題材を「中国」に変更。「お客さまーっ!」とビザの申請者に叫ぶ麻布の中国領事部に先ず仰天(2006/02/26号)。伸び盛りで目が離せない中国の実相を内側から伝えます。著者の備忘録でもあります。

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2008/07/27

中国人の謎の日本語学習熱 (042)

「追われる日本、追いつく中国」

━ 日本語教師のメガネを通して見る中国 ━

中国人の謎の日本語学習熱 (042)

 中国で不思議に思うのは、意外な日本語学習熱だ。

 2年前、ここへ初めて来たときのことを思い出す。
初体験の中国へ大学の日語教師として赴任、省都だとは知りながらも、
日本人は自分だけかと、勝手に想像して孤立感を深めていた。やがて、
市内の公園で毎週土日に開かれる「日本語コーナー」に出入りすると、
他の大学にも日語学科があると知り、「外教」といわれる日本人教師
だけでも、20人近くいることを知らされて大いに驚いたものだった。
そして、ちょっとガッカリした気分にもなった。ここ省都に限っても、
日本語を学ぶ現役の学生数は、少なく見積もって2千人はいるだろう。
その他に留学や研修帰り、独学した人も多数いる。

 事実、多くの大学や専門学校に日語学科がある。
この地方都市も、4年制の大学が4つや5つはある。わたしの大学は
「財経」の冠がつく。同じように、師範や理工、農業、交通を名乗る
大学があり、名前から単科大学だと思わせ、語学と関係がないように
想像する。ところが、どれも外語学院(学部)を持ち、日語学科に加え、
必ず英語学科も併設している。英語は需給が活発なだけに、学生数で
日語科を引き離している。しかし、需要が多そうなロシア、フランス、
ドイツ、韓国語などがないので、日本語の意外な存在感に驚かされる。
よくいわれる嫌日や反日感情と結びつかないのだ。

 しかも、学習の場が豊富に提供されている。
中国の高等教育には、日本の4年制大学に相当する「本科」と短大や
専門学校に相当する「専科」があり、「大学生」といっても3年制の
大学で学ぶ専科生もいて複雑だ。中国にも大学入試の統一試験があり、
成績が悪いとランクが低位の大学にまわされる仕組みになっているが、
高低に関わらず、ほとんどの大学が、例外なく日語学科を設けている。
恐らく、わたしがいるこの地方都市だけの特殊な現象ではないと思う。
日本留学や通訳業の経験者などの有志が集まり、既存の大学のなかに
4年制の日語学科を設立した例もある。各学年80人もの学生を集め、
1つのビジネスとして立派に成功しているのだから面白い。とはいえ、
今や経済的に豊かになった中国、大学への進学希望者の増加傾向から、
その勢いを受けて教育が極端に産業化し、粗製乱造も否めない状況だ。
入学時に約束された卒業証書が卒業目前になってもらえないと分かり、
中国には珍しく、学生が抗議の座り込みをしたなどという話を聞いた。
学歴社会の中国、学生にとっては死活問題だ。

 日本の研修制度を当て込んだ専門学校もある。
正確には「研修・技能実習制度」で、中国人による利用度が一番高い。
縫製技術など日本で2年間の研修を積み、さらに1年間の実習を経て
帰国、最新技術を母国に移転してもらうという趣旨の制度だ。しかし、
前にも書いた通り、実際には換骨奪胎、日本側は、慢性的な労働力の
不足を補う格好の手段として利用し、中国側は、この制度でまんまと
日本へ渡り、給料を貯めて帰国すると家が建つというほどの、稼ぎの
手段になっている。この制度で研修生になるには、予め日本語の会話
能力を養うことが条件になっている。そこで繁盛しているのが、旅遊
専門学校だ。日本語を教え、成績がよい学生を選抜し、研修生として
日本のホテルや旅館へ派遣する。当の学生は、昼夜なしの重労働とは
知りつつ、憧れている日本で稼げるというインセンティブが強く働く。
しかも、就職難の中国の若者には、「家が建つ」と聞いては逃せない。
かくして、日本語が稼ぎを生む卵にされるのだ。

 日本の研修制度は、貧しい農村ほど人気が高い。
この地方都市にも、国営の派遣専門の会社が数社あり、近郊の村から
中卒や高卒の若い健康な男女を集め、3ヶ月間で日本語の基礎会話を
習わせて日本へ送り出す。派遣条件として、日本側から厳しい内容が
突きつけられる。一番恐れられているのは、日本の職場から脱走して
雲隠れしてしまうことだ。そんな例が過去に数え切れないほどあった。
未然防止のために「身代金」を積ませ、無事に帰国すると返すそうだ。
日本で受ける研修分野で、過去2年間の実務経験があるかも問われる。
職場は、父ちゃん母ちゃんの小規模な経営もあり、片言の日本語では
不十分とされて厳しく仕込まれる。わたしの学生のなかにも、ここへ
日本語を教えに行く者がいるが、大手では日本人の講師を雇い、年間
500人もの男女を送り出し、日中間の立派なビジネスに育っている。
チャイニーズドリームに、何と日本語が一翼を担っているといったら
大袈裟に聞こえるが、嘘とはいえない。大学の英語学科よりも、日語
学科を卒業したほうが就職に有利という考えも、前からいわれている。
経済的理由から、とりわけ日本語が注目されるのだ。

 中国人の日本語学習熱を不思議に思う理由は何か。
やはり、よくいわれる嫌日や反日感情との裏腹の現象に気づくからだ。
しかし、中国で暮らして2年、たまたま入った店などで日本人という
正体が露見したことが何度もあったが、不愉快な扱いを受けたことは
一度もない。だからといって、中国人から嫌日や反日の感情が消えた、
と考えるのは無理がある。儲ける話になると、態度を変えて迎合する、
と単純に考えるのも無理がある。ひょっとして、わたし自身が、古い
過剰な警戒感を抱えたまま中国人とつき合っているためかも知れない。
日語老師を経験したというのに、謎の答が出ない。

さぶみごろう

つづく

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