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2008/02/03

***DOKUSHO-ZARU No.136***

=== Reading Monkey ======================================
   読 書 猿   Reading Monkey
     第136号 (ふわりふわり号)
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  ■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。

■■貝沢二朗『医学薬学翻訳事典:医学・薬学の基礎がわかる』
                         (イカロス出版)==■

医療翻訳は、他の産業翻訳とちがって景気にあまり左右されず、ニーズはずっと
あるのだが、それに応える翻訳者が足りない。翻訳力を足りないし、翻訳者も足
りない。力のある翻訳者がなかなか育たない。 

医学の進歩が速すぎて、医者でも大変なのだから、翻訳者の知識更新が追いつか
ない。医学の進歩が速いからこそ、仕事はいつもたんまりあるのだが、知識更新
には結構コストがかかる。医学といっても分野はとても広いし、薬学もやってく
れ、といわれるから(そして意外と語彙や言い回しが重ならないし、辞書も別々
なことが多いのだ)、ますますカバーすべき範囲は広くなる。コストをかけても、
すぐにリターンがでないことも多いので(なにしろカバリッジが広がりすぎて、
リターン/コストの分母(コスト)側がでかいので)利益率は下がっていく。知
識更新に投資しても、リターンが得られるまでの期間が長いと、割に合わなくなっ
てくる。 

知識更新のコストを下げられるといいのだが、そんなことが簡単にできるなら、
まず医療関係者育成の場面で先にやってる。医療翻訳は、医療関係者からの転身
は意外と少なくて(そのまま医療関係者をやってた方が実入りがいいのだ)、医
療の基礎知識もないまま、仕事に追われて泥縄式に勉強するというのが多かった
らしい。 

そこで『医学・薬学の基礎がわかる:医学薬学翻訳事典』という本がある。 

凡百の(ってそんなにはないか)医療英語本と違うのは、「ストーリー」がある
ところである。

最も身近で理解しやすい血圧測定から始まって、各種の検査から投薬と体内に入っ
てからの薬の代謝、そこから新薬の開発と認可プロセスとすすんで、免疫のしく
み、からがんの治療へ、そしてそれに遺伝子のはたらき、といったことに各章が
あてられて、簡単な日本語にどんどん説明していく。まるで中学の教科書のよう
な文章だ。キーワードには、さりげなく、かっこ付きで英語も書いてある。

つまり「辞典」ではないのである。各章のつながりはなんとなく流れがあって、
しかも何度も繰り返し出てくる「登場人物」もいて、たとえばクロマトグラフィ
はまず検査のところで登場し、新薬開発や遺伝子工学などでも再三でも出てくる。
自然と繰り返されることは覚えていく。確かに医学・薬学の基礎の基礎ぐらいは、
この小さな本で説明されているような気がしてくる。

 
しかし、この本にはもう一つの顔がある。あの文中に、図解に、さりげなく埋め
込まれていた英単語である。実は各章末には、各章の内容をまとめたり、もしく
は章の内容と関連している日本語の短文が問題として置かれている。つまり、こ
れを英語に訳せ、と練習問題になっている。各章の内容と、埋め込まれてていた
英単語を、ちゃんと覚えていればしていれば、これくらいは軽いはずだ、という
構成なのである。

もちろん最初は歯が立たない。1回目はあらすじを覚えるので精一杯だろう。2
回目は内容の細部にも目が届くだろう。3回目には、問題の短文に使うキーワー
ドくらいは思いつくかもしれない。このあたりから、先に答えである英文を見て、
問題の日本語文と往復していくうちに、医薬翻訳に最低限必要な背景知識と専門
用語が身に付くという仕掛けである。

インデクスは充実しているから、読書中に何度も出てくる頻出用語を探すにも、
マスターしたあと辞典として使用する際にも,役に立つ。なるほどよくできてい
る。

と、こんな本が、品切れ/絶版なのだという。


■■バーバー『催眠』(誠信書房;催眠名著シリーズ2)=========■

 催眠というと、何か特別なことができるんじゃないかと思っている人はまだ大
勢いるらしい。
 いつぞやの「ハーレム親父」が持っていた催眠本(内容はクソみたいなもので
ある)が何万円で売られていたり、なんとかいう名前の洗脳せんせいが、もっと
こうすればちがっていたなどと見当違いなコメントを出したり、田舎の催眠せん
せいかそのエピゴーネンか知らないが、フリーのメールアドレスを取得して、何
人もの人になりすまし、某大手ネット書店で,好意的なコメントを20個ほどつ
けて、それがよい宣伝になって買う人がいるらしい。

 やれやれ。

 「催眠に何ができるか」を明らかにする際に,純粋に催眠の効果は何であり,ま
たどれだけあるのかをはっきりさせるには,ある種の「引き算」が必要なのでは
ないか,とバーバーは考えた。というのは,人が催眠に入り暗示された行動を行
うところを詳しく見てみると,催眠誘導以外の働きがけや状況設定のあり方が大
きく影響しているように見えるからである。 

 歴史的に有名な(悪名高き)例は,パリ派のシャルコーのサルペトリエール病院
における公開臨床講議です。シャルコーはこの講義を、医学生ばかりか一般にも
公開していた。ヒステリー患者がシャルコー教授の催眠術で発作を起こすこの「
講義」は,パリ社交界で大人気の「見せ物」となった。講義に被験者となったの
は年若い美女の患者で(しかもハムレットのオフィーリアの衣装など身に付け
て!)、しかもいかにもそれらしい「発作」を演ずることができる患者が選ばれ
ていた。その様子を描いた絵がある。 

http://thefootblog.files.wordpress.com/2006/11/charcotport.jpg 

画面左端にかかった説明図や、講義として行われたであろう聴衆に向けたシャル
コーの解説、それに何よりも着せられた衣装が、被験者に対して「あなたには何
が望まれているか」をしっかり伝えてしまってる。 

 こうした「期待」は,ステージ催眠やテレビの催眠術などでおなじみのものであ
る。しかし,それだけでなく,催眠の科学的研究と言われてきたものにも潜んで
いるのでは,とバーバーと指摘し,そうした催眠以外の無自覚的な働きかけの効
果を差し引いて,催眠そのものの効果を明らかにするには,比較実験の必要があ
ると考えた。ちょうど新薬の効果を計るのに,プラセボ(見た目はそっくりだが
薬理効果のない小麦粉などでつくった偽薬)を飲ませたグループと新薬を飲ませ
たグループを比較するようなものだ。 

 バーバーは比較対象として,task motivation(課題遂行の動機付け)をなされ
たグループを使う方法を提案した。動機付けされたグループと催眠をかけられた
グループを比較すれば,催眠誘導の最中や前後に無自覚にまぎれこむ「○○なこ
とをやってほしい」という実験者の期待やそこから生じる被験者への動機付けの
効果を差し引いて,催眠そのもの効果をつきとめることができるだろうという訳
である。この実験方法(デザイン)をtask motivation protocolという。 

 多くの「催眠現象」について,催眠誘導を受けたグループと,課題遂行の動機
付けをされたグループの両者で実験が行われた。たとえば(センセーショナルな
例では),暗示が火傷の火ぶくれをつくることができるか?心臓の鼓動を暗示に
よって速めたり止めたりすることができるか?はたまた暗示によって自分や他人
を害したりさせられるか?いわゆる健忘や後催眠暗示の反応は引き起こせるか? 

 結果はこうだ。催眠誘導を受けたグループで起こせた現象は,対照群である課
題遂行の動機付けをされたグループでも起った。その程度や頻度も,両者の間で
ほとんど変わらなかった。新薬の研究なら,プラセボと同じだけの効果しかない
場合,その新薬は「効果なし」とされる。
 バーバーは,催眠誘導はそれ独自の効果をもたない,と結論しました。たとえ
ば,人は外からの熱なしで「火傷」になることができるが、それには必ずしも催
眠を必要としないのである。

と、こんな本が、品切れ/絶版なのだという。
原書の方は、1995年にリニューアル版が出てる。


■■『ハインズ博士「超科学」をきる:真の科学とニセの科学をわけるもの』
                           (化学同人)==■ 

 栄養学とならんでポピュラー・サイエンス化(あるいはブードゥー・サイエン
ス化?)しやすい心理学(脳科学とやらもそうだ)。こうしたココロ系で、トン
デモを識別するのに、最も簡便な目印は「右脳」だろう。 

「右脳/左脳」と言ってるようなのは、みんなトンデモ。NLPからドーマン法
まで、これで切り捨てできる。 

できる、といっても、わかってる人には最初から必要ない訳で、数多いる信者の
人たちに利用可能かといえば、心もとない。一度コミットしたなら、コミットし
た自分ごと「切り捨て」なければならない訳で、その痛みはでかい(ので擁護す
る方に回りたくなるのが人情だろう)。とくに発達障害をもつ親御さんがドーマ
ン法に入れ込んでる場合など、自分はおろか我が子まで巻き添えである。親心に
つけこむ、ふてえ野郎だ。 

そういえば、NLPからドーマン法まで(いやもっとたくさんのエセ科学を)切っ
ていた 『ハインズ博士「超科学」をきる』がこれまた品切れらしい。 

疑似(似非)科学の教科書としては初めて書かれたというTerence Hines,"Pseudo
science and the Paranormal"(1988, 2003)には、邦訳として、井山弘幸訳 『ハ
インズ博士「超科学」をきる:真の科学とニセの科学をわけるもの』『ハインズ
博士「超科学」をきる:臨死体験から信仰療法まで〈Part2〉』(ともに化学同人,
1995) があるのだが、現在品切れ(絶版?)で、古書も値上がりして、手に入り
にくいらしい。

邦訳は1988年の初版からの訳だが、原書の方は2003年に増補改訂した第2版があ
る。2006年には素材となったトンデモ理論を集めたリーディングスまで出ている。
しかし初版では最終章である12章のCurrent Trend in Pseudoscienceの中に、
Functional Differences Between the Two Sides of the Brainという節があった
のだが、第2版ではすでにCurrent Trend(最近の動向)でなくなったらしく(そ
りゃそうだ)、Pyramid Powerなどとともに、節ごと消えている。右脳/左脳説は
ピラミッド・パワーと同じくらい古くさいという訳だろうか。

なお「Functional Differences Between the Two Sides of the Brain」の部分は
某所にへたくそな訳文があるので、検索してみるのもよいかもしれない。

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なお、復刊ドットコムは、www.fukkan.com/

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