2009/04/05
JOG-Mag No.592 「よき人、孔子」と日本人~ 子供と語リ合う「よき生き方」
■■ Japan On the Globe(592)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■
国柄探訪:「よき人、孔子」と日本人
〜 子供と語リ合う「よき生き方」
我々の先人は何代にもわたって、『論語』を通じて
「よき生き方」とは何か、を考えてきた。
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■1.幼稚園児が「己の欲せざる所、人に施すこと勿(なか)れ」■
ある幼稚園でのこと、友だちをいじめている子に向かって、
「己の欲せざる所、人に施すこと勿(なか)れ」と言った園児
がいた。まさにその場にふさわしい『論語』の一節だった。
それを聞いて驚いた幼稚園の園長が、親に電話して「お宅で
は、どんな教育をしているのですか」と聞いた。「家では『論
語』を素読しています」という答えが返ってきたという。
意味が分からないのに、『論語』の素読をするなど無意
味だ、押し付けだという人がいます。しかし、子供でもそ
の意味は、直感的に分かるのです。[1,p19]
弊誌546号[a]で紹介した『子供と声を出して読みたい
「論語」百章』の著者・岩越豊雄氏が、その続編で語られた一
節である。
続編では、『論語』の代表的な章をいかにも子供にも分かる
ように易しく説いている。 [1,p2]
今回、続編をまとめていて、つくづく感じたことは、江
戸時代の儒学者、伊藤仁斎や荻生徂徠がそうであったよう
に、孔子を聖人として祭り上げるのではなく、孔子の大き
く豊かな人柄を、その言動から学ぶということでした。
岩越氏の解説から浮かび上がってくる孔子は、誠実で思いや
りのある人柄である。江戸時代の国学者で儒学を嫌った本居宣
長でさえ「よき人、孔子」と呼んだ。そういう人物が、弟子た
ちとの日常的な語り合いの中で発した言葉を集めたのが『論語』
である。だから、子供でも直感的にその意味を感じ取れる章句
が少なくない。
■2.「それぞれ、日ごろの志を言ってみては」■
孔子の人柄は、次のような弟子との会話から、浮かび上がっ
てくる。
ある時、孔子は側に仕えていた弟子の顔回と子路に、「どう
だね、それぞれ、日ごろの志を言ってみては」と問いかけた。
まず子路が答えた。「私の願いは、車や馬や着物や皮衣を友
にこころおきなく使ってもらい、壊れたり破られたりしても惜
しまない。そのような気のおけない交際をしたいものです」と。
子供の間でも、物を貸したり借りたりすることがあるだろう。
そういう時に、惜しまずに貸せるような友達づきあいをするこ
とが、子路の理想だった。
次に顔回が答えた。「私の願いは、自分の善を誇ることなく、
つらい骨折り仕事を人に押し付けないようにしたいものです」
と。
これも子供が善いことをしても自慢したりすることなく、ま
た教室の掃除や家でのお手伝いをすすんでするのと同様である。
■3.「老人には安心され、友人には信じられ、子供にはなつかれる」■
その後で、子路が言った。「今度はぜひ、先生のお志をお聞
かせ下さい」と。
子(し)曰(いわ)く、老者(ろうしゃ)はこれを安ん
じ、朋友はこれを信じ、少者(しょうしゃ)はこれを懐
(なつ)けん。
先生がおっしゃった。「老人には安心され、友人に
は信じられ、子供にはなつかれる、そういう者であり
たい」と。
どこにでもいそうな善い人の生き方である。そういう当たり
前の生き方を、孔子は目指していたのだ。岩越氏はこの部分を
次のように説明されている。
孔子の弟子、顔回と子路の性格がよく表れていておもし
ろい章です。
気の早い子路が真っ先に発言し、その後に何事も謙虚な
顔回が言うところにも、それが表れています。また、子路
は気が置けない友情を言い、顔回は、己の善を誇らぬ謙虚
さと、他への思いやりを言います。外向的な子路と内省的
な顔回の違いもよく出ています。
孔子の答えは、老人、友人、子供とそれぞれの世代全般
への信頼と、親しみに満ちた言葉です。さすが大人の風を
感じます。それにしても肩のこらない、孔子学園の暖かさ
を髣髴とさせる章です。[1,p87]
孔子は、抽象的に善を説くのではなく、あくまでも具体的な
日々の生活の中で、人から「安心され、頼られ、なつかれる」
という生き方を目指した。だからこそ、子供にも直感的に理解
できる所があるだろう。
■4.「素直な心」とは■
前々節で「私の願いは、自分の善を誇ることなく、つらい骨
折り仕事を人に押し付けないようにしたいものです」と言った
顔回は、孔子の弟子の中でも、誠実さを絵に描いたような人物
である。孔子は顔回について、こんな評を残している。
子曰く、われ、回と言う。終日違(たが)わず、愚(ぐ)
なるがごとし。退いてその私(わたくし)を省(せい)す
れば、またもって発するに足る。回や愚ならず。
先生がおっしゃった。回は私と一日中話していても、
まったく素直に聞き入るだけで、反問するでもなく、
愚かのように思える、ただ、席を退いてからの、回の
行いを見ると、教えを十分生かしていて、教え甲斐が
あることが分かる、回は愚かではない。[1,p37]
岩越氏は、素直さについて、松下幸之助の言葉を引用して解
説している。
経営の神さまといわれた松下幸之助氏は「素直な社員は
よく伸び、仕事もできる」と言っています。そして「素直
な心」とは、私心にとらわれない心(自分のことばかり考
えない)。謙虚に耳を傾ける心(人の話をよく聴く)。す
べてに学ぶ心(先生や親はもちろん、友達や自然からも学
ぶ)。寛容の心(人を広く受け入れる。人を愛する心(多
くの人に愛の手を差し伸べる)、と言っています。
そして、このような素直な心が養われると、ものの真実
が見えてくる(本当のものが見えてくる)。ものの価値が
分かる(もののよさが分かる)。融通無碍になる(自由自
在にものを考えることができる)と言っています。
まさに一見、愚に見えた素直な顔回の境地そのもののよ
うに思えます。[1,p37]
こういう解説なら、子供でもある程度、理解できるだろう。
幼稚園や小学校では、活発に発言し、皆を引っ張っていく子供
こそ「できる子」と考えやすい。しかし皆がそういう姿を目指
したり、そうできない子が劣等感を持つのは問題である。
口数は少なく一見愚鈍に見えても、人の話をよく聴き、思い
やりのある素直な子供こそ「よく伸びる子」だと教わることは、
子供達が自分の生き方を、落ち着いて考える出発点となるだろ
う。
■5.「そうだね、私もお前と同じ、回には及ばないね」■
顔回の人となりは、次の章にも出てくる。
子、子貢(しこう)に謂いて曰く、女(なんじ)と回
(かい)といずれか愈(まさ)れる。対えて曰く、賜(し)
や、なんぞあえて回を望まん。回や一を聞いてもって十を
知る。賜や一を聞いてもって二を知るのみ。子曰く、如
(し)かざるなり。吾と女(なんじ)と如かざるなり。
先生が子貢に向かっておっしゃった。「お前と回とで
は、どちらが優れていると思うかね」 お答えした。
「私など、とても、回の足元にも及びません。回は一
を聞けば十を悟るほど、察しのよい人です。私など、
一を聞いてやっと二が分かるぐらいな者です」 先生
がおっしゃった。「そうだね、私もお前と同じ、回に
は及ばないね」
「賜(し)」とは子貢の名。子貢は顔回より一つ年下で、頭の
良さにかけては孔子に優るともいわれた、目から鼻に抜けるよ
うな才人だった。これに比べて、顔回は上述したように、愚直
な人だった。この二人をあえて比べる質問を、当の子貢にした
所に、孔子の教えの妙がある。
孔子は、子貢の率直な答えをよろこび、「お前だけでは
ない、この私も顔回に及ばない」といって子貢を慰めたと
しています。孔子は心からそう感じたのだと思います。
朱子の説は「吾(われ)女(なんじ)に如(し)かざる
を与(ゆる)さん」と読み、「彼に及ばないという、お前
の意見に賛成する」としています。これでは孔子の心の暖
かさが伝わってきません。荻生徂徠はこの説を「聖人の心
を知らず」と批判しています。[1,p78]
朱子の読みでは、孔子は上から二人を比べ、「お前の方が下
だ」と冷たく言っていることになる。それに対し「私もお前と
同じ、回には及ばないね」という読みでは、孔子の謙虚な心が
伝わってくる。同時に、子貢に対して、才能では顔回に及ばな
くとも、一緒に学問の道を歩んでいこう、と励ます暖かさがあ
る。
こうした心遣いができる人こそ「聖人」であると、荻生徂徠
は読んだのである。我が先人たちの学問の深さを垣間見せる一
言である。
■6.仁者の生き方■
孔子の目指した生き方を表した言葉が「仁」である。『論語』
の中には、58章で109回、「仁」という言葉が出てくるが、
孔子は「仁」の意味を抽象的に説明したりはしない。ただ、仁
を持つ人は、こういう人だと、あくまでもその具体的な生き方
に即して説く。
子曰く、富と貴(たっと)きとはこれ人の欲するところ
なり。その道をもってこれを得しにあらざれば処(お)ら
ざるなり。貧と賤(いや)しきとはこれ人の悪むところな
り。その道をもってこれを得しにあらざれば去らざるなり。
君子は仁を去りて、悪(いず)くにか名を成さん。・・・
先生がおっしゃった。豊かさと高い位は誰もが求め
るものだ。しかし、正しく生きてそれを得たものでな
ければ、そこに止まろうとは思わない。貧しさと低い
位は、誰もがいやがることだ。しかし、それが正しく
生きてそうなったのであれば、甘んじてそれを受ける。
志ある人は、「仁」を抜きにして名を成そうとは思わ
ない。
金持ちや地位のある人が、かならずしも「偉い人」とは限ら
ない、という事を教えた章である。岩越氏はこう説明する。
貧困や地位身分の低さは、多くは自分の努力や仁徳のな
さがもたらすものです。ただ、いくら努力しても、仁徳が
あっても、世に認められず、貧しく、地位もないというこ
とはあります。本当に仁徳のある人は、その境涯も楽しむ
ことができる。だからあえて去らないというのです。「貧
にしてその道を楽しむ」とあります。それが本当の意味で
の仁者ということです。・・・
ともかく、人としての正しい生き方、世のため人のため
を思う「仁」を抜きに名をなそうとは思わないということ
です。[1,p67]
金や地位があっても周囲にいばっている人と、つつましい生
活をしていても、自分の仕事に打ち込み、周囲の人々のために
思いやりをかける人と、どちらが偉いか。どちらが幸福か。そ
ういう問いかけを子供にするのも、大切なことだろう。
■7.「自分を磨く師や友を得る」■
それでは、どうしたら仁の心を持てるのか。ここでも、孔子
が説く道は、実生活を離れない。
孔子は人から学ぶことをよく説いています。学而1−6
には「汎(ひろ)く衆を愛して仁に親(ちか)づき、行い
て余力あればすなわちもって文(ぶん)を学ばん」とあり
ました。「仁に親づき」とは「仁徳のある人に近づき、師
として学べ」ということです。また、述而7−21では
「三人行くときには、必ず我が師あり」とも言っています。
また、季氏16−4に「直(なお)きを友とし、諒(まこと)
を友とし、多聞(たもん)を友とするは益なり」とありま
す。直言して隠すことのない人、誠実で裏表がない人、見
聞の広い人を「益者三友」といい、付き合って有益な友と
しています。[1,p211]
子供なら、まずは親や先生など身近な所で尊敬すべき人を見
つけることが、生き方を学ぶ近道である。あるいは、偉人伝な
どで心に響く人物を見つけるのもよい。単に知識を身につける
勉強とは、まったく違う、生きた学問の世界がそこにあること
に気がつくだろう。それこそ、子供の一生涯を導く灯火となる。
■8.「よき人、孔子」と日本人■
子供と『論語』を素読しながら、こんな事を話し合うという
のは、人間としての生き方を学ぶ上で、実に意味のあることで
はないか。
そういう会話の中から、子供はどういう生き方が良いのか、
考えていく。冒頭で紹介した、いじめっ子に向かって「己の欲
せざる所、人に施すこと勿(なか)れ」と注意した幼稚園児は、
その好例である。
『論語』は「よき人、孔子」がどんな生き方を目指したのか、
その具体的な言動を通じて語った書である。我々の先人は何代
にもわたって、この書を通じて「よき生き方」とは何か、を考
えてきた。逆に、「よき人」孔子の生き方が、日本人の心の琴
線に触れたからこそ、この書が千年以上も愛読されてきたのだ
ろう。
子供と『論語』を声に出して読むことは、そうしたわが国の
先人が大切にした生き方につながっていくことになるのである。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(546) 『論語』が深めた日本の国柄
〜 岩越豊雄著『子供と声を出して読みたい「論語」百章』
『論語』の説く「まごころからの思いやり」は、我が国の国
柄を深めてきた。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogdb_h20/jog546.html
■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
→アドレスをクリックすると、本の紹介画面に飛びます。
1. 岩越豊男『続・子供と声を出して読みたい『論語』百章』★★★、
致知出版社、H21
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4884748433/japanontheg01-22%22
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■前号「台湾人と日本人が共に生きた日々」に寄せられたおたより
直美さんより
今回の「台湾と日本人が共に生きた日々」もとても読み応え
があり、また台湾と日本の人々との心温まるつながりが感じら
れ嬉しく思いました。
中国や韓国、台湾など戦争中に日本が侵略したことで、批判
的な面ばかりがとりざたされますが、この台湾でのように、実
際に日本が台湾を統治していた時代に、多くの業績も残してい
て、またその業績に対して、台湾の人々が正当に評価をして讃
えてくださり、今もなおその業績に対する記念碑などを残して、
大切に保存してくださっているのも非常にありがたく、嬉しい
ことだとおもいます。同じ人間としてのこういうつながりを大
事にしていくことが平和にもつながっていくのだと思います。
ヤマトさんより
高砂義勇兵記念碑(JOG注: 大戦中、日本軍とともに戦った台
湾原住民・高砂族の記念碑)が危機に瀕していますという記事
を読み別所に移転するための募金を募っていました。三千円を
郵便局から振り込みました。日本軍と共に戦った高砂族の方々
に感謝の気持ちからでした。平成16年9月27日のことです。
記念碑の安住の地が確保されたとの新聞記事に安堵していた
のですが、台北県当局の強制撤去の報を聞き心配しておりまし
た。平成21年3月25日の産経新聞がその後の様子を記事に
しております。「3年に及んだ記念碑問題は、法廷論争でも地
元の主張が受け入れられ、解決に向け大きく動きだした。」と。
こんな神聖な場所にもずけずけと土足で出入りする外省人の思
惑は政治的な面だけで好きになれません。それに引き替え内省
人の心温まるものとは比べものになりません。
■ 編集長・伊勢雅臣より
「共に過ごした日々」の思い出を共有することが、人間として
のつながりを築く一つの道でしょう。
読者からのご意見をお待ちします。以下の投稿欄または本誌
への返信として、お送り下さい。
掲載分には、薄謝として本誌総集編を差し上げます。
http://www.formzu.net/fgen.ex?ID=P36920582
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