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2009/06/27

***DOKUSHO-ZARU No.141***

=== Reading Monkey ======================================
   読 書 猿   Reading Monkey
     第141号 (ローマからローマへ号)
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  ■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。
 
■■内務省衛生局『流行性感冒』 (東洋文庫) ============■

 昨年夏に、東洋文庫という、わりと目立たないところから出た本だが、内務
省衛生局が1922年に出した調査報告書の翻刻である。この報告書、存在は
知られていたが長らく所在がわからなかった。
 内容は、各地域における患者発生と死者数の統計から、剖検所見、当時の予
防対策と治療方法にまで及ぶ。当時の啓発ポスターも掲載されている。 

 * 流行性感冒 手當てが早ければ直ぐ治る 
 * 恐るべし「ハヤリカゼ」の「バイキン」! マスクをかけぬ命知らず 
 * 「テバナシ」に「セキ」をされては堪らない 
 * 含嗽セよ 朝な夕なに 
 * 豫防注射で宿のなくなる風乃神 
 * 親と子の居間も隔てて身を守れ 病の敵の宿にある間は 
 * 惡性感冒 病人は成るべく別の部屋に 
 * 汽車電車人の中ではマスクせよ 外出の後はウガヒ忘るな
 
 この報告書の原本は、国立保健医療科学院のサイトの
http://www.niph.go.jp/toshokan/koten/Statistics/10008882.html
で閲覧可能である。上のポスターもカラーで見ることができる。

 なお「スペインかぜ」については、次の2冊が必読に近い文献。
・A.W.クロスビー『史上最悪のインフルエンザ』(みすず書房,2004) 
・速水 融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザー人類とウイルスの第一次
世界戦争』(藤原書店,2006) 


■■ホメロス『オデュッセイア』(岩波文庫、他)==========■

 ホメロスは世界で最初の、しかも最高の文学者だ。ここで神話と文学は分か
れる。ファンタジーと海洋文学が同時に始まる。
 古代ギリシアの悲劇も叙事詩も、ともに神の血を引く人間たちの姿が英雄的
に描かれる。
 だが、『オデュッセイア』は違う。
 この主人公は、どんな英雄も、巨人も、精霊も、神をも向こうに回すが、そ
の終始違わぬその望みは、愛するものがいる故郷へ、我が家へ帰り着くことだ
けだ。なにしろ戦争に駆り出されたくなくて、アホの振りをしたくらいだ。な
んというマイ・ホーム野郎だろう。
 多くの神に愛され守られていたトロイアは、この男オデュッセウスの知謀な
しには、決して攻略されなかっただろう。
 そのせいで神の恨みを買ったオデュッセウスは、10年間の戦争の後、さら
に10年、世界中の海を彷徨い、恐ろしい一つ目の巨人や歌声で魅了し船とい
う船を難破させるセイレーンなんかに遭遇する羽目になる。あらゆる危険を切
り抜け、未知なる海という海を巡り、森羅万象を学びながら、たったひとつだ
けを望み続け、男はとうとうその望みを果たした。
 その旅に報いて、神ゼウスは、その男と妻のために、昼の時間を縮めて、夜
の時間を引き延ばすことで応じた(意味の分からない人は、親に聞きなさい)。


■■東大落語会篇『増補落語事典』(青蛙房)===========■

 落語の音源を集めているが、聞く時間がない。 

 島本和彦曰く「人生には、ビデオに録画する時間はあっても、録画したもの
を見る時間はない」ではないが。 

 で、文庫を持ち歩いて読んでいるのだけれど、今読んでみると、落語は効く。
かなり栄養になる。字で読んでみて、やっとわかったところも多い。 

 リファレンスとしては、東大落語会篇『増補落語事典』(青蛙房)が便利。
というか不二。 

 多分、今、噺されている落語は4〜500くらいだろうか、この事典は、よ
くも集めたものだと思うが、A5版で600ページに1260も落語の簡単な
紹介がある。 

 落語は口承文芸なので、噺の題はけっこう異同があるが、そういうのも拾って
いるので、落語の噺を参照するとき、この事典で使われている方を使うとよい。


■■エリック・ホッファー『波止場日記』(みすず書房)=======■

 ミスフィット(misfit)という言葉は、ホッファーの本で知った。「フィッ
トし損なってる」、不適格者って意味だ。ただ自分一人がミスフィットなんだ
と考えるのは、若いうちは珍しいことじゃない。ホッファーが気づいたのは、
自分はミスフィットという一群の人々、あるいは階層に属している、というこ
とだ。俺たちは孤独ではない。しかし、孤独でない者同士でさえ、お互いを慰
めることがかなわない。そういう人間たちが大勢いる。私やあなたも、そうか
もしれない。
 ホッファーは7歳のときに母と視力を失った。それから8年間、目が見えず、
そのあと奇跡的に視力を回復した。気づくと15になっていて、学校へ行った
ことは一度もなかった。視力が回復してから、次に失うかもしれないいつかを
恐れて、それまでの間、できるだけ多くを読もうと、一日12時間、本を読みつ
づけた。
 20歳前後で父が死に、天涯孤独になった。残った300ドルをもってバスでロス
に行き、スキッド・ロウ(どや街)に入った。1930年、28 歳までスキッド・ロ
ウでその日暮らしを続けた。自殺もしてみたが死にきれず、ロスを出てカリフォ
ルニア中を動きまわった。 1934年の冬、こういう自分がいったい社会の中の何
にあたるのか、やっと思い知った。

 ミスフィット(misfit)だ。

 ホッファーはその後も、肉体労働を続けながら、本を読み続けた。ポケット
にあるのはモンテーニュだった。モンテーニュは、おれのことを書いている!
とホッファーは思ったんだ。彼はその後も、サンフランシスコで沖仲仕、つま
り船の荷物運びの仕事を続けながら、読み続け、書き続けた。
 沖仲仕の哲学者と呼ばれるようになるのは、もう少し後の話だ。 

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