読書猿 Reading Monkey  RSSを登録する

日の当たらない学術書、目も当てられない新刊書、古今東西あらゆる本を、笑って指南、読書猿。全国の「本好き」と「本嫌い」に送る超ジャンル書評・書籍紹介。その筋では今や有名、読書プッシュマガジン。読書猿。

最新号をメルマガでお届けします    
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。
2007/09/23

***DOKUSHO-ZARU No.135***

=== Reading Monkey ======================================
   読 書 猿   Reading Monkey
     第135号 (大きな本屋号)
======================================================
  ■読書猿は、全国の「本好き」と「本嫌い」におくるメールマガジンです。


■■シュピッツァー『脳 回路網の中の精神』(新曜社)=========■

 例えば、なぜ徹夜明けのダジャレは効くのだろうか?

 クレペリンの弟子が、夜勤の同僚を襲って(正確には時間を決めて、語を示し
て連想させて)実験してみた。時間が遅くなり、さらに夜明け前になって披露が
増すほど、意味が近い語が連想される割合は小さくなり、音が近い語が連想され
る割合が増していった。
 まだ実験心理学者だったころのユングは、被験者を疲労させるかわりに、別の
課題をやらせて集中を邪魔して同じ実験をしてみた。集中が乱されるほど、やは
り意味が近い語が連想される割合は小さくなり、音が近い語が連想される割合が
増していった。

 脳における言語情報処理のそれぞれのステップは、それぞれを担当する大脳皮
質のエリアによって行われる。このエリアのそれぞれは、提示された情報につい
て、似たものは近くに、そうでないものは離して配置するような、自発的な類似
性の地図をつくりだす構造を持っている。意味を処理するエリアもそうだし、音
素を処理するエリアもそうだ。 フィンランドの工学者コホネンは、情報を入力
して行くだけで、自己組織的に地図を作り出すネットワークのモデルを提示して
る。この自己組織化マップ(SOM)、別名コホネン・ネットワークは、ひとつ
のパターンが入力されると、出力層(コホネン層)のニューロンの間で競争が巻
き起こる。ひとつのニューロンへの入力がある値を超えると(この一人勝ちする
ニューロンを勝利ニューロンと呼ぶ)、その近辺にいるニューロンもまた活性化
されやすくなる。しかし、それ以外のニューロンは抑制される。この繰り返しで、
似た入力パターンには、近いところのニューロンが反応し、違ったパターンの入
力には、互いに離れたニューロンが反応するようなマップができていく。

 さて、シュピッツァーは、統合失調症の患者相手に、もう少し洗練した実験を
行った。言葉が書かれたカードを提示する。その後、ごく短い間だけ別の言葉や
言葉でないデタラメなスペルの並びを提示して、それが「単語」かそうでないか、
を当ててもらうのだ。これまでの実験、それからニューラルネットのモデルから
推察されるように、意味の近い言葉同士は,自己組織化マップの近い場所同士に
マッピングされていることが予想される。最初に提示した「単語」によって、そ
の単語と近い単語たちも活性化されているならば、つづいて提示される単語の提
示時間がとても短くても、それが単語であることが判断つくだろうと予想される。
この活性化の効果をプライミングという。提示するまでの時間や提示時間を帰る
ことで、脳の中のマッピングの近さ遠さを確かめることができそうである。
 シュピッツァーは、健常者と統合失調症の患者にそれぞれ、(1)意味が近い
単語のペア、(2)発音の近い単語のペア、(3)単語とでたらめスペルのペア
を,織り交ぜて提示する実験を行った。それぞれ、後から提示された方が「単語」
であるかどうかを判定してもらうのである。 結果、極めて興味深いもので、統
合失調症の患者は健常者よりも、発音の近い単語への反応が高く、そればかりか
意味の近い単語についての反応も高い。間接連想(火ー赤―ポスト、といった,
この場合なら「赤」を媒介にした連想)についても、反応が高い。健常者も、時
間をかければ(2枚目の単語の提示まで時間を長くとれば)、感染連想語につい
ても、正しく単語だと判定できるのだが、統合失調症の人はずっと短い時間で判
定できるという訳だ。
 音の連想や意味の連想の強さが、統合失調症の症状である、いわゆる「言葉の
サラダ」や突拍子なく見える思考の底にあるのでは、とシュピツァーは推察する。
そして一連の意味の連なりを遂行するために、連想の働きを適度に抑制し、過剰
な連想に思考を持っていかれないようにすること、それにはドーパミンと前頭葉
皮質の働きが必要であることを推理して行く。

 ネタがてんこもりのこの本であつかわれるのは、更に多くのニューラルネット・
モデルと、そこから得られた知見をその他の生物的ないし精神医学的知見とつき
合わせることで解き明かす可能性があるもっと多くのナゾたちだ。子供の言語習
得、自閉症、アルツハイマー型認知障害、海馬と記憶、幻影肢ファンタム・リム
では無くした腕の部分に感覚を感じるだけでなく、やがて顔の感覚、たとえば目
から涙が頬をつたうと、失われた腕の部分にも液体が伝って流れて行くように感
じるのは何故か等等。
 脳をただ色分けしたり、脳内物質の多寡と精神疾患を結び合わせるだけの類書
と異なり、ニューラルネットという。ある意味とてもシンプルなモデルとモデル
を動かすことで得られた実験結果が、複雑な脳機能のからくり(メカニズム)に
肉薄するところがすばらしい。哲学的な論文を書いていたドイツの精神医学者が、
ニューラルネットと実験心理学の手法を駆使して問題に挑んでいく。読むのに必
要な数学的素養は、足し算引き算それにかけ算だけ。実に分かりやすいニューラ
ルネットの入門書であるだけでなく、ニューラルネットを検鏡することにどんな
意味があるのか、実に鮮やかに示してくれる。


■■片岡義男『ブックストアで待ちあわせ』(新潮社)==========■

 昔々、友人たちの多くは時間にルーズで、数十分から1時間の遅刻はあたりま
え。自然に待ち合わせ場所は、時間のつぶせる書店だった。

 書店に就職した知り合いと話したのは、これももう15年以上も前、結論は「
どうも書店と本読みの利害は一致しない」というものだった。

 それからも本屋の数は減り続けた。一方、大型書店の開店が相次ぎ、全書店の
売り場の総面積は倍増した。

 一部の売れる本をどれだけたくさん並べてたくさん売れるかを目指す書店が増
えた。

 視点を「こちら側」に戻せば、広いばかりで読みたい本がない書店が増えた。 
今や本屋での「待ち合わせ」は、正直いくらかの苦痛を伴う。

 1つの本の販売部数が伸びない(本が売れない)から、出版社はたくさんの本
を矢継ぎ早に出す(2003年の時点で年間の新刊点数は8万点を越えている。
 一方で、書店の数ずっと以前に2万店を切りその後も減り続けている。発行部
数の伸び悩みで、初版は,特別なプラス要因がないかぎり、せいぜいが2000
部程度。必然的に多くの本屋で「新刊書すらない」事態となる。

 1つの本の販売部数が伸びない(本が売れない)から、書店もできるかぎり多
くの本を並べたい。だから大型店鋪が増える。

 再販制度の下、本と言うのは不思議な商品で、出版社にとっては、書店で仮に
売れなくても、とにかく納品さえすれば、とりあえずお金が入る。返品分はあと
で差し引くというシステムなので、とにかく新刊を出し続けていくかぎり、お金
が入って、資金繰りが可能になる。

 もちろん書店に並べられた本のすべてが売れる訳ではない。返本率は高く4割
を超えるというから、実は、本屋に送りだした(そしてすでに金を受け取ってし
まった)本の4割について、金を返さなきゃいけないのである。この出版社にとっ
ての「先送りされた借金」が、書店にとっては金にならず売り場を占拠するコス
トフルな「在庫」が、本屋の床面積が増えたことで、実はますます増えている。

 出版社は、返金に対応するための資金を得るために、ますます新刊書を納品し
なければならない。1冊にかける時間は減っていく。発行点数が増えればバクチ
をする回数が多くなるので勝率が一定でも、外す回数、のべの返金額はそれだけ
増える。時間をかけずそれでも「売れる本を」というなら、マーケティングの名
の下に、「売れてる本」の企画や著者や内容を真似するのが最適解となる。こう
して似たような本ばかりが大量に大型書店に平積みされる。


■■船山信次『アルカロイド 毒と薬の宝庫』(共立出版)======■

 花喰う鬼をどこで見たのか。

 佐藤史生の『死せる王女のための孔雀舞(パヴァーヌ)』(←これは知っておい
てよい漫画)の第1話「雨男」のどこかのシーンだった気がする)。第1回鬼の
童話コンテスト佳作受賞作品「花鬼」(作:上埜麒麟)というのもあった。これ
はほっこりする、ちょっといい話。

能に『黒塚』(観世流では「安達が原」)という演目がある。『大和物語』にあ
る「陸奥の 安達が原の黒塚に 鬼籠もれりと 言ふはまことか」という平兼盛
(平安中期の歌人、三十六歌仙のひとり)の歌をもとに謡曲(能の台本)『黒塚』
はつくられた。能の『黒塚』は,安達が原で一夜の宿を求めた山伏一行のひとり
が,見てはならぬといわれた黒塚の女の寝所をのぞいてしまい,辺りにちらばる
骸を気づいてびっくり仰天,鬼と化した女に追われる(最後は祈祷で難を逃れる)
といったよくある筋。一方,『大和物語』での平兼盛は黒塚に住んでいたやんご
となき人に,娘を嫁にくれといって,件の歌を詠んだ。断られると兼盛は京へ行
くと 言い,「花ざかりすぎもやするとかはづなく井手の山吹うしろめたしも」
という歌を詠んで旅に立つ。兼盛は戯れに求婚しようとした娘を「鬼」と呼んで
いるだけで,断られて,花盛り=娘盛りをすぎちゃうぞ,心配だなあと言ってる
だけで,鬼と花を結ぶ線は太くない。花をバクバク食べたから,女は鬼になった
訳ではない。 ところで鬼ならぬ竜にとって,花は鬼門(?)であったという話
がある。

 恐竜の絶滅については,隕石衝突説など諸説あるが,古くから言われていた植
物相の変化というものがある。花をつける植物が登場したのは地球の歴史の上で
は結構新しく約1億年前のこと。それまでは南方熊楠ではないが「隠花植物」ばか
りだった。さて,植物由来のアルカロイドは,こうした花をつける植物に圧倒的
に多く含まれ,対して花をつけない植物にはあまり見られない。

 花をつける植物が地球上に広がり,それまでの草食恐竜の食料であったシダ植
物などのテリトリーを冒していった。と,同時に,アルカロイドを含む植物を摂
取する恐竜も増えていったのかもしれない。アルカロイドの中には猛毒となるも
のもあれば,DNAに影響を与えるものまである。太古,花を喰らう竜は,知ら
ぬうちに,その身を滅ぼしていったのかもしれない。

■■Mas-Colell,"Microeconomic Theory" ,Oxford University Press==■

 マスコレルといえば(注)、ミクロ経済学の超定番教科書だけど、アマゾンだ
と¥ 15,273  (税込)くらいする。Amazon.comでも送料含めると\13,392。
今だとイギリスからの方が安くてAmazon.co.ukで送料込みで\9,430。

 ところが最近、BookFinder.comで探していると、経済学書の出物でインドから
のものが増えてきた気がする。しかも激安。昨今のインド経済の発展は、数学が
強くて2億5千万人が英語がしゃべれて、しかも人件費が安い、というIT経済
にもってこいの人材がうじゃうじゃいることなども背景にあるけれど、英語がで
きるなら、世界標準の経済学教科書がそのまま使えるし、実際使うのだろう。

 インドからのマスコレルは、送料こみで、2000円ちょっとでした。

 しかも本はキレイで、梱包も丁寧。イギリスのパーセルフォースに爪のあか煎
じて煮え汁を飲ませたいくらい。

(注)
 経済学の大学院生のバイブルとして世界中のコースワークミクロで使われてい
る定番中の定番テキスト。消費者理論の基礎から一般均衡にかけての市場分析、
そして後半のメカニズムデザインの記述には特に定評がある。 東大あたりでは
「マスコレルを読むバカ、読まぬバカ」なんてことが言われていた時期があった
らしい。とほほ。

 けれど中国人も英語得意らしいし(語順は基本同じだし、結構一対一対応がつ
くらしい。翻訳速度も英中は、英日よりも速い)、日本語話者であることは、
かなりのハンディキャップなのかも。 

--------------------------------------------------------------------
このメールマガジンは、インターネットの本屋さん『まぐまぐ』を利用して発
行しています。(http://www.mag2.com/ )
=======================================================
     ○電子メールマガジン「読書猿 Reading Monkey」大きな本屋号
      【読書猿のバックナンバーはこちら/引っ越しました】
 →http://www.geocities.co.jp/WallStreet/1356/DOKUSARU.html
      【読書猿本舗はじめました】
 →http://astore.amazon.co.jp/readingmonkey-22/503-2772705-9655923
      【読書猿の読者欄はこちら】
 →http://www.tcup1.com/100/kurubushi.html?
       
     発行元:くるくるPATIO
======================================= Reading Monkey ==


最新号をメルマガでお届け
登録 解除

規約に同意して

登録した方には、まぐまぐの公式メルマガ(無料)をお届けします。

最近の記事

上へ戻る