児童文学評論120-03
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【児童文学評論】 No.120-03 金原映画日記後編 2007.12.25日号
1998/01/30創刊 今号の発行部数3321部
hicota@gmail.com
〔児童文学書評〕 <http://www.hico.jp>
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☆このマガジンは1行34字で改行されています。
★発行年は「原著年/訳年」です。
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■ 2007/12/31(月)
さっき、試写用のDVD『フローズン・タイム』を見終わったところ。脚本
・監督はショーン・エリス。主演はショーン・ビガースタッフ、相手役はエ
ミリア・フォックス。
美大生のベンは、ガールフレンドに「君を幸せにすることはできない」とい
って身を引いたくせに、即、後悔。ところが、相手の女の子は一週間もしな
いうちに新しいボーイフレンドと付き合いだして、ベンは懊悩の極みで、寝
られなくなってしまう。しかたなく眠れない夜の8時間、スーパーでバイト
をすることに。そこのバイト仲間が面白い。それから店長もとても面白い。
とまあ、いろいろあるうちにシャロンという女の子にひかれていく……とい
うよくあるネタだが、ベンがあるとき時間を止められるということに気づく
あたりからが、この映画のユニークなところ。時間を止めて、女の子の服を
脱がせてみたり、シャロンの横顔をスケッチしてみたり……そしてやがて…
…。
いってみれば美大生のラブストーリーなんだけど、感覚が新しい。最初から
最後までとにかく色が鮮やかで美しい。映像も凝っているのに、凝っている
ようみせないところがまた、憎い。最初にカーウァイの映画をみたときの感
動を思い出した。
そしてあちこちにちりばめられた小粒小粒の笑いネタも決まっているし、男
の子らしいHネタの仕掛けもうまい。また、登場人物の表情もうまく撮れて
いて、ほう、とため息がもれてしまったくらい。女の子といっしょにいくに
はぴったりの映画。
エンディングの雪の静止シーンでは、そのまま『ミッドナイターズ1』の冒
頭シーンを思い出した。そうそう、雨の静止シーン。
(蛇足)字幕なんだけど、'quite a few'が誤訳。ちょっと笑えるネタだけ
に、残念。これは間違えやすいので、要注意。'quite a little'も同じ。
■ 2007/12/30(日)
朝から、有線の落語をききながら部屋の片づけ、衣替え(まだ残ってた)、
久々の靴磨き、夜は試写のビデオ『アドリブ・ナイト』を観る。イ・ユンギ
監督の韓国映画だが、原作は平安寿子の短編(文春文庫『素晴らしい一日』
に収録)。
10年前に行方不明になった女性と間違えられた女の子が、「間違いでもいい
からきてくれ。その子の父親が危篤なんだ」と無理やり車に乗せられて、そ
の家へ。臨終間際の男を囲む親戚たちの様々な思いや確執が浮かびあがる。
一方、その女の子は、本当に間違いなのか、もしかしたら当人ではないのか
という可能性もふくみながら、ゆっくり物語は進んでいく。
まわりの親族の描き方もリアルだし、女の子の表情も魅力的だし、なかなか
見せてくれるんだけど、最後がすんなりおさまりすぎかなあ。主演の女の子、
ハン・ヒョジュがかわいいなあ。
■ 2007/12/14(金)
1時から『かつて、ノルマンディーで』の試写会。
30年前、ルネ・アリオ監督が『私、ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を
殺害した』(1976年フランス公開)という映画を撮る。これは1835年、ピエ
ール・リヴィエールという青年が母親と妹と弟を斧で殺害した事件をもとに
作られている。ピエールは獄中で手記を書き残していて、それには自分が犯
行にいたるまでのいきさつが詳細に語られていた。この手記が20世紀、注目
を浴びることになる。詳細は『ピエール・リヴィエールの犯罪―狂気と理性
』(河出・現代の名著)ミシェル・フーコー(編)・岸田 秀・久米 博 (訳)参
照。
ルネ・アリオ監督はこれを映画化するにあたり、裁判官、検事といった役以
外の多くを現地ノルマンディーの農民たちに演じてもらうことした。
それから30年後、当時の助監督だったニコラ・フィリベール監督がノルマン
ディーにいって、そのとき出演してもらった人々にインタビューして、それ
をドキュメントにまとめたのがこの映画。
一生に一度、映画に出演した人たちが顔を輝かせてそのときのことや、それ
以降のことを語るところは思わずほほえんでしまう。しかしなにより興味深
かったのは、映画の中に何度か出てくるピエールの手記。細かい、几帳面な
文字がびっしり書きこまれている。
30年前の映画の抜粋もうまく使われていて、おもしろくできている。
ただ、この手の作品につきものの「冗長さ」が気になる。ドキュメントとし
てのリアリティを考えると、どうしてもそういう場面や科白は必要なのかも
しれないが、演劇好きの金原としてはいささかだるい。
そういえば、この映画は豚の出産シーンで始まり、途中、豚を殺して解体す
るシーンがある。『豚の死なない日』の場面をふと思い出してしまった。
3時半からピーター・グリーナウェイ監督の『レンブラントの夜警』の試写
会。
レンブラント(バロック3大画家?)は粉屋の息子だったが肖像画家として
一躍有名になり、「広大な邸宅とアトリエ、果ては印刷所まで所有し、ひと
財産を築いた」ものの、なぜか1642年を境に、坂道を転がり落ち、「ついに
は破産宣告を受ける」。グリーナウェイはその原因を、名画「夜警」に求め
て、この映画を作ったらしい。
最初から最後まで演劇的に撮ってあるのがなによりの、この映画の特徴だろ
う。
幕開け、左右に飛びかう松明の火。白い幕の下りた小さな舞台のようなとこ
ろからレンブラントが転がり出て、顔を手でおおい、目がみえなくなったと
わめく。やがてカメラが引いていくと、その小さな舞台はじつはベッドだっ
たことがわかる。映画の画面は、ベッドをまん中に置いた舞台に変わる。し
ばらく芝居の一場面のような展開があって、またカメラが引いていくと、そ
こが大きな部屋の中であることがわかる……という展開。まさに演劇的映画
というか映画的演劇といった感じの作品で、最後もきれいに演劇的に締めく
くられるし、なにより、「夜警」という絵がレンブラントの演劇的表現であ
ったという謎解きにもうまくつながっている。そのまま舞台にかけてもおも
しろそうだ。
というわけで、うまいなあと感心しながら見終えたのだが、所々ちょっと「
くどい」。レンブラントの好色ぶりや、愁嘆場、「夜警」の謎解き、などな
ど。
というわけで、今日の2本、片方は「冗長さ」、もう片方は「くどさ」がい
ささか残念だった。これが小説なら、そういう場面はざっくり読み飛ばすの
だが、映画だとそうはいかない。付き合わされてしまう。映画は2時間か3
時間座っていれば、終わってくれるけど、小説は読まないと何時間手に持っ
ていても終わってくれない。けど、映画はその時間分、ちゃんと相手をしな
くてはならない。など考えたのであった。
■ 2007/11/30(金)
1時から『陰日向に咲く』の試写会。岡田准一、宮崎あおい、ふたりとも熱
演ながら、映画自体はいまひとつ。原作を読んでいないので、なんともいえ
ないんだけど、「さあ、どうだ!」とばかりに作られるぶん、ひいてしまう
ような感じ。雷太もジュピターもみゃーこもリアリティがないなあ。じゃあ、
リアリティ抜きに笑えるかというと笑えないし。すいません、ボタンをかけ
ちがったまま、最後までいってしまいましたという感じだった。
日比谷セントラルビルからタクシーに飛び乗って、歌舞伎座の先まで。
3時半からグアテマラのドキュメント映画『線路と娼婦とサッカーボール』
(チェマ・ロドリゲス監督)の最終試写会。
実際に列車の走っているぼろぼろの線路(単線)の両側に、「線路」と呼ば
れている貧民街がある。そこの娼婦たちが、身の安全と、職業差別の撤廃な
んかを主張して国会議事堂までデモをしても、ちっとも注目してもらえない
からというので、アマチュア・サッカー連盟に加盟して、試合に出るという
話。練習場といっても、空き地で、石ころがごろごろ転がっているし、水た
まりはあるし。スニーカーの買えない女は素足でボールを蹴ってるし。試合
も、やっぱり、そんなところで行われるわけで、コンクリートの上で行われ
ることもある。
「娼婦なんかとやってられない」と棄権するチームも出るし、「娼婦なんか
連盟にいれるな」という抗議もくるようになる。にも負けず、彼女たちは頑
張る。そしてニュースにも取り上げられるようになり、スポンサーも着く。
が、連戦連敗。
しかしやがて、願いに願った初勝利! そのうち、お隣のエルサルバドルの
娼婦たちもこのニュースをきいて、サッカーチームを結成し、なんと、国際
試合に! ところが、スポンサーもそこまでは面倒見切れないといって援助
を中止……というふうな映画。まあ、国際試合といってもバスで行くんだけ
ど。
いやあ、おもしろかった。久しぶりにいいものをみたな、という感じ。とく
に、応援団長のマリナというおばあちゃんがすごい。もう70近く。20年間娼
婦をやったあと引退して、18年間コンドームを売り歩いたり洗濯をしたりし
ている。左目を酔っぱらった恋人につぶされ、次の恋人が義眼を買ってくれ
たが、それもなくして、左目はないまま。しかし、いまは「神様がくれたイ
ンディオだよ」と自慢できるやさしい男と暮らしている。このマリナばあさ
ん、すっごく歌がうまい。目を閉じてきいていると、エディット・ピアフ顔
負けの声、節回し。マリナのCDが出たら、絶対に買うと思う。
そうそう、全編を通じてかかる音楽もすごくいいのだ。
■ 2007/11/27(火)
9時に日比谷セントラルビル着。9時半からアンドルー・ドミニク監督・脚
本の『ジェシー・ジェームズ暗殺』(ロン・ハンセン原作)の試写会。製作
・主演、ブラッド・ピット。
原題はThe Assassination of Jesse James by the Coward Robert Ford(
『卑怯者ロバート・フォードによるジェシー・ジェームズ暗殺』)。
19世紀末、元南軍兵士で、列車強盗や殺人を重ねた実在のアウトロー(義
賊的一面もあって、大衆のヒーローでもあったらしい)、ジェシー・ジェー
ムズをブラッド・ピットが、彼を暗殺したロバート・フォードをケイシー・
アフレックが、そしてジェシーの兄フランク・ジェームズをサム・シェパー
ドが好演。サム・シェパード、久しぶり。『パリ、テキサス』(84年)『フ
ール・フォア・ラブ』(85年)からもう20年以上たってしまった。そろそろ
いぶし銀の魅力。
ところでこの映画、ジェシーがとことん、つかみ所のない、不思議な、そ
して不気味な男として描かれているのがおもしろい。ブラッド・ピットがこ
れにまことにうまくはまっている。勘がいいことだけはわかるんだけど、い
ったい何を考えているのか、まるでわからない。そして考えているようで考
えてないような目、その目に浮かぶとも浮かばないともつかない表情。ちょ
っとうなってしまった。
それと対照的なのがロバート。ジェシーを尊敬、いや崇拝して、そばにい
るときには、細かい仕草まで真似るほどだったのが、やがて、ジェシー暗殺
を企てるようになっていく……という流れが、あまりにわかりやすい。そし
て暗殺後の人生も、あまりにわかりやすい。つかみどころのないジェシーと、
気が小さく見栄っ張りで虚栄心が強くてふと暗殺を決意するロバートの対象
をおもしろいとみるか、あまりに図式的とみるか。ううん、むつかしいなあ。
個人的にいわせてもらえば、ロバートの描き方はちょっと一面的すぎるよう
な気がしてならない。と、このあたりに不満が残ったのだった。
この映画、160分。そういえば、昨日の『ラスト・コーション 色戒』も
158分。ほぼ同じ長さ。そして両方とも中心は「暗殺」。そしてほとんどの
登場人物が、ほとんどずっとタバコか葉巻を吸っていた。
■ 2007/11/26(月)
午後、アン・リー監督の『ラスト、コーション(色・戒)』の試写会。主演
はトニー・レオンとタン・ウェイ。
1938年から1942年にかけての香港、上海が舞台。日本の傀儡政権のスパイと
して暗躍しているクァン(トニー・レオン)暗殺を計画する若者たちが描か
れていく。若者たちは、香港大学の演劇部の仲間で演劇活動を通じて排日運
動を始めるが、やがて命がけでクァン暗殺へと傾いていく。そのなかで、ク
ァンを誘惑する役割を負うのがチアチー(タン・ウェイ)。しかし、チアチ
ーはクァンにひかれていく……というふうな物語。
各国の先行公開で大ヒットということもあり、ヴェネツィア国際映画祭グラ
ンプリ〈金獅子賞〉受賞したということもあり、激しいベッドシーンありと
いうこともあり、また今日は試写会の初日ということもあり、汐留の大きめ
の試写会場も満員。
途中、退屈することはなかったけど、正直な感想は「まあまあ」。なんとな
く一本調子なのだ。それに、この内容で158分はちょっと長い。
■ 2007/11/24(土)
講演を終えて、一服して帰って、6時すぎ。昼寝(?)をして、夕飯を食べ
て、『ぜんぶ、フィデルのせい』の試写用DVDを観る。フランス映画。監
督はジュリー・ガヴラス。『Z』『戒厳令』を撮った監督コスタ=ガヴラス
の娘!
舞台は1970年のパリ。主人公は9歳の女の子、アンナ。父親(スペイン生ま
れ)は弁護士、母親は「マリ・クレール」なんかの雑誌に記事を書いている
(おそらく)フリーのライター。一家にはもうひとり、なかなかかわいい男
の子、アンナの弟のフランソワ。
この一家のところに、父親の姉マルガが娘のピラルを連れてスペインから転
がりこんでくるところから物語は始まる。マルガの夫はスペインで反フラン
コ政権の運動に参加していた(そしておそらく殺された)。
それをきっかけに、アンナの両親は社会運動に目覚め、チリにいって、その
政治的状況をみて一気に共産主義運動に突入。それまでの広い家から、狭く
て庭もない家に引っ越し、毎晩のように活動家たちを招いて、政治を語る。
カトリック系の小学校に通っていたアンナは、大好きだった「宗教の時間」
に出られなくなり、それまでは家族の日だった日曜日の団らんまでなくなり、
大好きだったお手伝いさんもいなくなり、「キョーサン主義」とかいう言葉
が飛びかい、親とのいさかいも増えて……というふうな映画。
『ぜんぶ、フィデルのせい』の「フィデル」は「フィデル・カストロ」。
1959年、チェ・ゲバラと協力してキューバ革命を指導し、当時のバティスタ
政権を打倒する。これはラテン・アメリカ初の社会主義革命でもあり、カス
トロはアメリカの半植民地だったキューバからアメリカ色を一掃する。
この映画は、その他、60年代から70年代にかけての多くの政治的な事件、出
来事を巧みに取りこんで、その時代を生き生きとうつしだす。
この作品、そういう政治や、それに影響された両親に振り回される子どもの
映画なのか、それとも、そういう子どもを主人公にすえた、政治的広がりの
ある家族映画なのか、そのへんがおもしろい。みる人によって、その境界が
微妙にずれるような気がする。
しかし、9歳の女の子の気持がとてもていねいに描かれていて、親に対する
反発も、親に対する(わからないなりの)共感(らしきもの)もリアルにと
らえられていて、そんへんはとてもとてもおもしろかった。
また、それだけでなく、政治的な部分もきっちり描かれているところも素晴
らしい。
また、パンフレットもそのあたりはとてもうまくまとめてあって、'Around
1970' という見開きの頁があって、そこには「フランス・五月革命」「ギリ
シア・軍事政権」「スペイン・フランコ独裁政権」「ベトナム・ベトナム戦
争」「キューバ・フィデル・カストロ」「チリ・アジェンデ政権」の解説が
あって、その次の見開きには当時のほかの国々の情勢が紹介されている。
大学の授業にはもってこいの映画化もしれない。
しかし、ファミリー・ドラマとしても非常にうまく作られていて、主人公ア
ンナの気持が痛いほどに、くすぐったいほどに伝わってくる。
■ 2007/11/16(金)
午後、試写会。『迷子の警察音楽隊』。
イスラエルに招待されてやってきたエジプトの警察音楽隊。なぜか迎えがこ
ない。しかたなく次の日の会場へとバスでおもむくが、おりてみたら場所が
ちがっていた。もうバスはないし。しかたなく、レストランの女主人にそう
だんして、なんとか面倒をみてもらうはめに。『バグダッド・カフェ』と『
レニングラード・カウボーイズ』をいっしょにして、イスラエルに持ってく
ると、こんな映画になるのかも。
砂漠にたたずむ、青い制服を着た8人の男たちがとってもキュート。
事件らしい事件も起こらず、いくつかのエピソードが語られるだけだが、最
後まで飽きない。思いきり笑える映画でもないし、切なく泣ける映画でもな
いし、わくわくはらはらの映画でもないし、思わず胸をつかれるような映画
でもない。けど、なんとなく、おかしくて、そこはかとなく切なく、見入っ
てしまった。
音楽隊の連中はアラビア語、相手をする女主人たちはヘブライ語、両者が
話すときは片言の英語。それなのに伝わるべきものは、しっかり伝わる。そ
してそれが日本人にも伝わる。まさに奇跡のような映画。
■ 2007/11/13(火)
午後、試写会。『その名にちなんで』。
原作は『停電の夜に』で大ヒットを飛ばしたインド系アメリカ人作家ジュン
パ・ラヒリ。ここ数年のアメリカのエスニック作家のなかでは最注目株のひ
とりで、かつての中国系作家エイミ・タンを思わせる。両者とも、好んで描
くのは「家族」、というところも似ている。とくにこの『その名にちなんで
』は、そのままインドからアメリカにやってきて住み着いた人々を描いてい
る。
列車事故で九死に一生を得たインドの青年アショケはアメリカの大学に留学。
やがて親の見立てた女性アシマと結婚。アシマもニューヨークへ。ふたりの
ぎくしゃくした生活が始まり、やがて子どもがふたりできる(長男の名前は、
ロシアの代表的な作家の名前から「ゴーゴリ」)。その一家の物語。
出会い、結婚、成長、反発、一世の親と二世の子どもの対立、文化の衝突、
誕生、死……そういった、とりたてて珍しくもない事件や状況が複雑にから
みあって、とても濃い世界を作り上げている。文化と文化の距離、親と子の
距離、それはやがて人と人の距離というテーマへと発展していき、ふたたび、
家族へともどっていく。
グレゴリー・ナバ監督の『ミ・ファミリア』を思い出してしまった。こちら
は、メキシコからロサンゼルス(天使の街)に移住したヒスパニックの一家
の物語。
『ジョイラック・クラブ』『ミ・ファミリア』『その名にちなんで』、中国
系、メキシコ系、インド系の家族の作品、みくらべてみるとおもしろいかも。
■ 2007/11/11(日)
オゾン監督の『エンジェル』を観る。
じつは『8人の女たち』で軽い失望を味わっていたので、今回、あまり期待
していなかったのだが、かなり面白かった。
舞台は20世紀初めのイギリス。食料品店の娘エンジェルは、ひたすら貴族的
なものにあこがれ、その思いを小説に託して書き上げ、やがて、それが出版
の運びとなり、流行作家に。そして、恋、結婚……。
といったストーリーなんだけど、オゾン監督は徹底して観客を感情移入させ
てくれない。とくに前半は、冗談なのか本気なのかわからない、エスプリ度
100%の作り。後半になって、やっとエンジェルの試練になってくると、観て
いてついついのめりこみそうになるけど、その瞬間、また引きもどされてし
まう。
そういう部分を楽しめる人にはお勧めだけど、思いきり主人公に感情移入し
たい人には勧めない。
金原的にはかなり好きな作品。とくに、16歳から30歳すぎまでを演じきる主
人公のロモーラ・ガライは素晴らしい。本人は1982年生まれ。
■ 2007/10/29(月)
小説すばるの「シネマクロスレビュー」のための映画を観る。といっても、
11月は学祭関係でほぼ一週間つぶれてしまうので、試写会にいけそうになく、
DVDで。今夜は『ゼロ時間の謎』。そうそう、クリスティのミステリ。と
いってもフランス映画。
夏、ブルゴーニュの海辺にあるカミーラの別荘(大邸宅)に8人が集まる。
まず、別荘の持ち主カミーラ、カミーラの友人で弁護士のトレヴォース、テ
ニス選手のギヨーム、その妻のキャロリーヌ、ギヨームの前妻のオード、カ
ミーラのつきそいのマリ、昔からオードに心をよせていたトマ、キャロリー
ヌの相棒のフレッド。
映画が始まり、全員が別荘に集まって、最初の事件が起こる。弁護士トレヴ
ォースが心臓発作で死亡。すぐに次の事件が……。
派手なアクションも、最後のどんでん返しもなく、適度な緊張感をはらみな
がら、淡々と、クールに物語が展開していくところが、この映画の魅力だと
思う。
この作品は、あとからあとから新事実がでてくるので、純然たる謎解きのミ
ステリではない。どちらかといえば、心理小説、それも上質でスリリングな
現代小説みたいな印象が強い。そのへんを物足りないと思うか、そこがクー
ルでいいんだと思うか。それぞれに意見の分かれるところだと思う。
ぼくとしては、スマートでクールな心理小説の映画化という感じで、とても
おもしろかった。
■ 2007/10/19(金)
9時過ぎ銀座着。スタンドのカレーを食べて、東映の試写会場へ。『オリヲ
ン座からの招待状』を観る。最初から最後まで歯車が合わず、え? あれ?
と思っているうちに終わってしまった。浅田次郎の原作だから、みせるとこ
ろはしっかりみせて、泣かせるところはしっかり泣かせてくれるんだろうと
思っていたのに、肩すかしで、残念。たしか、この前観た邦画『クローズド
・ノート』はよかったのに……。
ただ、宮沢りえオンステージみたいな作りなので、それが目当ての人にはお
勧めかも。
1時、山村浩二のアニメ3本立てを観に東銀座へ。『頭山』『年をとった鰐
』『カフカ 田舎医者』。『頭山』と『鰐』はすでに観ていて、今回は新作
の『田舎医者』がお目当て。カフカ原作の不条理っぽい短編をむちゃくちゃ
山村流アニメで味付けし直した見事な作品。上映時間20分。いままでの山村
浩二作品のなかで最長。
軽く昼食をとって、ぶらぶら京橋まで歩く。
3時半から『君の涙 ドナウに流れ:ハンガリー1956』の試写会。クリステ
ィナ・ゴダ監督のハンガリー映画。先月観た『ある愛の風景』をしのぐ力作
で、今年のベスト1!
メルボルン・オリンピックに出場することになっていた水球選手のカルチは、
ソ連支配下のハンガリーで革命に命をかける大学生ヴィキを好きになってし
まい、水球を捨てて、流血の革命に身を投じるが……。
圧倒的な暴力になぎ倒され、うちひしがれ、踏みにじられる人々、それにも
かかわらず自由を夢見て立ち上がる人々、裏切り、密告、流血、殺戮、復讐、
死、そして死……ささやかな救い、光、そして……これは単に1956年ハンガ
リーの「失われた革命」の物語ではないし、大国におしつぶされた小国の悲
劇でもない。もっともっと普遍的なテーマを問いかけている。
見終えて、身体も心もふるえて、しばらくふるえがとまらなかった。
帰りに受付によって、予告編のDVDとチラシを100枚ほど送ってもらうこ
とにする。学生にみせなくちゃ!
あとで思い返してみると、物語の組み立ても、構成も、ふたつのストーリー
の切り貼りの仕方もすばらしい。創作表現論の授業で分析しながら解説して
みてもいいかなと思った。
■ 2007/9/28(金)
午後、『once ダブリンの街角で』の試写会にいく。じつは、ちょっと寝不
足で、ほかのときにしようかなと思って、試写会状をみたら、残りの2回は、
用事があってだめだった。
ダブリンの路上でギターを弾きながら演奏しているストリートミュージシャ
ンが、チェコからの移民の女の子に出会い(クラシックピアノがうまい)、
ふたりで曲を作るようになっていく、というストーリー。男のほうは彼女に
ふられていて、女の子のほうは幼い娘がいて……。
全体の半分以上が歌なので、物語は単純。だから、この映画、結局はここで
流れる曲が好きかどうか、というところで評価が分かれる。男はアイリッシ
ュ・ロックグループの「ザ・フレイムズ」のボーカル・ギターのグレン・ハ
ンサード。女の子のほうは、チェコ生まれで現在、プラハ在住のシンガーソ
ングライター、マルケタ・イルグロヴァ。グレン・ハンサードがプラハを訪
れたときに出会い、コラボレーションを始めたとか。
残念ながら、この手の音楽はあまり好きじゃなくて、一時間半、ちょっとつ
らかった。だけど、好きな人には絶対お勧め。
■ 2007/9/22(土)
夜、原稿の残りを書いて、ロシア映画『この道は母へとつづく』をDVDで
みる。じつは7月に試写会でみてるんだけど、来週、週刊誌で長めのコメン
トをと頼まれて、もう一度みておこうとDVDを送ってもらった。ただし、
「要返却」。
派手さもなく、あざとさもなく、まったく地味な映画なんだけど、誠実に、
じっくり作られた作品で、何度みても飽きない。
今回ひとつ気づいたのは、ときどきとても美しい場面が現れること。最初の
ほうで、車がガス欠で止まるところ(道の両側に雪が広がっている場面)、
夕方、暗くかりかけたなかをバスがやってくる場面(バスの車内の電気がオ
レンジ色っぽくていい)、夜、孤児院の高い高い煙突から白い煙の上がって
いる場面、オレンジ色のバスが走っていく場面、もうひとつの孤児院の玄関
前の風景、最後のほうで、男の子が高架の下みたいなところをやってくる場
面……どれも美しくて、思わず、何度か画面を止めて見入ってしまったほど。
そういえば、昨日の『ブレイブワン』で気づいたことをふたつ。
・ジョディ・フォスター扮するエリカの彼氏はインド系の青年医師で、その
あと彼女が心ひかれる刑事は黒人……ジョディたちを遅うチンピラたちはヒ
スパニック風で、地下鉄のなかで因縁をつけてくる少年たちは黒人。このあ
たりがニューヨークのリアリティなのかなという気がした。
・エリカが車に監禁されていた女の子を助けるとき、その子に 'I'm
nobody.' という場面があり、そのあと、エリカは刑事に連れられて、病院
に収容された女の子に会いにいく。つまりエリカが犯人ではないかとあたり
をつけた刑事が、少女にエリカを知っているかどうか確かめようとするとこ
ろ。「あの事件のとき、だれかみなかったかい?」とたずねる刑事に、少女
はエリカをみて、 'I saw nobody.' と答える。字幕は「だれもみなかった
」となっているんだけど、これには「'nobody' をみた」という意味がかけ
てあるわけで、このあたりのおもしろさは字幕じゃ無理らしい。翻訳ならな
んとかなるかも。
■ 2007/9/21(金)
午後、都心へ。試写会を2本。
『マイティ・ハート:愛と絆』
2002年、パキスタンのカラチで「ウォール・ストリート・ジャーナル」
紙の記者ダニエルが誘拐され……。
「パキスタンのテロ対策組織のリーダーや、アメリカ領事館の安全保障担当
官、FBI、さらに”ウォール・ストリート・ジャーナル”のダニエルの同
僚たちが一堂に会して、30日間にも及ぶ緊迫の捜査が進行する」(パンフ
より)
しかし常にその中心にいるのが、ダニエルの妻であり、フランスのラジオ局
の記者でもあるマリアンヌ。妊娠5ヵ月。
9.11以降、ダニエルとマリアンヌはジャーナリストとしてアジアの各地を
転々として、カラチにやってきていた。そして2002年1月のダニエルのイン
タビューが終われば、ふたりは帰国する予定だった。その最後の取材で誘拐
事件が起こる。
パキスタンの街を舞台に捜査が進み、誘拐事件の真相が少しずつ明らかにな
っていく様子がリアルにハイテンポで描かれていく一方、マリアンヌの不安
と焦燥が驚くほど鮮やかに描かれていき……一気に事件の真相とその結末へ。
一瞬のゆるぎもない緻密な構成、現地ロケの迫力とリアリティ、せめぎ合い
ぶつかり合う力、いやおうなく事件に引きずりこまれる人々、そしてその葛
藤。
最後の最後で、この映画が実話にもとづくものとわかり、あらためて感動。
なによりマリアンヌ役のアンジェリーナ・ジョリーが圧倒的。しかし、イン
ド人(?)の女性記者アスラ役のアーチー・パンジャビ、テロ対策組織のキ
ャプテン役のイルファン・カーンなんかも好演。拍手!
今年みた映画のなかでは(いまのところ)、昨日の『ある愛の風景』がベス
ト1、今日の『マイティ・ハート』がベスト2。
『ブレイブワン』
ニューヨークの様々な顔をルポするラジオのパーソナリティ、エリカはボー
イフレンド・婚約者(外科医?)と公園を散歩していたところを3人の若者
に襲われ暴行を受ける。ボーイフレンドは即死、エリカも重傷を負いながら、
なんとか復帰。しかし、街を歩く恐怖に耐えきれず闇でピストルを手に入れ、
やがて、その引き金を引くようになっていく……。
この映画はだめでした。いくら悪いやつでも凶悪なやつでも邪悪なやつでも
残虐非道なやつでも、殺しちゃだめだと思う(小学生みたいだけど)。自分
だけ超人的な力を持って、いやなやつは片っ端から抹殺してやりたいと思う
ことはだれでもあるんだろうけど、思うだけでとどまっているからいいわけ
で、やっちゃったら、おしまいでしょう(小学生みたいだけど)。
エンディングも、「いい話」っぽくまとめてあるけど、ちっともよくないと
思う。この映画、どこかがねじれているような気がしてならない。ラジオの
パーソナリティをやっているときのジョディ・フォスターが魅力的なだけに、
よけい残念。
■ 2007/9/20(木)
3時半から京橋で試写会……と思って、3時前にいってみたら、場所が違っ
ていた。あわてて渋谷へ。ぎりぎりセーフ。
映画は『ある愛の風景』。こないだ観た『アフター・ウェディング』の監督、
スサンネ・ビアの作品。『アフター・ウェディング』もよかったけど、こち
らは数十倍素晴らしい。
アフガンで戦死した夫ミカエル、残された妻サラとふたりの娘。ミカエルの
弟で、刑務所から出所してきたばかりのどうしようもない弟ヤニックは、こ
れを機に心を入れかえ、まっとうな人生にもどろうとするうち、サラにひか
れていく。そこに、捕虜になっていたミカエルがもどってくる。しかし優し
い夫であり父親であったはずのミカエルは別人のようになっていた……とい
う風なストーリー。
とにかく、最初から最後まで痛切で、荒々しく、衝撃的で、凶暴で、優しく、
切なく、終わるまで、ろくに息もつけなかった。
子役のふたりが好演!
じつは今年の4月から、月に5本くらい映画を観てきて、そこそこいい映画
にあたってきたのだが、いつもなにかしら不満が残った。小説や詩の世界に
親しみすぎてきて、いつの間にか、自分には映画に対する感受性が薄れてき
たのではないか、映画にはもう心から感動できなくなってきたのではないか、
という気さえしていたのだが、この『ある愛の風景』に出会って、そんな不
安は吹っ飛んでしまった。
とにかく、すごい映画だと思う。今年観た映画(といってもせいぜい30本弱
だが)のなかで桁外れによかった!
■ 2007/9/11(火)
10時に『幸せのレシピ』の試写会をみに、内幸町の日比谷セントラルビルへ。
ワーナーの映画はこのところ「これ!」というものがなく、今回の映画も試
写会の案内状をみる限り、能天気なハリウッド料理・恋愛映画みたいで、あ
ーつまんないだろうなーと思いつつ、眠い目をこすりながら、試写会場へ。
と、これが大当たりで、ちょっと涙のにじんだ目をこすりながら試写会場を
出てきた。
いやあ、これが、なかなかよかったのですよ。
ニューヨークの高級レストランの凄腕女性シェフ、ケイトが主人公。最初の
ほうで、いきなり姉が死んで、残された姪っ子を引き取るはめに。はっきり
いって、これは料理映画というより、ケイトと姪っ子の物語で、このふたり
が、まあ、うまくいかないわけだ。料理のことしか頭にない……けど、姪っ
子もかわいいし、母親の死をうまく受け入れられない姪っ子がかわいそうだ
し……なんだけど、どうもすることなすこと、なんかずれてて、ふたりの関
係はぎくしゃくしたまま。
そこへ、厨房の手が足りないというので、ニックというイタリア料理の若く
てハンサムなコックが採用され……いうまでもなく、負けず嫌いのケイトは
憤然として支配人にかけあうが……
ごくごくありがちな展開で、よくあるエンディング……なんだけど、細かい
エピソードや、ちょっとした演出や、ささいな味付けが微妙によくて、場面
場面で、けっこうじんときてしまった。この手の映画に対しては、「その手
に乗るか!」という態度でみてしまう金原も、途中からあっさりオフガード
にされてしまった。『主人公は僕だった』もよかったけど、それよりさらに
いい点を付けてしまいそう。
しかし、なによりなによりなにより、姪っ子役のアビゲイル・ブレスリンが
はまりすぎ! もう満点以上の満点! 大人の役者みんな、くわれてるもん
ね。ロレンス・オリヴィエが、「犬と子どもとはいっしょに出ない」といっ
たというのがよくわかる。
電車でふと気がついたのは、母親と娘の映画が続いたな、ということ。
『サラエボの花』(サラエボの、死んだ父親をめぐる、非情に厳しい、母親
と娘の葛藤)
『アフター・ウェディング』(北欧の裕福な一家の母と娘、という視点から
もみられる)
『幸せのレシピ』(ニューヨークの継母と姪っ子の物語)
どれも、とりあえず悲惨な結末にはならず、ハッピーエンドのものもあるけ
れど、かなりシビアな部分を含んでいて、そこがおもしろい。しかし、本当
にいろんな家族があるなと思う。
■ 2007/9/5(水)
6時半から、六本木で『タロットカード殺人事件』の試写会。
カロンの艀(あの世に渡る船)に乗っていた、敏腕記者が幽霊になって、ロ
ンドンにもどり、ジャーナリスト志望の女子大生(スカーレット・ヨハンセ
ン)に、タロットカード殺人事件の犯人についてのヒントを与えて消える。
女子大生は、ステージマジシャン(ウディ・アレン)と知り合い、いっしょ
にこの事件解決に乗り出す……が、あれこれあって、すったもんだして、ふ
たりとも右往左往して……というふうな作品。
まあ、おもしろいし、みて損はないと思うけど、往年のウディ・アレンのフ
ァンとしては、物足りなく、食い足りない。小粒にまとまったウェルメイド
のクライム・コメディ。ウディ・アレンもしばらく見ないうちに、年とって、
丸くなっちゃったんだなと思って、ちょっと悲しかった。
■ 2007/9/3(月)
3時半から試写会。『アフター・ウエディング』。スサンネ・ビア監督。デ
ンマーク映画。
「インドで孤児たちの援助活動に従事するデンマーク人、ヤコブ。財政難の
孤児院を運営する彼のもとに、デンマークの実業家ヨルゲンから巨額の寄付
金の申し出が舞い込む」(パンフより)
ヤコブは何十年かぶりにデンマークに帰ってヨルゲンに会い、ヨルゲンの娘
の結婚式に招かれる。ところがヨルゲンの妻は、何十年か前に別れた恋人で、
ヨルゲンの娘は自分の子どもだったことがわかる……とまあ、ここから話が
始まる。
とても誠実にていねいに作られた映画で、最後まで適度な緊張が続く。いい
映画でした。
■ 2007/8/27(月)
夜、『サラエボの花』(2006年度作品)というボスニア・ヘルツェゴビナ映
画の試写会へ。
ボスニア内戦から12年後のサラエボが舞台で、修学旅行を楽しみにしてい
る娘サラと、その費用が出せなくてバーで働き始める母親エスマのふたりが
中心。ただ、父親が戦死したシャヒード(殉教者)であれば、修学旅行の費
用は免除されることになっている。サラは、父親が戦死した証明書を早く用
意してほしいというが、エスマはなんとか費用を工面しようとする。
母と娘のストーリーに、バーの用心棒、殺しの相談、ピストルなんかがから
んできて、何度も物騒な雰囲気が盛り上がるけど、暴力的な方向へは進んで
いかない。あくまでも、母と娘との間に広がっていく亀裂と、ふたりの心情
が中心になっている。
背景になっている戦争と、その傷跡、という部分では、2004年の『亀も空を
飛ぶ』(監督はイランのクルド人バフマン・ゴバディ)にちょっと似ている
かもしれない。
どちらが好きかといわれると、鮮烈な印象を残す『亀も空を飛ぶ』のほうか
な。しかし、『サラエボの花』も淡々とした流れのなかに、しっかりとした
リアリティがあって、最後のシーンはぐっときてしまった。
イラン映画もボスニア映画もじつにおもしろい。そしてひとつひとつが粒だ
っている。
■ 2007/8/23(木)
10時から日比谷の試写会場で『Closed Note』の試写会。
古い借家に住むことになった女子大生が、前の住人の日記を見つけて読むう
ちに、女子大生の物語と、前の住人の物語が徐々に重なっていく。
ツッコミ所はあちこちにあっておいおいという感じで(・女子大生も小学校
の先生も、なんで、あんなにいいうちにひとりで住んでるんだとか、・家具
とか食器もずいぶんおしゃれすぎだとか、・女子大生、教育学部のくせに教
育学勉強してないとか、・女子大生、化粧が上手すぎとか)、そのうえスト
ーリーがセンチメンタルでときどき恥ずかしくなるけど、よかった。なにが
よかったかというと、とてもていねいに作られていること。ほんとうに、細
かいところまで神経の行き届いた、きちんと作られた映画だと思う。小道具
の使い方うますぎ、小技も効き過ぎ……これもホメコトバ。監督と脚本家に
拍手。それから、沢尻エリカにも拍手。蛇足ながら、『スパイダーマン』と
同じように、この映画でも、男が泣くなあ。最近の流行?
■ 2007/8/10(金)
『さらばベルリン』の試写会へ。
ソダーバーグ監督、がんばっているのはわかるけど、映画はいまひとつかな
あ。どこに力を入れて作ったのかが、いまひとつ不明。
それから、最後の最後に明かされる秘密。途中から、まさか「××」じゃな
いよなと思いながらみていたら、もろに「××」だったので、心のなかで思
いきりブーイング。そりゃないよ! あまりに安易でしょう。ただ、試写が
終わって電車の中でぼんやり考えていたら、「もしかしたら、あの告白は、
面倒な男を振り切る嘘だったのかな」という気がしてきた。そうか、それな
らまあいいや……という感じ。
ただ、タリー役のトビー・マグワイアがいいなあ。スパイダーマンなんかよ
りずっとずっとずっといい! 助演男優賞に推します!
それから、本編が始まるまえの予告編がなんと I Am Legend ! おおおお
お! これで3回目の映画化じゃん! なつかしい。みなくちゃ! チャー
ルトン・ヘストンもなつかしいぞ! ちなみにこの作品、金原が生まれたと
きに出版されたらしい。そうそう、古典的SF、リチャード・マシスンの『
吸血鬼・地球最後の男・オメガマン』です。
■ 2007/8/7(火)
イラン映画『オフサイド・ガールズ』を観る。
舞台になっているのは2006年ドイツワールドカップ出場がかかった、イラン
対バーレーンの試合。これを観ようと男装してもぐりこもうとして(イラン
では、女性のサッカー観戦は禁止されているらしい)つかまった女の子たち
の物語。監督は『白い風船』のジャファル・パナヒ。
一般にイラン映画はモンタージュの手法(カットアンドペースト)の手法を
あまり使わずに、べたに撮っていくことが多いんだけど、この作品もまさに
そういう意味でのベタな映画。そこがぐだぐだやってるように思えてだるい
と感じるか、おお、リアルじゃんと感じるか、そのへんが、この手の映画の
マニアになるかどうかの分かれ目かな。
『友だちのうちはどこ』のアッバス・キアロスタミや、『運動靴と赤い金魚
』のマジッド・マジディなんかの映画に慣れていないと、眠くなるかもしれ
ない。
けど、いったんこの流れに慣れてしまうと、とても快い。まず、なにより、
どうしても試合を観たいという女の子たちがよく撮れているし、女の子をつ
かまえて監視する兵士たちもちょっと頼りなくて、おかしい。
■ 2007/8/2(木)
まず、築地で10時から『ウィッカーマン』のリメイク版の試写会。
じつはオリジナルもビデオで昔に観たことがあって、カルトっぽい物だとい
うのは知っていて、「今回はいったい、どんな仕掛けがあるのかな。どんな
工夫がしてあるのかな」と期待が大きかった。ファーストシーンの持ってい
きかたなんかは、「おお!」で、これは期待できるぞと思ったものの、物語
が進むにしたがって、次第にボルテージが低下。オリジナルのほうは、いか
にも時代を感じさせるカルト映画っぽく、いってみればアングラっぽく撮っ
てあったから時代を感じるのは当然なんだけど、今回の映画も妙に古い感じ
がしてならなかった。
試写会が終わってタクシーで歌舞伎座のむかいにある試写会場へ。今日二本
目の試写会は『スターダスト』。共訳者の人と待ち合わせて、軽く昼食をと
ってから、早めに会場へ。
これがおもしろかったのだ。だいたい、原作を読んでから映画を観ると、十
中八九、はずれ……というのが相場だ。それが自分の訳したものを映画で観
るとなると、かなり評価は厳しい。たとえば『サハラに舞う羽根』も『ツォ
ツィ』も、やっぱり原作のほうがずっといいと思ってしまう。
ところが、『スターダスト』は、予想以上にいいできで、楽しかったし、最
後はかなりハッピーになれた。
もちろん、エンディングのほかにも原作とちがったところはあちこちにある
んだけど、スタッフの人たちが、出演者をふくめて、楽しく作ってるんだろ
うなという気持が伝わってくる(ような気がする)
とくに7人の王子の扱いなんて、小説ではまずできない。
見終わって、よかったな、と思える映画はいい。
■ 2007/7/12(木)
6時半から、京橋で、『酔いどれ詩人になるまえに』の試写会。
『町でいちばんの美女』『詩人と女たち』の作者、チャールズ・ブコウスキ
ーを主人公にした映画。
のべつ幕なしにタバコを吸い、酒を飲み、女を抱き、仕事を次々にくびにな
りながら、詩や小説を書く男の物語……というか、「物語」はほとんどなく、
そういうだらだらした生活が延々と、のびのびと、薄汚く、だらしなく描か
れていく。「ろくでなし」とか「無頼派」とかという感じではまったくなく、
ただのだめ男。抱かれる女たち、リリ・テイラーもマリサ・トメイも、おば
さん風。この映画を観る限り、ブコウスキーはセックスは下手だと思う。
そのブコウスキーを演じているのがマット・ディロン。
いやあ、いい映画でした。
■ 2007/7/10(火)
『トランスフォーム』の試写会。
うううんんん……なんなんだこれは。設定があまりにびっくりで、ストーリ
ーが桁外れにありきたりじゃないか。
「金属生命体は地球上のあらゆるテクノロジーをトレースし、部品の一つ一
つまでコピーする。そしてその生命体が変身した機械は必要に応じ、より攻
撃的な形へと〈トランスフォーム〉する……」
だけど結局は、車やダンプやジェット戦闘機が(超合金風)巨大ロボットに
変身するだけ(ではないけど、だけ)なのだ。
そして地球を救うべく活躍するのが男の子と女の子(まあ、このへんはよし
としよう。ふたりともかわいいし。そうそう、ついでに書いておくと、エン
ディングもかわいい)。
というわけで、これは徹頭徹尾、子ども向けの映画じゃないか。そう思うと、
ほほえましく、楽しく思えてくる。
じつは男子学生に、この話をしたら、「変身シーンとか、巨大ロボットのリ
アリティとか、どうでした?」ときくから、「そりゃ、リアルですごかった
よ」と答えたら、「いいじゃないですか。ほかにいったい何を期待していっ
たんです?」ときかれてしまった。そこで、「じゃあ、きみは観にいくのか
?」ときいたら、「ええ、いきます」と答えたから、「彼女を連れていくの
はやめておくように。連れていくなら、甥っ子くらいだな」といっておいた。
■ 2007/7/5(木)
午後、ロシア映画『この道は母へとつづく』の試写会をみる。孤児院で育っ
て、イタリア人にもらわれそうになった少年が、実の母親に会おうと孤児院
を脱出。追っ手から逃げながら必死に母親の住む町へ……という物語。「実
話から生まれた」とあるから、昔の話かと思ったら、舞台は現代だった。最
初、寂しげな雪景色のなか、金持ちのイタリア人夫婦を乗せた車がガス欠で
止まってしまい、携帯で電話すると、孤児たちがぞろぞろやってきて、みん
なで押して孤児院までいくところなんか、この作品の世界をうまく凝縮して
いる。そして、いまのロシアの貧しい部分が、ざらざらした感じで暴力的に
描かれている部分がなにより印象に残った。
そういえば、ずいぶん寒いはずなのに、ボイラーをがんがんたいているせい
か、孤児院の中では子どもたちは半袖のシャツ姿だったりするのもおもしろ
い。
最後のほうで、「どこで覚えたんだ? 手首切り」「まえにみたことがある
んだ」というあたりは思わず、ぐっときてしまった。
けれんみのない、実直な撮り方がとても効果的だと思う。
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☆それでは次号で!
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【児童文学評論】 No.120-03 金原映画日記後編 2007.12.25日号
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