週刊電藝465 [080616] マツモト|アベ
■□ 週 刊 ■□weekly DENGEI magazine [ウエブ電藝]
■□ 電 藝 ■□VOL.464 発行数:304 http://indierom.com/dengei/
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┌ H E A D L I N E ────────────── '08年06月09日 ───┐
古今漫画夢現 : マツモト
日々のケダマ : アベ ショウコ
└─────────────────────────────────┘
古 今 漫 画 夢 現
こきんまんがゆめうつつ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ マツモト
吾妻ひでお『失踪日記』
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はじめまして。この連載では、私のアンテナに引っかかったマンガを、自分
の妄想、夢と合わせて紹介していきます。どうぞよろしくお願いします。
今年度からちょっと立場が変わり、いまだ学生であるぼくの周りも慌ただし
くなった。なかなか環境に慣れないのもあって、ちょっと気が滅入ることも
ある。雨も降り始めたそんな6月の夜、初めて『失踪日記』を手に取った。
吾妻ひでおが星雲賞を受賞した3年前、なぜタイトルからしてSFでもなさそ
うなのにこの作品が?といぶかって手を出さなかったのだが、もしかすると
あれはそういう時期だったのかもしれない(というか実は単なる勘違いで、
「日本SF大会星雲賞ノンフィクション部門」がなるものがあったのを後で知
ったという始末だ)。何かと自分の後先ままならぬ立場をやっと自覚してき
た今、特に吾妻ひでおのこの作品は骨身に応える。
『失踪日記』は、作者の失踪以降の放浪やアル中で入院したことなどの非日
常体験記だ。放浪やアル中入院など大半の人があまり体験することのない世
界が、デフォルメされた絵柄で赤裸々に描かれている。これがまたリアルな
うえ、自分にとってはやたら重かった。もちろん重い作品なんて他にもいろ
いろあるのだが、この作品はちょっと違った重さやそれで終わらせない空気
がある。「へーそうなんだー」と笑ってすまされないような微妙に身近な自
分の立場というか、そういう意味であとになってジワジワと迫ってくる感じ
がする。
絵柄がコミカルで取っ付きやすい感じがあるのも、注目すべきポイントだ。
もちろん、例えばねこぢるや唐沢なをきのマンガのキャラクターだって丸っ
こくて可愛らしい絵柄で結構な毒を吐いたりするけども、そういったものと
もまた違う。少なくとも上に挙げた2人の作品の場合、作者自身の属する世
界が非日常的なものになっていて、いわゆる日常と非日常との境界線が比較
的はっきりしている。
◎─────────────────────
彼らの作品に登場するコミ|http://kat.cc/1768c2
カルな姿形のキャラクター|吾妻ひでお『失踪日記』(イースト・プレス)
は、その境界線の線引きに|P.50
一役買っているという感じ|
もある。だけど、吾妻氏の|カバーにもなっている一コマ。普段ならまずな
描く絵はそれとは逆の効果|いであろう視点からの雪景色が幻想的でとても
がある。つまりコミカルな|印象深い。
絵柄が線引きをするのでは└─────────────────────
なく、作者の非日常的で異常な体験を、現実の生々しさや凄絶さを和らげた
感じにして読者に示されているということだ。このことは、本人が「自
分を第三者の視点で見るのは、お笑いの基本ですからね」と『失踪日記』の
巻末対談でも述べている。
そう、このマンガは、たとえて言えばくずまんじゅうに似ている。くずまん
じゅうのくずを透してあんこが見えるように、現実の生々しさを優しくデフ
ォルメでくるんだ、見た目からもその食感も不思議な魅力を持った作品なの
だと思う。
たいてい日常の「裏側」として語られた物語、非日常ワールドは、時として
正視できないほどのおぞましさを増すこともできるし、それによって読者を
そっぽ向けさせることだってできる(前回挙げたねこぢるや唐沢なをき然り)。
でも『失踪日記』は、日常と非日常が均質に描かれていて、もはやどっちが
どっちだか分からなくなっている。この吾妻氏の手腕のおかげで、読者はこ
こに描かれていることを他人事と笑い飛ばそうと自分の事のように深刻に考
えこもうと、その受け取り方は自由なのだと感じることができるように思う。
でも実際に『失踪日記』を読んだ方々の中は、笑い飛ばしてしまいたいのだ
けど、どうしても目が離せなくなっていつの間にか軽くダウナーに入ってし
まう人が少し多かったのではないか、とも想像される。
たとえば身の上話をしている人がいて、別にこれといって露悪的ないやらし
さがない。むしろネタという感じで笑って話しているんだけど、それが妙に
生々しかったり重かったりすることが後で分かると、初めの取っ掛かりです
んなり入ってしまった分だけ、こっちがダメージ喰らってしまったなんて経
験がないだろうか。
◎─────────────────────
また、 <非日常←→日常> |http://kat.cc/9927
という過程がはっきりと描|吾妻ひでお『失踪日記』(イースト・プレス)
かれていることも、この作|P.152
品の魅力の一つだろう。い|
つか自分もこの道にドロッ|アル中で幻覚を見る作者。只事でない状態への
プアウトしてしまうんじゃ|移行が淡々と描かれており、ズレているのかど
ないか…そんなシャレにも|うか分からないところが余計に怖い。
ならないような予感さえも└─────────────────────
やたらリアルになってくる。いまだに学生やってる身としては、十分あり得
る話だ。
コミカルさというフィルターが時間をかけてそろそろと剥がれてきたとき、
ふと「あ、俺あと一歩じゃないか」と気づくのだ。でもこの感じは嫌いでは
ない。どれだけエンタテインメントに仕上げていても、地に足付いている感
じがこのマンガにはある。不思議に安堵するのだ。ファンタジーに浸るのも
いいが、こうやって今自分の近く、すぐそこに、入口も出口もなく非日常が
違和感なく横たわっているということを知らしめてくれるという意味で、と
ても読む価値のあるものだと思う。
遅ればせながら、ぼくもこの微妙なバランスに支えられた本作から吾妻ファ
ンになりそうな予感がする。
┌─────────────────────
◎writer|熊本生まれ。マンガと映画があれば後は何もい
profile|らないくらいという、身の程知らずの趣味人。
|いつまでたってもミーハーで集中力がない。映
|画感想ブログ「じゃあ映画を見にいこう」
|http://murkha.exblog.jp/があるが、最近は停
|滞気味。別サイトでhttp://intro.ne.jp/にも寄
|稿中だが、こちらも…。
|
|[電藝 掲載作品]
|古今漫画夢現
|
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日々の
ケダマ vol.17
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
アベ ショウコ|その思考力は、
|分けて欲しくないけど。
|
ある朝バスに乗ろうと思ったら、バス停には中学生の野球チームがごっち
ゃりと並んでいた。大きな荷物を抱えているから座りたかったけど、これじ
ゃ無理だろう。うるさそうだし…朝から嫌なものに当たってしまった。
野球少年達の後からバスに乗り込んだら、案の定既に満席。仕方なく座っ
ている野球少年の前に立ったのだけど、よく見たらそこは優先席だった。座
っている本人もなんだか不安げにあたりを見回している。乗り込んだときは
空いていたから軽い気持ちで座ったのだろうが、既に車内はかなり混雑して
おり、後からお年寄りも乗ってきている。
この状況下でどう考えても自分が「優先」されるべき存在でないことに気
づいた野球少年は席を立とうとしたが、時既に遅し。車内には今更少年が立
つすき間もないし、立ったとしてもお年寄りがここまで移動してくるのは不
可能だ。仲間はみんな離れたところにおり、気まずさを共有することもでき
ない。これは面白いことになってきた。
追い込まれた彼はおもむろに体を思いっきり伸ばしてつり革をつかみ、ぶ
ら下がるようにしておしりを座席から浮かした。「座ってません!」と言い
たいらしい。開き直って座り続けるには繊細すぎる思春期の自意識は、男子
小中学生にありがちな何かが足りない思考回路を通った結果、こういう行動
となって現れたようだ。……うーんバカ。
彼はしばらく頑張ってつり革にぶらさがっていたが、さすがに無意味だと
気づいたのか腕が疲れたのか数分でやめてしまい、今度は唐突に狸寝入りを
始めると、目的地にバスが着くまで動かなかった。数十分の出来事だったが、
彼には永遠にも感じられたことだろう。
ちょっとバカだけど、気まずさを感じて何とかしようと努力できる彼はな
かなかいいやつなんじゃないかと思う。お陰で、憂鬱だった朝が一気に楽し
くなりました。その無駄な繊細さ、うちの「ザ・雑」な猫にも分けてやりた
いものです。
◎今月のケダマ
http://kat.cc/f2ac
┌─────────────────────
◎writer|自分は中で猫が人間の生活を営もうと着ぐるみ
profile|に入って奮闘している状態だと考えた方が、い
|ろいろつじつまが合うんじゃないかと。猫にし
|ちゃ上出来の人間っぷりです。偉いよ中の猫。
|
|[電藝 掲載作品]
|日々のケダマ(連載中)http://kat.cc/16fd24
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