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中国内陸の省都の大学に招かれて単身赴任、題材を「中国」に変更。「お客さまーっ!」とビザの申請者に叫ぶ麻布の中国領事部に先ず仰天(2006/02/26号)。伸び盛りで目が離せない中国の実相を内側から伝えます。著者の備忘録でもあります。

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2008/05/22

WHY抜きの中国地震報道 (039)

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「追われる日本、追いつく中国」

━ 日本語教師のメガネを通して見る中国 ━

WHY抜きの中国地震報道 (039)

 四川大地震の被害の大きさを知って声もない。

 ちょうどその時刻、1年生に会話を教えていた。
揺れを感じるでもなく、何も気づかずにキャンパス内の宿所に戻った。
夕刻になって珍しく日本のわが家から電話があり、大丈夫かと盛んに
聞く。中国南部で大地震が発生、TV報道などで大騒ぎになっている
というのだ。ちょうど帰宅した次男が、知人などからの問い合わせを
受けて電話してきた。中国のTVを見ると、確かに定刻のニュースで
地震を伝えている。震源地から170キロ離れた北京でさえ揺れたと
報道していたが、ここはもっと近い120キロだ。学生をつかまえて
確かめたが、その日の地震に気づいたというものは一人もいなかった。
高層ビルにでもいれば、気づいたのかも知れない。

 報道は、CCTV(中国中央電視台)が中心だ。
宿所で見るだけでも14チャンネルもあり、ニュースやドラマ、京劇、
科学、子供など、特徴を持たせた専門の番組を全国に向けて配信する。
全国の省や市などにも、その地域に密着した報道を担う地元局があり、
宿所のTVで見ると、近隣のTV局も入れれば50チャンネルに及ぶ。
しかし、何れの局も、例外なしに北京の政府によって運営されている。
つまり、国策に外れる報道ができない仕組みがある。

 2日目、終日地震だけを伝えるTV局が現れた。
ことの重大性から温家宝首相も現地に入り、被災者を見舞うとともに、
救助活動を行う軍や警察を叱咤激励して回った。彼の行動がつぶさに
報道されたのはもちろんだ。胡錦濤国家主席も追いかけ、北京政府が
重大事態をよく認識し、如何に対策を打とうとしているかを知らせた。
救助活動は山間部などで難航をつづけた。1週間を経過したところで
3日間に渡って喪に服すよう中国全土に通達が出た。大学の本部前の
掲揚台も、この3日間は反旗を掲げつづけた。この国旗掲揚だが、朝
6時半になると当番の学生たちが掲揚する慣わしのようだ。普通なら、
国歌の放送とともに上げるので、高らかな響きが宿所に伝わってくる。
ところが、ときどき、あの軽やかなメロディーが聞こえない日がある。
国旗は忘れないが、放送の方を忘れてしまうらしい。

 3日間、歌舞音曲も控えるようにとの通達も出た。
ドラマや京劇、子供向け専門局などは、地震関係の番組に切り替えた。
50近いTV局を巡回したところ、多くが番組を重複して流していた。
中には休止の局もあったが、同じく国営だからやり繰りは難しくない。
切磋琢磨する日本の放送局ではあり得ないことだ。

 1週間が経過した日、中国全土で黙祷が行われた。
発生時刻に当たるわたしの会話の授業でも、起立して全員で黙祷した。
TV局は、国内の黙祷の様子だけでなく、海外の中国大使館の様子も
たんねんに流した。喪に服す2日目、街のケンタッキー(KFC)に
入った。日中の合弁会社で働くある日本人のパソコンが壊れ、修復を
請け負った同業について行く途中、軽い昼飯を取るために寄ったのだ。
わたし自身は、この機会に合弁工場を見学したいという下心があった。
そのKFCでも、喪中につき音楽は流しません、と断りの放送をした。
服喪の意外な徹底振りが、印象に強く残った。

 ちょっと驚いたのは、TVで流した献金の風景だ。
軍関係者と思しき制服組が埋めるホール、衆目の中を一人一人が順に
100元札を10数枚ずつ献金箱に入れる。しかも、入れる瞬間には、
枚数を知らせるように札を扇形に少しずらす。恐らく、金額からして
グループ単位の献金と想像したが、真相は分からない。個人で行った
献金だったとすれば、彼らの献身に感服するほかない。企業の代表が
金額を書いたプラカードを掲げて舞台上に登場、司会者が金額を読み、
その度に観衆が拍手を送るシーンもあった。他人より少ない金額でも、
堂々とした態度を崩さないことにも感心した。政府の関係者と思しき
人々の献金風景では、むき出しの100元札ではなく、大型の白色の
封筒を入れるという方法だった。これなら、ケチな人も見破られない。
中国通の解説では、見慣れた風景との話だった。

 延々とつづくTVを見ていて強い違和感も抱く。
番組は、「抗震救災」「衆志成城」「万衆一心」「不屈不堯」「友愛
互助」「自強自息」と威勢よい。さすがは中国人と思うスローガンを
掲げている。CCTV英語版も、被災や救助の進行状況などを詳しく
ぶっつづけで報じ、海外の専門家も加わって善後策を熱心に討論する。
救助隊の決死的な活躍、医療体制や支援物資の充実、瓦礫の下からの
間一髪の救出劇など、結構を極めているのだが、そんな美談で満ちた
画像の影で、5W1HのWHYへの突込みが見事なほどすっぽ抜けて
いるのだから驚く。このような大惨事となれば、天災だけが原因では
ない。余計なお世話と中国人は怒るだろうが、日本のTBSの画像を
見ると、役人の事なかれ主義が災いして救助が遅れたこと、手抜きの
工事や改築を怠った校舎が崩れて多数の児童たちが死んだことなどを
現場で証言する人々が出てくる。国策TVである限り、触れたくない
負の部分とは思うが、中国の地震報道に隔靴掻痒を感じてしまうのだ。
愛国心を鼓舞させるばかりが、報道の使命ではない。

 涙、涙の感動は数々あるが、死者の映像が一切ない。
これも不思議でならない。最近の経験だが、バスから事故現場を見た。
横を通過する一瞬に判断したところでは、少年が、逆走して来た小型
トラックに轢かれたのだ。パトカーもすでに着いて警官が現場検証中、
発生から半時間は経ったはずにも拘らず、警官も野次馬も車体の下の
絶命した少年に、シーツや毛布をかける心配りもないのにショックを
受けた。中国人が遺体に無頓着かはよく知らないが、TBSが映した
黄色いシーツの列をなして並ぶ遺体の映像が、中国では一つも出ない。
見事な違いに、視聴者を欺こうとの意図かとさえ思う。

 日本の救援チームが1週間の活動を終えて帰国した。
海外からの一番乗りとして到着時の様子が映され、隊長への英語での
インタビューもあって、「ワークロード(疲労度)はどうか?」との
質問に「サンキュー」と感謝したので、一瞬だが司会者を困惑させた。
日本隊は16遺体を収容して終わり、生存者を救出できたロシア隊は
TVで気炎を上げた。日本隊も母子の遺体を捜し出したが、死後では
ニュース・バリューがないとされたのか、放映される機会はなかった。
「抗震救災」「衆志成城」の中、死に価値はないのか。

 中国の記者たちも節穴の持ち主ばかりではないはずだ。
四川大地震の裏に潜む、もう一つの真実を抉り出さなければならない。
それは、WHYを徹底的に追求しつつ、人災の所在を探り出すことだ。
「抗震救災」「衆志成城」の中で、勇気ある記者の出現を期待したい。
そのときに、忘れ去られたままの死者たちが浮かばれる。

さぶみごろう

つづく

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