転換期の中国官製メディア (040)
「追われる日本、追いつく中国」
━ 日本語教師のメガネを通して見る中国 ━
転換期の中国官製メディア (040)
最新のネット技術が、情報封鎖の壁を取り払った。
数ヶ月前から、日本の地上波をパソコンで見ている。
日本語教師の同業が、受信ソフトをわたしのパソコンに入れてくれた。
彼の日本の自宅のチューナーを系由、全チャンネルの番組がネットを
伝ってリアルタイムで中国まで届く。意外に鮮明な画像に満足したが、
不鮮明な時間帯もある。彼の自宅のチューナーは約3万円、ソフトは
「SLING・PLAYER」なる優れもの。しかし、惜しいことに
ラインが一本だけだ。彼に優先視聴権があり、彼が自分のパソコンで
見ている間は、わたしは見られない。彼の留守宅は、地方都市にあり、
そこで流れる放送をモニターしているので、NHKをはじめ、情報の
ソースが、ローカル色に富むという珍しさもよい。
こんな芸当は、つい最近まで想像もできなかった。
海外で日本発の地上波を見る、しかも、中国で見るなどということは
あり得なかった。中国の取り締まり当局も、対策を打ち出していても、
ネットの著しい進化には抗し切れない現状だろう。ホテルに泊まれば
日本の衛星放送をやっている。同業の一人は、宿所のベランダに直径
2メートルもありそうな大型パラボラアンテナを置いてNHKのBS
衛星放送を見ている。つまり、情報封鎖は、半ば解かれた状態にある。
ネットの急速な普及により、海外の有害情報を抑える手がもはやない。
野暮な取り締まりなどしていられない時代になった。
中国の情報封鎖は、確かに有名無実となっている。
大学の上級生になると半数以上がパソコンを持ち、小難しい仕掛けが
なくても日本のネット情報を自由に閲覧できる。しかし、ここへ来た
当初のこと、フリーエンサイクロペディア「Wikipedia」が、
何故か、日本版の「Google」からだとアクセスできない現象が
あった。読者の自由参加の辞典だけに、反中的な定義づけを嫌っての
工作かと想像したものだ。しかし、最近、ここの学生の日本語の卒業
論文から「Wikipedia」の丸写しを発見した。彼女の選んだ
テーマは夏目漱石、赤ペンを入れようがない正確無比な文章を怪しみ、
一部分を拾って検索したら「Wikipedia」からのものだった。
ネット上での日中の情報格差は、ゼロに等しい。
学生は、ネットのニュースで日本語を学ぶ。
耳を訓練するには、原稿が並び、動画も出るNHKとTBSのウェブ
ニュースが役に立つ。賢い学生なら、日中間の報道姿勢のギャップの
大きさに気づくのは必然、著しかった例が先般の「チベット」だった。
中国国営のCCTV(中央電視台)は、暴動の被害の大きさばかりを
繰り返し報道し、「ダライの悪質な謀略」と伝えた。一方で、日本の
報道から知る世界の趨勢は、中国への強い怒りや非難だった。彼らが
反発心を強め、愛国心を過激に高揚させかねない勢いだった。中国人
同僚は「漢族の大量の移住が、チベット族の危機感を強めている」と
解説した日本のニュース番組を聞いて無性に腹が立ったといっていた。
日本語のネットが、ギャップの核心を浮き立たせる。
しかし、中国人も、真実を問う術を忘れていない。
学生たちは、四川大地震の義援金について黒い噂を聞いて怒っていた。
解放軍が支援物資を横取りしたとか、紅十字の銀行口座の資金が行方
不明になったとか、ちょっと度を過ぎるところが中国だ。このような
疑惑を深める情報は、問題が拡大しない限りCCTVも取り上げない。
10元以上の寄付金を学校当局から要請されたここの学生は、本当に
罹災者に届くのかどうか、疑問を持ちつづけている。行列をつくった
献血も、換金されるなど、本来の目的がすり替えられた疑いが強いと
いう。多くはネット情報から得るらしいのだが、疑心暗鬼が消えない。
CCTVの官製報道に、少々の不信を抱いてもいる。
わたしの学生には、メディア不信を書くものがいる。
3年生に四川大地震の感想を書かせてみた。多くは、テレビの毎日の
報道で知る悲惨な現実に涙を流し、各界の迅速で果敢な救援支援策や
中国人民の固い団結心を知るや、深く感動して一層の愛国心を強める。
「中国人に生まれたことを誇りに思う」と書いた学生もいた。しかし、
数人の学生は、以下の作文のように覚めた目で事態の推移を見ている。
実は、3年生には、日本のTVの録画を浴びるほど見せ、メディアの
客観報道の大切さをくどいほど説いた。そんな影響もあっただろうか。
微妙におかしい表現があるが、そのまま引用する。
以下引用:
震災
2008年は中国にとって大事な一年であるが、多災の一年である。
ちょっと「これからは順調かな」と思っていたところ、五月十二日の
四川大地震はまた中国全体を驚かせた。
ごく悲惨な場面だ。
そういう時、中国人の団結の力の大きさと強さが分かる。
みんなは震災支援にできることを全力でする。生活必需品や血液や
お金など捐献したり、いろいろな活動をやって、
「中国がんばろう!」と応援したりして、テレビ番組にも感動的な
場面ばかり映し出されている(原文:しまう)。
毎日緊張感で埋まっていた。
まるで自分が地震に遭ったように、みんなは悲しい気持ちをよく
分かっている。中国人の私も深く感動させられた。でも、中国の主な
メディアはみんなの正義感や同情心を呼び出す番組しか放送して
いなかった。それは変ではないか。
地震の予測はどうしてなかったのか、倒れた建物の質の問題は
追究しないのか、国民が捐献したお金は確かに救済に使われて
いるのか、いろいろな問題がどんどん出てくる。でも番組にはない。
地震は悲惨であるが、国のメディアの不透明性はもっと悲惨であると
思っている。
以上引用
ネット技術は、急速に進歩してコストを下げた。
官製でない報道も、危ういところを持ちながら自由に横行する時代だ。
しかも、日本の地上波でさえ、中国で居ながらにして簡単に見られる。
正直な話、CCTVなどの中国の官製メディアは、見る気にならない。
ネット情報であふれる今、中国人も同じ感想を抱いているに違いない。
中国官製メディアが、大転換を迫られている。
さぶみごろう
つづく


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