2009/05/10
JOG-Mag No.597 自虐的経済報道が日本の元気を萎えさせる
■■ Japan On the Globe(597)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■
Media Watch: 自虐的経済報道が日本の元気を萎えさせる
政治や歴史と同様、経済においても自虐的・悲観
的報道が、国民の自信と希望を失わせている。
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■1.悲観的・自虐的経済報道が多すぎないか■
昨年初頭、日本経済新聞は「YEN漂流 縮む日本」という
特集を組み、「円安が進行するため日本の投資家が国内に投資
せず、海外にマネーが流出し、日本経済はシュリンク(縮小)
する」と報じた。
しかし、その後は米国発の世界同時不況で、逆に日本円の独
歩高になった。年末には、ホンダの福井威夫社長の次のような
発言が報道された。
(円高が進めば)国内工場のリストラに追い込まれる可能
性がある。正規雇用まで危うくなる。日本の輸出産業は全
滅するだろう。[朝日新聞、H20.12.20、1,p44]
言うまでもなく、円安にせよ円高にせよ、それぞれメリット
とディメリットがある。円安なら、家電や自動車など輸出で稼
ぐ業界の利益が底上げされる。円高になれば石油や鉄鉱石など
の輸入原材料が値下がりするので、化学、鉄鋼、電力、運輸業
界などが恩恵をこうむる。
しかし、どうも円安の時には円安のディメリットばかりが声
高に報じられ、円高になるとその損失のみが大々的に報道され
る印象がある。どうも日本国内の経済報道は悲観的・自虐的な
ものが多すぎて、バランスを欠いているように見える。それが
結果的に消費意欲や企業の投資意欲を減退させ、日本経済の元
気を萎えさせているのではないか。
■2.麻生政権の経済対策は「大盤振る舞い」「負担のつけ回し」■
自虐的経済報道のもう一つの典型は、世界同時不況に対する
日米の対策報道にも表れた。
財政支出15兆円余、事業規模は57兆円。過去に例の
ない大規模な新経済対策を政府・与党がまとめた。
米国政府に「国内総生産(GDP)の2%相当の財政刺
激」を約束した麻生首相は2%、つまり10兆円規模の財
政支出を指示していた。しかし、総選挙を控えた与党の議
員から「需要不足が20兆円超とされるのに足りない」と
いったむき出しの要求が高まり、膨れ上がった。・・・
・・・経済活性化策を打ち出すのは政府の役割である。だ
が、それにしても「大盤振る舞い」が過ぎないか。・・・
政府案では、今年度の新たな「国の借金」(新規国債発
行額)は空前の43兆円超となる。・・・
消費刺激型の景気対策は、将来の需要の「先食い」でも
ある。そのために政府が借金するのは、子や孫の世代へ
「負担のつけ回し」になる。一時的に景気刺激効果があっ
ても、長い目でみればマイナス面が少なくない。[2]
「米国政府に約束した」という表現は、いかにも麻生首相が米
国に命ぜられて経済対策をやっているようだし、「総選挙を控
えた与党の議員から」では、選挙目当てだという印象を与える。
そして、この「大盤振る舞い」は、「国の借金」を増やし、将
来への「負担のつけ回し」になる、と批判するのである。文章
の細部に至るまで、底意地の悪さが籠もっている。
■3.オバマ政権の経済対策は「不況の直撃を受ける人たちへの支援」■
一方、米国の不況対策に関する報道は、こういう調子である。
オバマ政権は1月20日の発足から1カ月以内の速いテ
ンポで、公約していた危機対策の始動にメドをつけた。た
だ、財政負担は極めて重い。日本や欧州などにいっそうの
景気対策を求める圧力も強まりそうだ。・・・
対策全体の3分の1にあたる約2800億ドルは減税。
勤労者1人あたり最大400ドルの税還付や、企業の設備
投資を促進する税制などを盛り込んだ。残りは主に不況対
策の歳出。不況の直撃を受ける人たちへの支援関連が全体
の4割近くで、失業保険と生活補助の増額のほか、低所得
者向け公的医療保険の拡充(870億ドル)や教員の雇用
維持など州財政への補助(536億ドル)などを計上した。
公共事業関連は全体の4分の1を占め、「長期的な米国
の競争力も向上させ、21世紀にふさわしいエネルギー・
環境対策も強化する」(オバマ大統領)狙いだ。[3]
「勤労者1人あたり最大400ドルの税還付」にも「大盤振る
舞い」との形容はつかず、「不況の直撃を受ける人たちへの支
援」と暖かい表現をし、さらにはオバマ大統領得意の「長期的
な米国の競争力」云々という名調子まで引用したりして、いか
にも好意的に報じている。日本の景気対策を論じた時の底意地
の悪さとは打って変わった文体である。
「財政負担は極めて重い」と釘を刺しながらも、この問題は
「日本や欧州などにいっそうの景気対策を求める圧力」と得意
の自虐的・悲観的表現でかわしてしまい、日本以上に深刻な米
国の財政状況(後述)は論じない。どうしてこんなに違うのか。
■4.米国の経済対策に潜むドル崩壊のリスク■
米国の経済対策の「財政負担は極めて重い」という中身を
三橋貴明氏の近著[1]に従って、数字で見てみると、これは
「負担のつけ回し」どころか、財政破綻を招きかねない危険を
伴っていることが分かる。
09年度の米国財政赤字予想額は、オバマ政権の財政支出を
含まない場合でも、対GDP(国内総生産)比8.3パーセン
トに相当し、前年の3.2パーセントから大幅に増大する。ち
なみに日本の09年度の財政赤字は、景気対策の財政支出拡大分
を含めてもGDP比2%程度である。[1,p148]
この財政赤字を補うために、09年に米国は最低でも2兆ド
ルの米国債を販売する必要に迫られているという。どこの国が
これだけの米国債を買えるのか。
08年11月に米国財務省が発表した国際資本統計によると、
9月末時点で米国債保有国のトップは中国で5850億ドル、2位
の日本が5732億ドルである。両国が現在保有している米国債を、
一挙に2倍に買い増ししても、必要な2兆ドルの半分強にしか
ならない。
中国の米国債保有高は増加し続けているのである程度買い増
す可能性はあろうが、日本の保有高はここ4年ほどで、約18
パーセントも減少しており、日本が買い増す可能性は少ない。
日本は過去、米国債を必死で買い支えるために、国内で異常
な低金利政策をとり、それがためにバブルが発生して、痛い目
を見た[a]。米国債の保有額を漸減させているのは、その反省
が効いているのであろう。ゆっくりとした目立たない削減ペー
スは、一気に米国債を売ってしまえば暴落して損をするので、
賢明な策と言える。かつて日本は「飼い犬のように米国債を買
い続ける国」などと揶揄されたが、中国にそういう嘲笑を投げ
つけるマスコミはないようだ。
外国が米国債を買ってくれないのなら米政府はどうするのか。
最終手段は、中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)が、
ドルを必要なだけ刷って米国債を買い取る、という手であり、
現にFRBは「その用意がある」と公表している。
ドルの大量発行は、必然的にドル安を招き、それを警戒する
国々がドル資産を他の通貨に替えようとすれば、ますますドル
安が進む。これでドルの基軸通貨制度が崩壊する恐れがある。
オバマ政権の大規模な経済対策は、こういう綱渡りの上に進め
られているのであり、「財政負担は極めて重い」で済まされる
程度ではない。
日本の財政赤字も大きな問題だが、国債の95パーセントは
国内で買い取られる。いわば、夫(政府)の使い込みを妻(国
民)の資産で補填しているようなもので、一家が外部に借金を
しているわけではない。米国は夫婦ともどもサラ金に手を出し
ているよう状況で、そのリスクとは比較にならない。
■5.日本の外需依存度は1.6パーセント■
冒頭の円高・円安の問題に戻るが、そもそも日本経済は外需
依存度が高く、海外の経済状況に大きく左右されるという先入
観が一般的である。これも事実ではない、と、[1]の著者・三
橋貴明氏は喝破する。
07年の日本の輸出金額は79兆7千億円余であったが、これ
のGDP515兆円に対する比率、すなわち輸出依存度は
15.5パーセントである。また輸出から輸入を差し引いた
「純輸出」のGDP比率、すなわち外需依存度は、わずかに
1.6パーセントに過ぎない。
つまり円が1割上下しても、産業分野や企業別ではプラス
・マイナスのバラツキはあるものの、日本経済全体としては差
し引き1.6パーセントのそのまた1割、すなわち、0.16パ
ーセントの影響に過ぎない。
円高円安の報道にしても、まずはこういう点を抑えておかな
いと、「(円安で)日本経済はシュリンク(縮小)する」とか
「(円高で)日本の輸出産業は全滅するだろう」などという自
虐的・悲観的マスコミ報道に振り回されることになる。
そして、こういう報道から、日本は外国、特に主要貿易相手
国であるアメリカや中国のご機嫌を取らなければ生きていけな
い国なのだ、と日本国民は思い込んでしまう。これは一種のプ
ロパガンダ(政治宣伝報道)ではないか。
実は、外需依存度で言えば、中国の方が日本よりはるかに高
い。中国の輸出依存度は37.4パーセント、純輸出は8.9パ
ーセントに達する。GDPの中の民間最終消費支出(個人消費)
で見ても、日本は57パーセントに対して、中国はわずか35
パーセントに過ぎない
中国は自国民の消費を低賃金で抑え込み、低価格品の輸出で
ドルを稼いでは米国債を買い、米国民のさらなる消費を支えて
いる。米国と中国とは、こうしたゆがんだ形でお互いにもたれ
合った奇妙な関係にある。これに比べれば、日本経済ははるか
に健全な構造を持っているのである。
こういう実態も、マスコミ報道を表面的に読んでいては、な
かなか見えてこない。
■6.「強み」と「機会」に着目した国家戦略を■
三橋氏は経営コンサルタントの資格を持つだけに、経営戦略
立案でよく使われるSWOT分析で、日本経済の戦略を分析し
ている。SWOTとは、Strength(強み)、Weakness(弱み)、
Opportunity(機会)、Threat(脅威)の頭文字である。ある
企業の持つ「強み」と「弱み」、そして外部環境の与える「機
会」と「脅威」を見極めて、「強み」を「機会」に結びつけ、
「弱み」が「脅威」につながらないようにするためには、どう
いう戦略をとればよいのかを総合的に考えるアプローチである。
たとえば、日本企業が膨大な現預金を持っている、というの
は一つの「強み」である。これを「円高」という「機会」に結
び合わせると、外国企業を有利に買収して、事業を強化する戦
略が浮かび上がってくる。
多くの日本企業がすでにこの戦略を着々と実行中である。一
例を挙げれば、伊藤忠商事と新日本製鐵、JFEホールディン
グスなど日本の鉄鋼大手5社、および韓国の鉄鋼大手ポスコは、
共同で、ブラジルの鉄鉱石事業運営会社のナミザの株式40パ
ーセントを31百億円ほどで取得した。これにより年間2千万
トン相当の鉄鉱石権益が確保できる。
これは「強み」と「機会」を生かしつつ、同時に資源を輸入
に頼っているという「弱み」と、今後の資源高という「脅威」
をカバーする優れた戦略である。
悲観的・自虐的報道で、「脅威」や「弱み」だけに着目して
いては、座して死を待つだけだが、「強み」や「機会」に着目
することで、日本企業は逞しくグローバル社会を生き抜いてい
るのである。日本経済においても、「強み」「機会」に着目し
た戦略立案が必要であることは言うまでもない。
■7.日本経済の「強み」「機会」に着目した戦略■
三橋氏は、こうした考え方から、日本経済の「強み」「機会」
に着目した戦略をいくつか提案している。
活用すべき「強み」の一つは、世界一のエネルギー効率であ
る。GDP当たりのエネルギー消費量は、日本を1とすると、
アメリカが2.0、中国はなんと8.7である。
人件費よりもエネルギー費の高い装置型産業などは、エネル
ギー効率が決定的な「強み」となる。鉄鋼業はその最たるもの
で、高いエネルギー効率で、しかも自動車用鋼板など高付加価
値商品を作ることができる。中国の鉄鋼業は生産トン数が多い
だけで、低付加価値製品を低いエネルギー効率で、しかも公害
をまき散らしながら製造している。今後、予想されるエネルギ
ー価格の上昇と環境規制の強化は、日本の鉄鋼業には「機会」
だが、中国の鉄鋼業にとっては重大な「脅威」である。
さらに鉄鉱石権益を買収して、供給の安定化を図れば、鬼に
金棒だ。また、高いエネルギー効率を実現する技術やプラント
を新興国に売れば、それも収益源となる。
現在、需要の急減でトンネルの最中にいる自動車業界も、世
界最先端を行くハイブリッド技術という「強み」を、ガソリン
価格の高騰や環境規制の強化という「機会」に生かせば、明る
い出口が見えてこよう。
■8.我が国の最大の「弱み」と「脅威」■
麻生首相は、4月9日、今後10年間の日本の「未来開拓戦
略」を発表した。「ピンチをチャンスにかえる」との触れ込み
で、エコカーや太陽光発電などの「低炭素革命」、介護や医療
充実の「健康長寿社会」、観光、アニメやファッションなどの
「日本の魅力発揮」の3本柱からなる。その結果、10年間に
GDP120兆円増、400万人雇用創出を狙うというものだ。
例の如く、朝日新聞は「弱体化した政権基盤を立て直して財
政再建に取り組まなければ、夢の成長戦略はそのまま夢となる
公算が大きい」[3]などと斜に構えた批評を述べている。
自民党憎しの感情は分かるが、こういう自虐的・悲観的報道
から生まれるのは、国民の自信と希望をなくして不況の深刻化
させ、さらには「強み」「機会」に気づかずに、ビジョンも志
も持てない無気力さを蔓延させることだけであろう。
自虐的・悲観的なマスコミ報道こそ、我が国の最大の「弱み」
と「脅威」ではないだろうか。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(078) 戦略なきマネー敗戦
日本のバブルはアメリカの貿易赤字補填・ドル防衛から起き
た。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h11_1/jog078.html
b. JOG(585) 進化する日本的経営
日本企業は終身雇用制を武器に、バブル崩壊後も力強い進化
を続けてきた。
http://archive.mag2.com/0000000699/20090215000000000.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 三橋貴明『本当はヤバくない日本経済 破綻を望む面妖な人々』★★★、
幻冬舎、H21
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344016661/japanontheg01-22%22
2. 朝日新聞、H21.04.10「(社説)15兆円補正 大盤振る舞いが
過ぎる」、東京朝刊、3頁
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN//japanontheg01-22%22
3. 朝日新聞、H21.04.10「施策バラ色、裏付け不明 麻生首相の成
長戦略、財政再建策欠く」、東京朝刊、4頁
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN//japanontheg01-22%22
_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■前号「国づくりのリーダーたち」に寄せられたおたより
エルさんより
日本の外で、働く一人の女性の姿を通して教えられてよかっ
たです。まさに紛争の根源が貧困であることは誰もが認める真
実です。国家が正しいリーダーを選べるかどうか?それに国の
命運がかかっているのです。
しかるに翻って今の日本は危うい状況です。日本の国柄を今
こそもっと振りかえって再考し、復活させるべきですね!
日本人らしさをもってインドやパキスタンなどと新たな関係
を深めるべきですね。対中国への防衛線は日増しに迫られ縮め
られてきています。海賊パトロールへの名を借りて海軍の実践
練習を試みてるかのようです。日本近海を我が物顔で泳ぎ回る
などもってのほか!しかし政府の、国民の精神の根幹に自虐史
観が巣くっていては世界の中で使命をもって行動することなど
できはしない・・・麻生総理がいつまで総理として機能するか
は未定だが出来る限り、国民に真実を伝え精神構造の改革をし
て欲しい。
それには先ず官僚の腐敗、堕落、何もしない主義、前例主義
脱却を迫り、天下りを根絶する事だ!国民の信頼なくして政府
は機能しない。信頼なくして改革なし!挑戦なくして発見なし!
今の日本に真っ先に手にしなければならないのは高い精神性だ
と想う・・・・・・
■502号「502 気は優しくて力持ち 〜自衛隊海外支援奮闘記」
に寄せられたおたより
自衛隊の人たちには本当に頭の下がる思いです。私は阪神大
震災のころ学生で、当時、彼らが迅速に救出活動を行う姿や、
雨の中黙々とお風呂を作っている姿を見て「謙虚なのに頼りに
なるお兄さんたち」という印象を持ちました。各地で自衛隊を
歓迎された現地の人たちの気持ち、すごくよく分かります。
対照的に、生き埋めで助けを求めている人たちがいる上空を、
爆音を響かせながら何基もヘリコプターを飛ばしているマスコ
ミの方々は「無神経で迷惑な人たち」という印象を持ちました。
その後ニュースで自衛隊の人たちが悪く言われているのを見
聞きするたびに釈然としない思いを抱いてきましたが、今回こ
ちらの記事を読み胸がすっとすると同時に、あの時抱いた印象
は間違っていなかったのかと納得しました。
今現在も黙々と活動して下さっている自衛隊の人たちに、会っ
て直接お礼が言いたいです。国内外で困っている人たちのため
に真摯に活動して下さり、本当にありがとうございます。
■ 編集長・伊勢雅臣より
自衛隊を含め、軍隊とは「自己の命を国家国民のために捧げ
る集団」であり、一国の公共意識の源泉です。それを貶めてい
る所に、社会全体における公共意識の衰退の原因があるのでしょ
う。
読者からのご意見をお待ちします。以下の投稿欄または本誌
への返信として、お送り下さい。
掲載分には、薄謝として本誌総集編を差し上げます。
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