JOG-Mag No.604 農業大国ニッポンへの道
■■ Japan On the Globe(604)■■ 国際派日本人養成講座 ■■
The Globe Now: 農業大国ニッポンへの道
日本は美味しく安価なコメの輸出大国になれる。
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■不思議その1:食糧不足の中で進められる減反政策■
平成20(2008)年5月、町村信孝官房長官は、講演で「世界
で食糧不足の国があるのに減反しているのはもったいない。減
反政策を見直せば、世界の食糧価格高騰(への対応)に貢献で
きるのではないか」と述べた。
「減反政策」とは、米作農家に補助金を出して、作付面積を減
らす政策である。この政策は昭和45(1970)年から行われ、現
在では250万ヘクタールの水田の4割に相当する110万ヘ
クタールで米作が放棄された。そのために投入された税金は約
7兆円に達する。
世界全体では人口増加に食料増産が追いつかず、穀物市場の
需給が逼迫しつつある。今まで食料を輸出していた国も、まず
自国民を優先するために、輸出規制をするケースも出てきた。
[a]
減反政策をやめ、余ったコメを輸出に回せば、世界の食料価
格高騰を緩和して、貧困国を助けることができる、という町村
長官の指摘はまっとうである。
しかし、この指摘は自民党内から猛反発を受け、長官は同日
の記者会見で「今年すぐにやるとはいっていない」と釈明に追
い込まれた。いったい、減反政策とは誰が何のためにやってい
るのか?
■不思議その2:食糧自給率40%なのにコメ余り■
「世界への貢献」だけの問題ではない。足元では、日本の食糧
自給率は40%と、世界でも異様に低い。我が国は小麦、トウ
モロコシ、大豆などの世界有数の輸入国であり、国際食料価格
の高騰も、日本が「主犯」の一人なのである。
食糧自給率が40%とは、いざ食料が輸入できなくなったら、
日本国民はいまの食料の40%で生きていかなければならない、
という事を意味する。これは現下の食料安全保障上の最大の問
題である。
小麦、トウモロコシなどでは全面的に輸入に頼る一方、コメ
だけはなんとしても国内生産を維持しよう、というのが、これ
までの食料政策だった。そのために、コメの国内価格を国際価
格よりも7、8倍の高水準に据え置き、なおかつ800パーセ
ント近い高関税を課して、コメの輸入を阻止してきたのである。
しかし、需給を無視した高い米価により、当然、農家はコメ
の増産に励み、作りすぎてしまう。一方、消費者の方は高いコ
メを敬遠して、消費量を減少させる。ここからコメの慢性的余
剰が発生した。
コメの価格や供給を国が管理する食糧管理制度(食管制度)
では、生産されたコメを政府が買い入れるが、売れ残った過剰
米は、飼料用や海外援助用に処分する。政府は昭和46(1971)
年からの739万トン、昭和54(1979)年からの650万トン
の2次にわたる過剰米処理に3兆円を支出した。
こうした過剰米を何とか抑えようと、わざわざ補助金を払っ
て、米作を抑制しているのが、減反政策である。需要と供給の
バランスを無視した高米価制度により、余剰米の処理に税金を
使い、さらにそれを抑えようと減反政策に税金を使う。
日本の消費者は高いコメを買わされながら、余剰米の処分に
さらに税金を無駄使いされているわけである。
■不思議その3:不要なミニマム・アクセス米の輸入■
平成5(1993)年のウルグアイ・ラウンド(多角的貿易交渉)
合意で、日本がコメの輸入を実質的に禁止する800%近い高
関税を設定したことの代償として、国内消費量の8%にあたる
77万トンを輸入することを約束した。これがミニマム・アク
セスと呼ばれる制度である。
政府は、ミニマム・アクセスで輸入された米(ミニマム・ア
クセス米と呼ぶ)が国内の高米価には影響を与えないよう、国
内市場からは隔離し、輸入量の大半を海外への食料援助用に保
管している。
しかし、このミニマム・アクセス米の在庫がピーク時には輸
入量の3年分、203万トンにまで膨れあがった。コメを3年
も保管していれば、当然、カビが生えたりする。それを「汚染
米」として、工業用の糊などの原料に安く売却する。
この保管料と売却時の損失とで、平成7(1995)年から平成
18(2006)年までで716億円もの財政負担が生じている。
平成20(2008)年9月、米粉加工会社「三笠フーズ」が、汚
染米を食用に転売していたことが発覚した。糊の原料なら1ト
ン1万円だが、あられ、せんべいなどの加工用途だと7万円、
食用なら25万円から35万円で売れる。
農水省の白須敏朗事務次官は「責任は一義的には食用に回し
た企業にある。私どもには責任があると考えているわけではな
い」としらを切ったが、その後もいくつもの企業が同様の横流
しをしている事が分かった。
農水省は横流しをさせないよう検査していたというが、事前
に検査日程を通知し、それも帳簿だけをチェックするというず
さんなものだった。マスコミからは、「農水省は横流しされる
ことを知っていて売ったのではないか」と、業者との癒着の疑
いまで指摘されている。
こんな問題が起きるのも、そもそも高関税を維持するために、
不必要なミニマム・アクセス米を輸入している、という矛盾が
根底にあるからだ。
■不思議その4:農協関係者は成人人口の1割でGDP1%■
こうしてブラック・ホールのように税金を吸い込んでいく日
本の農業は、日本経済にどれほどの貢献をしているのか。
「日本における06年の農業総産出額は8.5兆円である。これ
はパナソニック1社の売上額約9.1兆円にも及ばない」とは、
元農林官僚・山下一仁氏の近著『農協の大罪』の一節である。
以下、こう続く。
パナソニックの従業員は30万人弱なのに、農業では、
農家戸数は285万戸、農協職員だけで31万人、農協の
組合員は約500万人、准組合員は約440万人もいる。
GDPに占める農業の割合は1%にすぎないのに、日本の
成人人口の1割が農協の職員、組合員、准組合員というこ
とになる。[1,p25]
さらにOECD(経済協力開発機構)が計測した日本の農
業保護額は、農業の総産出額とほぼ同じだという。農業保護額
とは、前述した減反補助金などの財政支援額、および高い米価
の維持による消費者負担など、国家全体としての負担をさす。
すなわち農業で8.5兆円の産出額を生み出すために、同程度
の負担を政府や消費者がしているわけで、差し引きの国民経済
への貢献額はゼロとなってしまう。
パナソニックなどの輸出企業がいくら稼いでも、稼ぎがほと
んどなく、税金や高い米価で国家のすねをかじっている人口が
数多くいるのでは、国民の生活が豊かになれるはずもない。
■不思議その5:農家の9割は「週末農業」■
次に農協の組合員約500万人の実態を見てみよう。平成
17(2005)年の農家の構成は、専業農家23%、第一種兼業農
家(農業所得の方が多い)16%、第二種兼業農家(農業以外
の所得が多い)62%となっている。
専業農家と言っても、高齢化で農業外の収入がなくなったた
め第二種兼業農家を卒業したケースが半分以上あり、65歳未
満の男子生産年齢人口のいる専業農家は9.5%に過ぎない。
何のことはない。農家と言っても、平日は会社勤めや商店経
営をしながら、週末だけ農業を営んだり、あるいは定年後に農
業を続けている農家がほとんどなのだ。
こうした兼業農家は、当然、限られた面積の耕作しかできな
い。また、コスト削減や品質向上に工夫する時間も限られる。
現在、日本のコメの単収(単位面積当たりの収穫高)は、粗
放的な農業を行っているカリフォルニアより3割も低い。耕作
規模が小さく、人件費も高く、その上、単収が低いと三拍子揃っ
ては、日本のコメが高いのも当たり前である。
米作のコストは規模が大きくなれば、大きく下がる。現在の
米価60キロ1万4千円のうち、人件費を除いた物材費(肥料
代や農機具代)は9千円を占める。しかし、5〜10ヘクター
ルと規模の大きい農家の物材費は6千円程度である。
この3千円のコスト差を米価から差し引けば、1万1千円と
なる。一方、近年の食糧不足による価格高騰で、我が国が輸入
している中国産米の価格は1万円である。
安全で美味しい国産米が1万1千円で買えるなら、1万円の
中国産米など買う消費者はいないだろう。こうなれば、無理な
高関税は不用であり、ムダなミニマム・アクセス米を輸入する
必要もない。
■不思議その6:なぜ高コストの兼業農家が大半なのか■
規模の小さな兼業農家の物材費がなぜ高いのか。まず、兼業
農家は週末しか耕作をしないので、雑草が生えると農薬を撒い
て手早く片付けてしまう。兼業農家の方が、肥料や農薬を多用
するのである。
また、週末だけの農作業では、田植機などの農耕機を農繁期
の週末しか使わないので、各戸毎に機械が必要となる。大規模
専業農家なら、平日も機械を使えるし、一台で多くの面積を耕
せるから、機械化投資もはるかに少なくて済む。
しかし、それなら、なぜコストの高い兼業農家が9割も占め
ているのか。他の産業なら、コストの安い供給者がより大きな
シェアを占めるはずだ。
理由の一つは、兼業農家の方が専業農家よりも所得が多いた
めだ。米作主業農家の年間所得は664万円だが、兼業農家の
所得は792万円。一般の勤労者所得646万円も大きく超え
ている。
通常の勤労者としての収入に加えて、週末のアルバイトとし
ての農業収入が入るからである。それも、高コストに見合った
高米価が保証されている。その上、減反に協力すれば、補助金
も貰えるのである。
■不思議その7:日本農業を衰退させてきた農協■
こうした小規模兼業農家を支えているのが、農協である。農
家が使う農薬や肥料、農耕機具などは農協から買える。生産物
も一括して販売してくれる。
農協から見れば、米価が高いほど、高い農薬、肥料、農業機
械を買ってもらえる。コメの販売手数料も膨らむ。組合員約
500万人、准組合員約440万人を抱える農協が、高米価を
要求する政治圧力団体になったのは、当然であろう。
940万の票を使って、農協は自らの利益を代弁する議員を
国会に送り込み、その農林族議員が農林省を動かす。こうして
高米価、コメ輸入阻止、そして減反政策という摩訶不思議な農
政が行われるようになった。
減反政策の見直しを示唆した町村長官に、自民党の中から猛
反発が出たのも、農協をバックとする農林族議員からである。
自民党ばかりではない。かつての社会党も農村票をとるべく、
そして自らは政権担当の可能性もないので、コストを無視して、
自民党以上に強硬に米価引き上げを要求していた。膨大な国庫
負担の対応に追われる自民党も、選挙対策上、それに同調せざ
るを得なかった面がある。
高米価と減反政策を通じて、数は多いが生産性の低い小規模
兼業農家の既得権益を守ってきた農協は、それゆえに日本農業
の構造的改革を阻んできた「抵抗勢力」であった。農協こそが
高米価によるコメの消費減退と、減反による米作の衰退という
日本農業の衰亡を後押ししてきた。これが山下氏の説く「農協
の大罪」である。
■8.フランス農政の成功に学ぶ■
「農協の大罪」で未来の見えない日本の農政に対して、大規模
専業農家中心に農業大国を築いたフランスの成功は鮮やかであ
る。
フランスは食料自給率122%の農業大国である。国土を都
市的地域と農業地域と明確に区分し、農地を主業農家(労働の
半分以上を農業に投入し、そこから所得の半分以上を得る農家)
に積極的に集積した。これにより農場規模は17ヘクタールか
ら52ヘクタール(2005年)へと拡大した。規模の拡大と農業
技術の振興により、小麦の単収はアメリカの3倍となっている。
供給能力が増加して農産物の国内価格は下がるが、補助金は
農家に直接支払いをする。国民に安い食料を供給するとともに、
余剰分は輸出に回すことで、世界的な食糧不足の緩和にも貢献
している。
国際競争力を持ち未来の明るいフランスの農業には、若い人
材も集まる。54歳以下の農業者が6割を占める。
■9.「瑞穂の国」の再建へ■
フランスの農政は、日本とはまったく逆の方向をとり、中型
先進国でも農業大国になれるというお手本を示した。日本も同
様の政策により、新たなる農業大国になれる可能性がある。
前述のように、5〜10ヘクタール規模の農家なら、1万円
の中国産米に対して、美味しく安全な国産米を1万1千円の価
格で供給できる。週末農家の農地を専業農家に貸し出すなどの
政策により、さらに大規模化を進め、国内には安価なコメを供
給し、余剰分は国際市場に輸出すればよい。我が国は美味しく
安全なコメの輸出国になれる可能性を十分に持っている。
それは食糧自給率を上げるだけでなく、農業の持つ国土保全、
自然保護、景観保全という多面的機能を維持することになる。
緑の水田が広大に広がり、若者を含めた農家が高度な技術、
設備を活用して、美味く安価な国産米を国内外に安定供給する。
そんな「瑞穂の国」を再建したいものである。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(557) 瑞穂の国と食糧危機
迫り来る食料危機に対して、世界最大の穀物輸入国・日本は
いかに対処すべきか。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h20/jog557.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. 山下一仁『農協の大罪』★★★、宝島新書、H21
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4796667202/japanontheg01-22%22
■ 編集長・伊勢雅臣より
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