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2008/07/14

週刊電藝469 [080714] アベ|マツモト|喜多

この記事を取り寄せる

■□ 週 刊 ■□weekly DENGEI magazine         [ウエブ電藝]
■□ 電 藝 ■□VOL.469   発行数:297 http://indierom.com/dengei/
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
┌ H E A D L I N E ────────────── '08年07月14日 ───┐

    日々のケダマ              : アベショウコ
    古今漫画夢現              : マツモト
    銀幕ナビゲーション           : 喜多匡希

└─────────────────────────────────┘



 日々の
 ケダマ   vol.18
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
     アベ ショウコ|だから飼い主は
           |贔屓してもいいんだという話
           |
 
  付き合いの悪い飼い主の家に育った猫の人付き合いが良くなるはずもなく、
 二匹の猫はピンポーンとチャイムが鳴るとびくっと怯えた顔をして、玄関を
 見る。テレビドラマのチャイム音でも玄関の方を見るくらいだから、「侵入
 者アリ」の警報音はばっちり刷り込まれているんだろう。
 
  年に何度かの来客時、臆病なのはヲザワの方。2〜3ヶ月に1回は来ている母
 に対しても、全く心を許さないほどだ。飼い主が同席していても姿すら見せ
 ない。私たちが旅行で家を空けるときにはいつも母に世話を頼むのだけど、
 猫缶を開けてやっても寄ってくるのはタクトだけで、タクトはここぞとばか
 りにヲザワの分も食べてしまうらしい。

  タクトが今のヲザワの年齢の時には、少なくとも母からは無闇に逃げなく
 なっていたし、ごく稀に友人が来たときも、2回目に会う相手なら「お前初め
 てじゃないな」と寄っていくくらいの愛想はあった。だから二匹の反応の違
 いは別に年の功というわけではないだろう。

  ヲザワの場合は、相手が誰であれ何回目であれ、飼い主がいようといまい
 と、とにかく無闇に怖いらしい。多少進歩したことといえば、以前は無理矢
 理客人の前に連れ出すと大暴れして脱兎のごとく逃げ出していたのが、今は
 そろりそろりと体を低くして、それでも走らずに隠れ場所に戻っていくよう
 になったことくらいだろうか。

  普段の傍若無人な態度からすると意外な気もするが、「内弁慶」という言
 葉もあるし、小心者ほど慣れた場所では態度がでかくなるのかもしれない。
 
  でもまあ、本当は小心者の「内弁慶」も、外とのふれあいが滅多にないこ
 の環境では「ほぼ弁慶」だ。飼い主の留守中に猫缶を二匹分食えるくらいの
 見返りじゃとうてい釣り合わないよ!と「内牛若丸」は言っているに違いな
 い。

                        ◎今月のケダマ
                          http://kat.cc/14cdf5

             ┌─────────────────────
         ◎writer|自分は中で猫が人間の生活を営もうと着ぐるみ
          profile|に入って奮闘している状態だと考えた方が、い
             |ろいろつじつまが合うんじゃないかと。猫にし
             |ちゃ上出来の人間っぷりです。偉いよ中の猫。
             | 
             |[電藝 掲載作品]
             |日々のケダマ(連載中)http://kat.cc/14a65f
             | 


         :*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*: 
                 ∵


 古 今 漫 画 夢 現
 こきんまんがゆめうつつ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ マツモト


             たなか 亜希夫 「Glaucos」
             ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
 集中するときの感覚が、鮮明に映される。それは、すいこまれてゆくような
 感じ。小石が水にトプンと、いや音もなく浸かる。頭の芯がしびれ、目の前
 のことだけに気が向けられる。それまで四方に散っていた気の繊維が一気に
 束となってゆく。さらに、私の意識は静かな闇の底、一点に向かって吸い込
 まれてゆく。“無い”という感覚から、その先に豊かなイメージの湧泉が見
 えるような気がする。何かが広がっている――甘美な予感が漂う。

 そんなことを、「グロコス」を読んでいてイメージしていた。生命の始原で
 ある海へ潜り続ける青年、シセの一生が描かれる。南の海原に産み落とされ、
 海に愛された男は、かつての世界記録保持者であるクロードに見出され、フ
 リー・ダイビングの世界へ飛び込む。海の更なる深みを目指す選手たちのな
 かで、シセは技術やライバルといった世俗的な支えを超えて、ただひたすら
 自分の“始まり”に惹か ◎─────────────────────
 れていく(*1)。スポーツ |http://kat.cc/144b11
 漫画にありがちな、根性 |たなか 亜希夫「Glaucos」(講談社)
 や熱血といった精神論を |KC)
 振りかざすのでなく、己 |Vol.3 LOG32 p.17
 の内側に向かい続ける主 |「オレはやる……一気にケリをつけるんだ」
 人公たちには何とも新鮮 └─────────────────────
 で、いわく言い難い魅力を持っている。
 
 ストイックといった言葉で彼を表現することは難しい。そもそも彼は一般に
 言われる欲望とは無縁の、もっと純粋な存在である。そのため彼の心に映し
 出されるのは、もはや形を持った何かではなく、静かで、より深みへ行こう
 とする精神的なあり方だけだ(*2)。これはある意味、宇宙という永遠の世界
 へ憧れる人々の姿とも似 ◎─────────────────────
 る。宇宙飛行士を題材と |http://kat.cc/149437
 した作品はここのところ |同Vol.2 LOG12 p.9
 何 点か見られるように |「海と一体になって……」
 なってきた。これらはし └─────────────────────
 ばしば精神的なテーマを正面からとりあげており、感動的な作品となるが、
 『グロコス』はそういった作品群よりも、さらに奥深くへと主人公が潜って
 ゆく姿を見つめている。ここには潔さがある。エピソードを神話と並行させ(*3)、
 ラストをあえて明確にし ◎─────────────────────
 ていないところも神秘性 |http://kat.cc/1421ed
 を増している(知人によ |同Vol.3 LOG28 p.9
 れば、中途半端だ打ち切 |「その昔――戦争を止めるために」
 りだとか言うが、ぼくは └─────────────────────
 そう思わない)。
 
 他の作品でもそうだが、たなか亜希夫氏が描く登場人物は、本来、肉体と精
 神とは密接に馴染みあい、不離一体のものだということを強烈に思い出させ
 てくれる。

 『グロコス』は、氏の作品群の中でも抜きんでて、そういったごく当然のこ
 とを、幻想的な美しさとともに結実させた稀有な作品だ。宇宙モノを読むな
 ら、これも読んどけ!!

             ┌─────────────────────
         ◎writer|熊本生まれ。マンガと映画があれば後は何もい
          profile|らないくらいという、身の程知らずの趣味人。
             |いつまでたってもミーハーで集中力がない。映
             |画感想ブログ「じゃあ映画を見にいこう」
             |http://murkha.exblog.jp/があるが、最近は停 
             |滞気味。別サイトでhttp://intro.ne.jp/にも寄
             |稿中だが、こちらも…。
             |
             |[電藝 掲載作品]
             |古今漫画夢現(連載中)http://kat.cc/141672
             | 

          :*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*:..:*: 
                  ∵


【新作映画おすすめレビュー】
 銀 幕 ナ ビ ゲ ー シ ョ ン
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 喜多匡希

 恐怖の着信、海を渡る!
 ━━━━━━━━━━━━━━━┯
                     | 
    ワン・ミス・コール   | 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  D|原題『ONE MISSED CALL』
 『リング』で幕を開けたJ  A|2008年 アメリカ 88分 配給:角川映画
 ホラー。その作品群を順に  T|監督:エリック・ヴァレット
 見つめていくと、そこから  A|出演:エドワード・バーンズ、シャニン・
 は時代に伴う文化の流れが   |ソサモン、アズーラ・スカイ、デーブ・ス
 見えてくる。中田秀夫監督   |ペクター 、ほか
 の『リング』では、最早過   |
 去のメディアと言えるビデ   |【上映スケジュール】
 オテープが恐怖を媒介して   |7/19(土)〜
 いたが、三池崇史監督の『着  |東京:角川シネマ新宿、シネカノン有楽町
 信アリ』では携帯電話と、   |   2丁目ほか
 時代に合わせて恐怖を運ぶ   |大阪:梅田ブルク7、なんばパークスシネ
 小道具の移り変わりが見ら   |   マ、MOVIX堺ほか
 れる。それらの原型・発端   |京都:MOVIX京都
 が、鈴木光司が表した小説   |兵庫:三宮シネフェニックス
 『リング』にあることは明   |そのほか、全国一斉ロードショー
 らかだが、ブームの変遷を、  |
 ただ単にこの亜流・使い回   |【公式HP】
 しと断ずるのは些か乱暴過   |http://www.one-missed-call.jp/
 ぎるように思う。そこには、  |
 作り手たちによる工夫の痕
 が見られるのだ。「ビデオテープが携帯電話に変っただけじゃないか……」
 と思われるかもしれないが、この変更には大きな違いがあるのだ。そのこと
 に是非気付いていただきたい。
 
 『リング』では、 <呪いのビデオテープ> と <顔が歪んだ写真> が恐怖のツ
 ールとして登場していたが、それらは視覚を通して恐怖を喚起するものだっ
 た。対して『着信アリ』では、 <呪いの着信音> と、その通話から聞こえて
 くる <自身の断末魔> から惨劇開始の合図であり、それらは聴覚を通して恐
 怖を喚起している。この、まず視覚に訴えるか、まず聴覚に訴えるかの違い
 は大きい。ここに、亜流という言葉で片付けられない面白さがあるのだ。そ
 して、その面白さを繋ぐのは、ビデオテープや携帯電話が身近な存在である
 という、我々観客の皮膚に根ざした感覚である。
 
  その皮膚感覚は、日本だけでなく、欧米でも通用するもの。かくして、『リ
 ング』に続いて、『着信アリ』もハリウッド大作としてリメイクされたわけ
 だが、これは大変自然な流れと言えるのだ。
 
  とは言え、『ワン・ミス・コール』は『着信アリ』をそのまま焼き直した
 作品ではない。大筋は同じながら、そこには日本とアメリカの文化的違いが
 反映されていて、その違いを見比べてみるのもまた面白い。特に、その怪異
 を巡るTV番組の描き方にその違いは顕著で、仏教的(あるいは無宗教的)
 な『着信アリ』と比べ、『ワン・ミス・コール』では、やはりキリスト教の
 世界観が色濃く反映されている。
 
  恐怖描写も、さすがはハリウッド。派手な特殊効果をバシバシ炸裂させて
 畳み掛けるクライマックスは見応えがある。
 
  この恐怖を生み出しているのが人間の情から生まれた怨念であることも重
 要。そこに見られる人間という存在の悲哀こそ、Jホラーが国境を越えて歓
 迎される由縁だ。
 
  日本の夏と言えば怪談だ。映画館の暗闇に納涼を求めて足を運び、骨の髄
 から震え上がるのもまた一興と言える。海を渡った恐怖の逆輸入。とくと味
 わっていただきたい。
 

 パワード・スーツ <マローダー> 、銀幕に現る!
 ━━━━━━━━━━━━━━━┯━━━━━━
                     | 
      スターシップ・   |
     トゥルーパーズ3   | 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  D|原題『STARSHIP TROOPERS 3: MARAUDER』
  ロバート・A・ハインラ  A|2008年 アメリカ 105分 R-15指定作品 
 インによるSF小説の金字塔  T|配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテイ
 『宇宙の戦士』。地球連邦  A|ンメント
 軍と“バグズ”と呼ばれる   |監督・脚本:エド・ニューマイヤー
 昆虫型エイリアンが繰り広   |製作総指揮:ポール・バーホーベン
 げる壮絶な宇宙戦争を描い   |出演:キャスパー・ヴァン・ディーン、
 たこの小説は、熱狂的なフ   |ジョリーン・ブラロック、ボリス・コド
 ァンを世界中に生み出した   |ジョー、スティーヴン・ホーガン、ほか
 が、長らく映画化不可能と   |
 言われていた。        |【上映スケジュール】
                |7/19(土)〜
  その不可能を可能とした   |東京:新宿ジョイシネマ、銀座シネパトス、
 のが、『ロボコップ』『氷   |   池袋シネマロサほか
 の微笑』『インビジブル』   |大阪:敷島シネポップ、MOVIX堺、高槻ロ
 などのヒット作を生み出し   |   コ9プラスシネマ
 たオランダ出身の映画監督、  |8/30(土)〜
 ポール・バーホーベン。1980  |奈良:橿原シネマアーク
 年代から『宇宙の戦士』の   |そのほか、全国順次公開予定
 映画化に取り組んできた彼   |
 は、遂に1997年、『スター   |【公式HP】
 シップ・トゥルーパーズ』   |http://www.so-net.ne.jp/movie/sonypictures/
 として夢を実現。日本では   |omevideo/starship3/
 1998年のGW大作として大々   |
 的に公開された。怒涛のSFX
 映像によって生み出された大迫力の異種戦争に度肝を抜かれた読者も少なく
 ないはずだ。
 
  しかし、この作品で繰り広げられた凄惨な肉体破壊描写は大いに物議を醸
 し、戦争賛美映画だという誤解を多く生んだ。真相は違う。惑星間戦争とい
 う一大娯楽としての世界観の中で、バーホーベンは戦争の惨たらしさを真正
 面から描いたのだ。そこには、母をアウシュビッツ収容所で亡くし、自らも
 ナチスからの逃亡生活を余儀なくされたという戦争の実体験が色濃く反映さ
 れている。その証拠に、『スターシップ・トゥルーパーズ』で、彼は連邦軍
 による兵士募集目的のTVCMなる映像を幾度も本編に挿入している。これも誤
 解を生む原因の一つになったのであろうが、この「みんなで戦争に行きまし
 ょう! 兵士になりましょう!」という国策的CM映像には、戦争に対するバ
 ーホーベンの皮肉が込められていた。つまり、戦争の惨たらしさを徹底的に
 見せつけることで、逆説的にその愚かしさを描いていた意欲作だったのだ。
 
  しかし、大いなる誤解にめげず、バーホーベンはこの原作に執着を見せる。
 TV用アニメシリーズと、特殊効果マン:フィル・ティペットの監督デビュー
 作となった実写版2作目、そして実写版3作目となる本作である。
 
  実写版2作目は、1作目とは比べ物にならない低予算作品であり、苦肉の策
 として、設定だけを借りた別物を志向してしまった結果、その魂を手放して
 しまった感があったが、今回は2作目の3倍の予算を用意し、原点回帰。1作
 目にあった連邦軍TVCMが復活し、1作目の主人公であったジョニー・リコが再
 登場するなど、ファンにとってはたまらなく嬉しい。新種の“バグズ”登場
 にも胸が高鳴る。
 
  中でも、最も嬉しいのは、1作目で叶わなかった“パワード・スーツ”= 
 “マローダー”の登場。これが今回一番のウリであろう。『機動戦士ガンダ
 ム』『エイリアン2』『アイアンマン』などに大きな影響を与えたことで知ら
 れるパワード・スーツが初めて映像化されたのだ。SFファンなら必見!!

  本作は日本が世界最速公開となる。いちはやく“パワード・スーツ”の勇
 姿を見届けよう!!
 

 ゆるい雰囲気に溢れるおかしさと優しさ、そして温かさ
 ━━━━━━━━━━━━━━━┯━━━━━━━━━
                     | 
      ジャージの二人   | 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~  D|2008年 日本 93分 配給:ザナドゥー
  とある夏。一組の父と息  A|監督・脚本:中村義洋
 子が別荘にやって来る。   T|出演:堺雅人、鮎川誠、水野美紀、田中
               A|あさみ、ダンカン、大楠道代、ほか
  その父を演じるのが、今   |
 年で結成30年を迎えるロッ   |【上映スケジュール】
 ク・バンド:シーナ&ロケ   |7/19(土)〜 東京:恵比寿ガーデンシ
 ッツのギタリストである鮎   |ネマ、角川シネマ新宿、銀座テアトルシ
 川誠。息子を演じるのが『ア  |ネマ、ほか
 フタースクール』『クライ   |8月中旬予定 大阪:梅田ガーデンシネマ、
 マーズ・ハイ』などで目下   |京都:京都シネマ、兵庫:シネ・リーブル
 大注目の堺雅人。このキャ   |神戸
 スティングの妙!! もう、   |そのほか、全国順次公開予定
 これだけで見たくなってし   |
 まう。見逃してはなるまい   |【公式HP】
 という気にさせてしまう。   |http://ja-zi2.jp/
 そして、この2人が、タイ   |
 トルそのままに、ほぼ全編
 をジャージ姿で通すのだ。機能性に溢れ、それでいてちょっとダサいあのジ
 ャージである。ただそれだけの話なのだが、これが実に味わい豊か。噛めば
 噛むほど味の出てくるスルメのような作品に仕上がった。
 
  この主人公2人の関係が面白い。父が息子に対して「キミねぇ」と声を掛
 ける。ここに漂うちょっとした可笑しさと、そこから窺い知れる関係性。そ
 こをいちいち説明しきらないところが、本作全体の <味> になっている。
 
  その <味> とは、90年代以降の日本映画界で一つのブームを作り出してい
 る <ゆるさ> というヤツだ。どこか全体がダラリンとした感じ。普段、時間
 に追われながら生きている現代の日本人にとって、このダラリンはとても魅
 力的。その間延び感がとても心地良いものとして感じられるのだ。しかし、
 このダラリンとした空気感を、娯楽である映画に仕立て上げるのはなかなか
 難しい。ダラリンとしていながらも観客を楽しませなくてはならないのだ。
 ただダラダラしていれば良いというわけではないのである。その点、本作は
 そのダラリンの心地良さの中で、そこかしこに登場人物の感情の起伏がフッ
 クとして散りばめられていて、退屈することがない。この辺り、『アヒルと
 鴨のコインロッカー』や『チーム・バチスタの栄光』でにわかに注目を集め
 る中村義洋監督の上手さだろう。
 
  舞台となる北軽井沢の風景や、ならではの小道具が素晴らしい。青い大空、
 白い雲、溢れる緑。その色彩のコントラストが心に優しく染み渡ってくる。
 ノンビリした気持ちにさせてくれる。五右衛門風呂での入浴や、父子揃って
 のマキ割り、広がるレタス畑(撮影はキャベツ畑)、トイレに鎮座まします
 カマドウマ(愛称『便所コオロギ』)、真っ赤に熟したトマト、危険な香り
 を放つイノシシ話…… その全てが微笑ましい。
 
  携帯電話の電波が入らないというだけで、そこはもう我々にとっては聖地
 だ。不便にも感じるが、同時に憧れてもしまう。ああ、逃げたい。たまには、
 日々の喧騒から離れてそういうところに逃げてしまいたい。
 
  そう。主人公の父子は、実生活からの逃避を求めて別荘にやって来るのだ。
 大楠道代演じる風変わりなお隣さんがどこか浮世離れしているのも、逃避先
 である北軽井沢では微笑ましい。そんな空間の中で、この父子は、自身を見
 つめ、そしてまた元の生活に戻っていく。言わば、本作は現実と地続きのフ
 ァンタジー。このひとときが愛らしくてたまらない。93分の避暑をあなたも
 いかが? ひとときの避暑、一服の清涼剤として本作をおすすめする次第。
 
 
 
 『火垂るの墓』日向寺監督&主演:吉武怜朗合同記者会見
 ━━━━━━━━━━━━━━━┯━━━━━━━━━━
                     | 
  先日、実写版『火垂るの   | 
 墓』の監督である日向時太   |『火垂るの墓』レビューはこちら
 郎さんと、主演の吉武怜朗   |http://kat.cc/138d
 さんが来阪され、合同記者   |
 会見が行われました。『銀
 ビ』もこの会見に参加し、インタビューさせていただきましたので、その模
 様をお伝えします。

 
 ―――今回の『火垂るの墓』は、亡くなられた黒木和雄監督(『紙屋悦子の
    青春』『父と暮らせば』『美しい夏、キリシマ』『祭りの準備』など)
    が温めておられた企画だそうですね。
 
 日向寺:正しくはプロデューサーの企画なんですが、黒木さんが準備してお
     られたのは確かです。
 
 ―――『火垂るの墓』は、既に名作と言われる長編アニメーション映画があ
    りますね。そのあたり、大きなプレッシャーがおありだったと察しま
    すが?
 
 日向寺:大きなプレッシャーが3つありました。まず最も大きかったのは、
     私に <戦争体験がない> ということ。戦争というものに対して、「聞
     く」ということは出来ますが、体験世代と同じトーンでは語れない
     という実感がありました。2番目に、今、お話にも出ましたアニメ
     ーション作品の存在。『火垂るの墓』と言うと、あの作品の印象が
     大変強いですよね。その企画に挑むからには、アニメ・実写という
     違いはあれど、先行する作品に勝つか、そうでなくとも拮抗するこ
     とが出来なければ、改めて映画化する意味がないなと。3番目は、
     この作品は子役が主人公の作品です。特に節子役の畠山彩奈ちゃん
     はまだ5歳。監督2作目として、これは難しい部分だろうと。監督術・
     演出術として難しいだろうなということですね。このように、3つ
     のプレッシャーがありました。
 
 ―――吉武さんとしてはいかがでしたか? プレッシャーはありましたか?
 
 吉武:僕としては、戦争というものも、監督が感じているプレッシャーであ
    るとか、抱いている気持ちも、きちんとはわからなくて。その中で、
    脚本を読んだり、アニメ版やテレビドラマ版を鑑賞したりしました。
    その上で <清太という役を自分の中に入れる> ということを目指しま
    した。脚本通りに演じるのですが、アニメ版やドラマ版を意識せずに
    演じよう。そして、自分を失わずに清太になろうと心がけました。生
    活の部分で、吉武怜朗という自分を活かして、必要なものを取り出そ
    うということです。
 
 銀ナビ ◎ 日向寺監督にお聞きします。この脚本は西岡琢也さん(『TAT
      OO(刺青)あり』『丑三つの村』『犬死にせしもの』など)が
      執筆されたわけですが、監督も脚本段階から参加されていらっし
      ゃったのでしょうか?
 
 日向寺 ◎ ええ。精力的に参加させていただきました。
 
 銀ナビ ◎ 原作は50ページにも満たない短編です。当然これだけでは長編映
      画になりませんよね。そのため、アニメ版も独自の肉付けをして
      います。今回の実写版も同じくです。その中で、今回、独自の脚
      色が特に2箇所で顕著だったと感じました。1つは主人公である
      清太の扱いです。原作でも、アニメ版でも、清太の扱いは同じで
      すが、今回は大きく異なりますね。まず、その点について監督の
      意図をお聞かせ下さい。
 
 日向寺 ◎ 多くのインタビューをお受けしてきましたが、この質問は今回が
      初めてですね。やはりここには「同じことをしても意味がない」
      という思いがあります。まず、原作から40年経っています。それ
      を現代の観客に理解してもらえるようにしなくちゃいけない。そ
      のために、清太というキャラクターをはっきりさせたいという思
      いがありました。そこで、原作・アニメ版は共に清太が優等生過
      ぎる、万能過ぎると感じたのです。そういった部分で、今回は清
      太に <不完全さ> を与えてみました。喘息持ちという部分などが
      そうです。あと、清太に関してはもう一つ、ひょうきんさを与え
      てみました。劇中で披露するどじょうすくいなどで、軽味をと考
      えました。
 
 銀ナビ ◎ なるほど。また、もう1点。今回、原田芳雄さん演じる町会長、
      江藤潤さん演じる校長先生、山中聡さん演じる大学生などといっ
      たキャラクターを新たに創作したり、膨らませたりしていますね?
 
 日向寺 ◎ はい。町会長や校長先生は原作に登場しません。山中聡さん演じ
      る大学生と池脇千鶴さん演じる戦争未亡人のカップルも、原作で
      は1・2行しか登場しません。そのキャラクターを作り出したり、
      膨らませることで、新しい『火垂るの墓』を表現しました。西岡
      さんには <なぜ今なのか> を念頭に置いた脚本作りをお願いし、
      アイデアを出し合いました。また、先の話に戻りますが、ラスト
      は大きく変えています。そうした方が良いと思いました。ファン
      タジーになってしまうことを避けたいという思いがあったからで
      す。戦争というものをじっくり考える機会を提供したい。そのた
      めには、ファンタジーではいけません。終戦から63年。以来、日
      本は戦争をしていませんが、これは歴史的に特別な時代です。そ
      の特別な平和の中で私たちは今生きていますが、この土を掘れば、
      そこには戦争があります。一皮剥けばすぐに戦争があるわけです。
      となると、私たちは戦争で死んだ人の上に立っているわけですね。
      そこで戦争を背負うということを、戦死者について考えるという
      ことをしなければいけません。戦前と戦後は決して離れていませ
      ん。繋がっているんです。そのため、やはり清太は現代人として
      響く役柄にしました。また、その一方で、スクリプター(記録係)
      の内田絢子さんから「あの時代の人たちは食事をする時に『ごち
      そうさまでした』と手を合わせることはしなかった」ということ
      を聞き、その描写を改めたりもしました。そういったリアリティ
      は随分意識しましたね。
 
 銀ナビ ◎ 空襲後の焼け野原となった神戸のセットが素晴らしかったですね。
 
 日向寺 ◎ CGで空襲を描いて、それなりのスペクタクルは描けると思いま
      すが、そうしませんでした。これは脚本製作の段階で西岡さんと
      話し合って「それはやめよう」と。CGを使うと、それがCGだ
      ってわかりますよね。もちろん、CGを使った素晴らしい戦争映
      画というのもありますが、この作品ではやめようと。それよりも、
      空襲後のシーンで、雨の中を泥にまみれて歩いている人々という
      シーンでリアリティを追求しました。空襲はわからなくても、雨
      や泥なら私たちにも皮膚感覚として理解できますから。美術は木
      村威夫さんの監修ですから、もう安心してお任せという感じでし
      た。
 
 銀ナビ ◎ 吉武さんは如何でした? 例えばCGであれば、青いマットの前
      で空襲を受けている振りをしながら演技をしなくてはいけないの
      ですが、あのセットは実際に吉武さんの目の前に広がっていたわ
      けですよね? 美術監修は日本映画美術の神様と言ってよい木村
      威夫さんです。その底力が発揮された素晴らしいセットですが、
      現代っ子の吉武さんにとってどうでした?

 吉武 ◎ いやあ、もう圧倒されましたね。凄かったです。あのセットで一気
     にその時代に入っていけたというか、ただただ「凄いな……」と。
     普段は戦争について考えること、あまりないです。友達とも、ゲー
     ムの話だとか、「あ、あの女の子可愛いなあ」とかいう話をしてい
     て、戦争と言われても実感が湧かないのですが、あのセットを目の
     前にしたら…… ホント、凄かったです。
 
 ―――意地悪な親戚のおばさんを演じる松坂慶子さんが素晴らしかったです。
    あと、母親役の松田聖子さんも清楚な魅力を放っていましたね。
 
 日向寺 ◎ 松坂慶子さんに関してはただ単なる悪役にはしたくないという思
      いがありました。そのため、戦地の夫が出した手紙が遅れて届く
      というシーンを用意しました。ここに、意地悪の原因になってい
      る悲しみを表現したのです。決して一面的な人物にはしたくあり
      ませんでした。松田聖子さんに関しては、華やかさが欲しかった
      という狙いがあります。包帯でグルグル巻きになるシーンも御本
      人が演じているんですよ。
 
 ―――神戸が舞台ですから、全編が関西弁ですが、しっかりした関西弁で違
    和感がまったくありませんでした。
 
 日向寺 ◎ ええ。方言指導の先生御二人に指導いただいて。ただ、やはり関
      西弁と一口にいっても、細かい違いが地域ごとにあるので、その
      御二人の先生にも違いがあるんですよ。
 
 ―――吉武さんのどじょうすくい、相当練習されたのではないですか?
 
 吉武 ◎ はい。一所懸命練習しました。口三味線をしながら、動作をするん
     ですが、難しかったです。所属している劇団のスタジオを借りて練
     習をしたり。家でもしました。一挙手一投足が全部タイミングなん
     ですよ。そのタイミングを覚えるのに苦労しました。
 
 日向寺 ◎ 吉武君は身体能力が凄いんです。どじょうすくいの先生から「無
      理だよ。最低4年はかかる」と言われたのですが、彼は1ヶ月でマ
      スターしてしまって。先生も驚かれていました。剣道のシーンで、
      頭に手ぬぐいを巻くシーンがありますね。あれも、作品では吉武
      君がチョチョイと手早くやってのけていますが、実はあれも相当
      難しいんですよ。
 
 ―――畠山彩奈ちゃんはいかがでした?
 
 日向寺 ◎ 彩奈ちゃんはとても楽しそうに台本を読むんですよ。見ていてと
      にかく微笑ましいんですよ。ただ、大変だったのは長回しのシー
      ン。どうしてもカメラを見ちゃうんです。やっぱり、「なんだろ
      う?」って思うんでしょうね。見ちゃう。だから「彩奈ちゃん、
      カメラ見ないでねー」って。撮っている間も「カメラ見ないでね
      ー、見ないでねー」って。で「あ、見ちゃったねー……」って(笑)
      でも、彩奈ちゃん、良かったですよね。
 
 ―――撮り終えてみていかがですか?
 
 日向寺 ◎ 63年前との距離が縮まったというか。私たちには体験という核が
      ないですからね。そういう部分では背伸びせざるを得ません。け
      れど、やって良かったと思っています。
 
 銀ナビ ◎ 日向寺監督が、戦争体験がないからという部分に大変プレッシャ
      ーを受けたとのことでしたが、その上で <再現> ではなく <表現> 
      をすると仰っています。そして、そのことを <バトン> という言
      葉で表現されていますね。これは、昨年、新藤兼人さんが『陸に
      上った軍艦』の脚本を書かれた際に「監督は私ではなく、戦争を
      知らない世代にお願いしたい。バトンを繋げたい」と仰っていま
      した。ここでも <バトン> という表現。その <バトン>、今、どう
      思われますか?
 
 日向寺 ◎ いやあ、1作目の『誰がために』は少年犯罪を描いた現代劇でし
      たが、これはもう劇場用映画初監督作品ですから、撮り終えた時
      は喜びがありました。反省より喜びが大きくて。けれど、今回は
      戦争という、一種の時代劇になるわけです。撮り終えてみて反省
      ばかりです。けれど、それはとても充実した反省です。撮りなが
      ら色々と考えてという様子で、それは勉強になりました。
 
 ―――その反省を踏まえた、次回作の企画というのは今具体的にありますか?
    もちろん、これまでと同じように現代の観客を意識した作品づくりに
    なると拝察しますが。
 
 日向寺 ◎ ええ。もちろんです。常に現代人を意識して撮りたいと。まだ明か
      せませんが、現在企画もあります。
 
 一同 ◎ 本日はありがとうございました。

 
 「これぞ映画作家!」と思わせる真摯な眼差しで、一つ一つの質問に真っ直
 ぐお答えになる日向寺監督の姿が大変印象的。現在高校2年生という吉武さ
 んは、一見中学生かと見紛う幼さながら、その発言には確かな芯を感じまし
 た。戦後世代が戦争を表現した『火垂るの墓』は、現在、東京:岩波ホール
 で大ヒット上映中。Movie Walkerでは、映画評論家が選ぶ7月のベストワン
 に選ばれるなど、評判も上々です。これから徐々に全国公開が始まる本作、
 見逃す手はありませんよ。
 
     ◎日向寺太郎(ひゅうがじ たろう) プロフィール
     1965年宮城県仙台市生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。
     黒木和雄、松川八洲監督に師事し、『黒木和雄 現代中国アートの旅/
     前後編』(1998 NHK・TV)を監督。黒木和雄監督『スリ』(2000)、
     『美しい夏キリシマ』(2003)には企画段階から関わる。
     『誰がために』(2005)で劇映画監督デビュー。少年犯罪とその遺族
     を描き、主演の浅野忠信が第60回毎日映画コンクール男優主演賞を受
     賞するなど、高い評価を得た。
     本作『火垂るの墓』が劇映画監督第2作となる。
 
     ◎吉武怜朗(よしたけ れお) プロフィール
     1991年東京都生まれ。
     NHK『すずらん』『大河ドラマ葵〜徳川三代〜』などに出演。
     舞台『ライオンキング』ではヤングシンバ役。
     他、数多くのドラマ・舞台に出演し、実力派の若手として目下大い
     に注目されている。
     本年は、映画『アフタースクール』(内田けんじ監督)や、NHK
     連続テレビ小説『瞳』に出演中。
 

             ┌─────────────────────
         ◎writer|大阪府在住。生まれも育ちも生粋の浪花っ子。
          profile|趣味は読書・プロレス&格闘技観戦・料理、そ
             |してなんと言っても映画鑑賞。映画を観る歓び
             |&語る喜びに加え、最近、広める歓びにも目覚
             |めた。将来の夢は <映画案内人> になること。 
             | 
             |ホームページ
             |[movie masa site 映画に夢を託す]
             |http://homepage2.nifty.com/m-friend/masa.htm
             |メール masa_ginnavi@yahoo.co.jp
             | 
             |[電藝 掲載作品]
             |銀幕ナビゲーション(連載中)
             |           http://kat.cc/120c
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