2009/09/06
JOG-Mag No.613 英国流保守主義に学ぶ
■■ Japan On the Globe(613)■■ 国際派日本人養成講座 ■■
Common Sense: 英国流保守主義に学ぶ
今後の日本の目指すべき道を考えるには、
ご先祖様の知恵を拝借すべき。
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■1.「らしさ」を失った自民党の大敗■
「自民は不満、民主は不安」と言われた総選挙であったが、
結果を見れば「不満」の方が「不安」よりも大きかった。民主
党のマニフェストも評判が悪かったので、民主党が勝ったとい
うより、不満だらけの自民党に一度お灸を据えたい、というの
が、民意だったようだ。
自民党への不満は、どのようなものだったのか。一つには、
自民党が万年与党の地位に安住して、かつての「自民党らしさ」
を失ってしまったという点にあるのではないか。
「自民党らしさ」の典型は、岸信介首相がデモ隊に首相官邸を
取り囲まれながらも、日米安保条約を改定した光景だろう。[a]
ここから「日米同盟のもとでの高度成長」という路線により、
自民党は日本にかつてない平和と繁栄をもたらした。
しかし、田中角栄が政権を握った頃から、自民党の変質が始
まった。農林族や道路族といった利権政治家が経済効率を無視
した税金投入で票を買い集め、それによって高度成長をストッ
プさせ、財政破綻への道を開いた[b]。
さらに日教組に迎合したゆとり教育・自虐教育[c,d]、中国
の軍拡を側面支援したODA供与[e]、北朝鮮拉致問題の放置
[f]など、国家国民を護る責任を果たしてこなかった。
結局、長期政権に安住する中で、親中・親北朝鮮の政治家ま
でもが入り込み、与党としての使命感も志も失ってきたのが、
自民党の劣化の歴史ではなかったか。
安倍政権での教育改革や憲法改正への努力、そして麻生首相
が提唱していた「自由と繁栄の弧」[g]など、自民党政治を本
来の姿に戻そうという努力はあったが、「消えた年金」問題で
参院選に大敗した事から、衆参のねじれのために立ち行かなく
なった。年金問題自体が、かつての社会保険庁と日本自治体労
働組合の癒着によるものだと指摘されており、その改革をなお
ざりにしてきた自民党の自業自得とも言うべき問題である。
我が国の政治を正常化するためには、かつての自民党のよう
な真の「保守党」が必要である。今後の自民党がそうなれるの
か、あるいは民主党の一部と合流して新しい保守党を作るか、
その道筋は別として、本稿ではまず、真の保守主義とはどうい
うものか、という点から考え直してみたい。
■2.「伝統」的なものと「革新」的なものとの間のバランス■
「保守」とは古いもの、伝統的なものを守ろうとする態度では
ない。「伝統的なもの」と「革新的なもの」との間でバランス
をとろうとする精神こそが「保守」である、と政治学者・佐伯
啓思氏は言う[1,p49]。
佐伯氏はかつてイギリスに滞在した時に、イギリスがいかに
近代的なものを警戒しているか、を感じたという。
それは自然を見ただけでもすぐにわかります。たとえば
ロンドンは大都市ですが、ロンドンから出て10分も列車
に乗れば、牛がその辺に寝転がり羊が草を食べている、草
原地帯になってしまいます。そこから先、田舎の景色が延
々と続きます。・・・
人も物も情報もすべて東京に集め、東京を発展のモデル
にする。東京と郊外を結ぶ物流、人の流れ、情報の流れを、
できるだけ密に、スムーズにしていく。そうやって「東京」
を拡大していく。日本中を「東京化」する。日本人はそれ
が近代的な進歩だと考えてきました。
しかし最初に産業革命を経験し、最初に経済学を作り出
し、市場競争万歳と言い出したイギリスは、まったく違っ
ているわけです。昔の自然を可能な限り残そうとし、田園
生活を大事にしている。[1,p47]
確かに、日本では地方都市のほとんどが「ミニ東京」のよう
になり、どこも同じようなスーパーやファミリーレストラン、
ファーストフード店が並んでいて、個性も歴史も感じられない
街が多い。
それに比べれば、ヨーロッパは都市の中にも歴史的な建造物
が多く、またすこし郊外に出れば、そこには数年前とあまり変
わらない田園風景が拡がっている。近代化という点では、ヨー
ロッパの方が、我が国よりはるかに慎重である。
■3.フランス革命と名誉革命■
こうしたヨーロッパの保守主義の源流の一つが、18世紀後
半のイギリスの思想家エドモンド・バークである。バークは
『フランス革命の省察』という本を書いて、合理主義的精神で
社会を根本的に変革しようとしたフランス革命を激烈に批判し
た。
人間の理性は完全ではなく限界がある。フランス革命は「自
由、平等、博愛」を謳った「人権宣言」のもとに、それまでの
伝統や慣習を無視して理想社会を建設しようとしたが、結局は
反乱、暴動、虐殺、政治裁判、ギロチン、暗殺、戦争が際限な
く続き、2百万人もの犠牲者を出した。[h]
逆に、イギリスの方は無血の名誉革命によって英国臣民の
「古来の自由と権利」を認めさせ、以後、安定的な民主主義を
発展させていった。[i]
歴史的なものの中にある知恵を無視してはならない。こ
の知恵は伝統や慣習という「相続財産」の中に埋め込まれ
ている。もしそれを無視して秩序を大変革しようとすれば、
醜い権力争いへと投げ込まれ、社会が大混乱に陥る。[1,p57]
フランス革命は「伝統的なもの」を捨てて「革新的なもの」
に飛びつき、多くの犠牲者を出した。その後もナポレオン戦争、
帝政への揺り戻しと、混乱が続いた。ロシアや中国における共
産革命も同じである。
一方、イギリスの名誉革命は「伝統的なもの」と「革新的な
もの」との間で注意深くバランスをとりながら、安定的な国家
社会を実現し、自由と人権の面でもはるかに先行した。これが
英国流保守主義の神髄である。
■4.アメリカの進歩主義■
一方、アメリカの保守主義はイギリスとはだいぶ違う。アメ
リカは、プロテスタントの一派である清教徒が、反体制派であ
るがゆえにイギリスを追い出され、アメリカにやってきた所か
ら始まった。そして自由な新大陸において、個人が自分の財産
を自由に使い、市場競争で打ち勝って富を得ることがアメリカ
ン・ドリームとなった。
このような個人主義、市場原理主義を本質とするアメリカの
建国の精神そののものが、イギリスから見れば、極めて進歩主
義的で急進的な近代主義思想なのである。
確かにアメリカ人の国民性を見ても、製造業は海外に放り出
してしまい、自国は金融と情報技術で勝負しよう、などという
大胆な選択を平気でする。そのような過去に囚われない大胆さ
こそ偉大な政治家、経営者の証であるとする気風がアメリカ社
会にある。
結局、アメリカの「伝統的なもの」の中に、急進的な進歩主
義が潜んでおり、「伝統的なもの」と「進歩的なもの」とのバ
ランスなど取りようのない国なのである。
■5.自由や民主主義で、どんな社会をつくりたいのか■
こういう進歩主義的なアメリカに、戦後の日本は民主主義、
人権主義などを教わり、さらにアメリカにもない武力放棄の絶
対平和主義を謳う戦後憲法を押しつけられて再出発した。
戦後日本の出発点は、民主主義や人権主義を理想とするアメ
リカ流進歩主義であった。そしてそれらは、日本の「伝統」的
なものとは切り離された形で接ぎ木された。そして戦前のすべ
てが封建的、軍国主義的であるとして否定された結果、戦後の
日本人はアメリカ流進歩主義こそ普遍的な価値観であると思い
込んでしまった。
そこに思い違いがあると、と佐伯氏は言う。
むろん、私は平和という価値を否定しません。民主主義
や個人の自由も、基本的には大事だと思っています。そん
なことはわざわざ言うまでもないでしょう。それらが侵さ
れることがあれば、もちろん抗議もし、抵抗もします。
しかし、自由でもって何を実現し、自由でもってどのよ
うな生活をするか。これは日本の文化の問題です。・・・
民主主義も同様です。民主主義そのものが大事なのでは
なく、民主政治で国民の意思を吸い上げることによって、
国民の中にある文化や価値の重要なものが政治の場に表現
されることが大事なのです。[1,p72]
しかし、実現されるべき文化も価値も、戦前のものは、すべ
て悪であると断罪され、斬り捨てられてしまった。その結果、
自由や民主主義、市場経済によって、何を実現したいの
か、どんな社会をつくりたいのか、そのヴィジョンも、プ
ランも、想像力もなくなってしまったところにこそ問題が
あるのです。[1,p73]
今回の選挙でも、自民党も民主党もバラマキ合戦中心で、
「どんな社会を作りたいのか」という議論はついぞ論争の舞台
には上がらなかった。まさに「ヴィジョンも、プランも、想像
力もなくなってしまった」のである。
■6.民主主義や人権主義に共鳴する日本の伝統■
英国流の保守主義に学ぼうとすれば、まずは我が国の「伝統」
的なものを思いだし、そこから実現すべき文化や価値を探し出
していかなければならない。そのためには、戦前の我が国の文
化と価値観をすべて封建的、軍国主義的と斬り捨てた占領軍史
観(現在は自虐史観)から脱却する必要がある。
民主主義にしても、我が国には神代の時代から衆議公論を尊
ぶ文化があり、それが7世紀の聖徳太子の十七条憲法、13世
紀の貞永式目、そして19世紀の五箇条のご誓文での「広ク会
議ヲ興(オコ)シ万機公論ニ決スベシ」につながっていく[j]。
人権概念にしても、そもそも国民を「大御宝」と呼び、平和
に安心して暮らせる国を創ることが、我が国の建国の理想だっ
た[k]。歴代天皇は国家と国民の安寧を神に祈られることを最
重要の使命とされ、そのまま現在の皇室に受け継がれている。
民主主義にしても、人権にしても、米国という国が誕生する
はるか以前から、我が国には西欧諸国と並行的に発展してきた
歴史があるのであり、それらを占領軍が押し付けても違和感な
く受け入れたのは、それに共鳴するものが我が国の伝統に内在
していたからである。
占領軍の残した戦前暗黒史観を脱して、素直に我が国の歴史
を辿れば、そこに「伝統的なるもの」と「革新的なるもの」と
のバランスを保ちながら、今後の国の姿を描いていく余地は十
二分にあるのである。
■7.教育における「伝統」的なるもの■
その例題として、国家百年の計の根幹をなす教育を考えてみ
よう。民主党のマニフェストは高校実質無料化と大学奨学金の
大幅拡充、と相変わらずバラマキ中心で、どのような教育を実
現するかのビジョンはない。自民党の政策バンクには教育支出
の拡充というバラマキの他に、基礎学力の定着、歴史・伝統を
重んずる教育の実践など、ビジョンめいたものはあるが、具体
的な政策プランに乏しく、迫力に欠ける。
「伝統的なるもの」から考えてみれば、我が国は江戸時代から
世界トップレベルの識字率を誇る教育国家であった。その中心
はボランティアのお師匠さんが運営する寺子屋だった。一方的
に知識を詰め込むマスプロ教育が「近代的なるもの」だとすれ
ば、寺子屋でお師匠さんが一人ひとりの子供の適性や成長度合
いを見ながら、マン・ツー・マンに近い形で指導するというの
が、我が国の伝統的な形である。[l]
現代日本で塾や私立校が多いというのも、この伝統が今も息
づいているからである。ならば、塾も正規の教育機関として認
め、私立校も公立校と同程度の家庭負担で行けるようにして、
それらの活力を活かした多様な教育システムに変えていくとい
うのが、一つの革新方向であろう。そうすれば、日教組勢力の
巣くう公立校などは自然に敬遠されてしまう。
また青年層の教育としては「職人道」「商人道」などで人を
育ててきた伝統がある。学力だけで有名校を目指し、一流企業
に入るなどという画一的なコースができてしまったのは、「近
代的なるもの」の悪影響である。それによって、学力だけで子
供の出来不出来を見るという画一的な評価が広まり、本来なら
一流の職人や商人になれる才能を持った子供が、「できない子」
と見下される不幸な事態となった。
現在でも調理師、左官、大工など手仕事の世界に入り込み、
職人道に則って充実した人生を歩んでいる若者は少なくない[m]。
工業高校などで技能オリンピック世界大会への挑戦を奨励する
ことで、現代版の「職人道」を広めていくことが出来るだろう。
それは我が国のモノ作り大国としての将来を支えていくことに
もなる。
■8.ご先祖様の知恵を拝借■
教育のテーマだけでも、我が国の「伝統」的なるものを探っ
てみれば、すぐにいくつもの革新ヴィジョンが浮かび上がって
くることに気がつく。
結局、「革新的なるもの」だけを机上で考えてみても、出て
くるのは「ゆとり教育」「男女混合名簿」「過激性教育」「小
学生に英語教育」といった、まさに混乱をもたらすだけの空理
空論でしかない。伝統や慣習の中に込められた知恵という「相
続財産」を無視して変革をしようとすれば、限りある人知では
大混乱に至るだけ、とエドモンド・バークが喝破した通りの惨
状が、現代日本の教育界に起きているのである[n]。
いや教育界のみならず、政治の世界でも外交の世界でも、ヴィ
ジョンも想像力もないという惨状は、我々が伝統や慣習の中に
込められた知恵という「相続財産」を放置しているからだと言
える。
我が国は国際社会の中でも、抜きんでて豊かな歴史と伝統文
化に恵まれている。そこに込められた豊かな「相続財産」を棚
卸しし、ご先祖様の知恵をお借りして、今後の国の目指すべき
方向を考える。それが英国流保守主義の教えるところである。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(337) 岸信介 ~ 千万人といえども吾往かん
日本を真の独立国とするための構想に邁進した信念の政治家。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h16/jog337.html
b. JOG(595) 「利権社会主義」脱却こそ日本復活の道
角栄流「利権社会主義」と「土建屋国家」化が、高度成長の
急停止と財政破綻を招いた。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h21/jog595.html
c. JOG(231) 「ゆとり教育」の現場から
生徒、教師など現場の体験者が語る「ゆとり」教育の実態。
文部科学省も瀬戸際で急旋回開始。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h14/jog231.html
d. JOG(015) 先入観を打破する定量的検証を
南京事件犠牲者数の定量データを分析すれば、中学生でも嘘
が見破れる。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h9/jog015.htm
e. JOG(146) 対中ODAの7不思議
軍事力増強に使われ、民間ビジネスに転用され、それでいて
まったく感謝されない不思議なODA
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h12/jog146.html
f. JOG(284) かくも長き忘却
20年以上も拉致問題を放置してきたのは、我々が何か大切
なものを忘れていたからではないか?
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h15/jog284.html
g. JOG(570) 「自由と繁栄の弧」を創る ~ 日本に元気を
「自由と繁栄」をめざす国々を後押しすることが、元気で自信
に満ちた日本を創る。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h20/jog570.html
h. JOG(058) 自画像を描く権利
フランス革命と明治維新
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h10_2/jog058.html
i. JOG(188) 人権思想のお国ぶり
「造花」型のフランス革命は200万人の犠牲者。「根っこ」
型のイギリスは無血の名誉革命。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h13/jog188.html
j. JOG(082) 日本の民主主義は輸入品か?
神話時代から、明治までにいたる衆議公論の伝統。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_1/jog082.html
k. JOG(287) 大御宝の理想を求めて ~ 国柄に根ざした人権思想を
いかがわしい「人権」派から、「人権」の理想を取り戻すに
は。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h15/jog287.html
l. JOG(030) 江戸日本はボランティア教育大国
ボランティアのお師匠さんたちの貢献で、世界でも群を抜く
教育水準を実現した。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h10_1/jog030.html
m. JOG(536) 若者たちの職人道
一人前の職人を目指して、若者たちが様々な職場で仕事に打
ち込んでいる。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h20/jog536.html
n. JOG(442) 「科学から空想へ」 ~ 現代日本の教育思想の源流
「子供の権利」「自己決定権」「個性尊重」など の教育思想
の源泉にある「空想」。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h18/jog442.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
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1. 佐伯啓思『自由と民主主義をもうやめる』★★★、幻冬舎新書、H20
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344980972/japanontheg01-22%22
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