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2008/08/24

JOG-Mag No.562 日朝「密室利権外交」小史(下)

■■ Japan On the Globe(562)■ 国際派日本人養成講座 ■■■■

       The Globe Now: 日朝「密室利権外交」小史(下)
    
                  「あなたがやっているのは外交ではない」と、
                  田中均・外務省アジア大洋州局長は面罵された。
■転送歓迎■ H20.08.24 ■ 38,423 Copies ■ 2,921,503 Views■
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■1.「局長、あなたがやっているのは外交ではない」■

     平成14(2002)年9月17日、小泉純一郎首相が平壌で金正
    日と会談し、その結果、10月15日に拉致被害者5人の帰国
    が実現した。地村夫妻、蓮池夫妻、そして曽我ひとみさんであ
    る。

     帰国から10日目の10月24日、5人の処遇についての会
    議が開かれた。帰国について北朝鮮側と交渉してきた田中均
    ・外務省アジア大洋州局長は、「5人をいったん平壌に戻し、
    家族を連れて帰国させる」と主張した。

     田中は、北朝鮮側と「2週間程度の一時帰国」という了解を
    していたようだ。5人の日程には、おみやげの買い物時間も入っ
    ていた。「そうした約束はなかった」と田中は後に国会で答弁
    しているが、言葉通り受け止める人は少なかっただろう。

     安倍晋三・官房副長官と中山恭子・内閣参与(現在は拉致問
    題も担当する特命担当大臣)は、「5人を戻すべきでない」と
    主張した。一度戻してしまったら、北朝鮮は5人を脅して「平
    壌で暮らしたい。国交正常化すれば自由に行き来ができます」
    などと言わせて、「人質」扱いすることは目に見えている。

     田中は「日朝間の信頼関係が崩れてしまう」と抵抗した。
    「日朝間の信頼」とは、田中がこれまで交渉してきたミスター
    Xなる謎の人物との信頼関係である。「交渉相手のXを失いま
    す」と続けた。

     中山参与は、「それなら、(交渉を)できる人にかわっても
    らえばいい」と応酬した。そしてさらに厳しい言葉を口にした。

         局長、あなたがやっているのは外交ではない。北朝鮮へ
        のお願いだ。外交官なら、お願いをやめて外交をやりなさ
        い。[1,p157]

     中山参与は、田中が謎の人物と密室の中で経済援助を手みや
    げに「お願い」をする「密室利権外交」そのものを否定したの
    である。

■2.田中とミスターXの相互テスト■

     田中がミスターXと初めて会ったのは、平成13(2001)年秋
    だった。Xは「金正日将軍の指示で、自分が日本との連絡と交
    渉を担当することになった」と自己紹介した。名前と肩書きを
    伝えたが、絶対に公表しないでほしい、という。さらに「自分
    は金正日将軍の直接の指示を受けている。将軍に直接報告でき
    る」と語った。

     田中はXの力をテストするために、北朝鮮に拘束されている
    元日本経済新聞記者の釈放を求めた。Xは「帰すのは可能だが、
    滞在費を支払って欲しい。数千万円になる」と答えた。翌年2
    月12日に元記者は釈放された。同時に外務省が機密費から
    「滞在費」を捻出したとの情報が流れた。

     Xもまた田中の力量を試した。朝鮮総連の傘下にある「朝銀」
    の捜査に関して、総連本部の家宅捜査や最高実力者の逮捕を避
    けられないか、と聞いた。逮捕は時間の問題と見られていたが、
    なぜか行われなかった。家宅捜査も形だけのものになった。X
    は平壌の幹部に「彼(田中)はすごい。小泉を動かしている」
    と語った。

     田中はXに日本の官僚の力を説いた。

         北朝鮮が日朝正常化交渉で失敗したのは、政治家に頼ん
        だからである。日本では官僚が力を持っている。私のよう
        な力のある官僚に頼まないと、日朝正常化の問題は解決し
        ない。[1,p127]

     北朝鮮ははじめに金丸信を引き込んで日朝国交正常化を急ぎ、
    巨額の経済援助で難局を乗り切ろうとして失敗したのだが[a]、
    今度は私を相手にせよ、と田中は言ったのである。

■3.日朝国交正常化へのそれぞれの思惑■
    
     Xは北朝鮮の秘密警察「国家安全保衛部」に所属しており、
    日朝正常化交渉を監視し、金正日に直接報告する立場にいた。
    当時、党の工作機関「統一戦線部」のファン・チョルと同部の
    担当書記キム・ヨンスンが対日交渉を担当し、金丸信との密室
    外交などを展開していたのだが、この二人は日本からの賄賂を
    横領して私腹を肥やしていた[a]。Xはそれを徹底して洗い出
    し、二人を失脚させて、自ら名乗りを上げて、対日外交を引き
    継いだのであった。

     ミスターXと田中が接触を始めた頃、金正日書記は困り果て
    ていた。ブッシュ大統領は北朝鮮を「悪の枢軸」と非難し、テ
    ロ支援国家への先制攻撃さえ口に出していた。

     また2002(平成14)年12月に予定されている韓国大統領選
    挙では保守派の勝利が間違いないと見られていた。そうなると、
    金大中大統領が首脳会談実現のために、金正日に5億ドル(約
    550億円)以上の現金を払っていた事実が発覚し、北朝鮮へ
    の援助が全面的に打ち切られる恐れがあった。

     米国と韓国がダメなら、日本の財布をあてにするしかない。
    そうした金正日の意向を察して、Xは「必ず一年以内に日本と
    の関係改善を実現させます」と「将軍様」に約束したのである。

     一方、小泉政権も田中真紀子外相の更迭で、79パーセント
    あった支持率が40パーセント台に急落し、危機に直面してい
    た。外務省も機密費や経費の不正使用などのスキャンダルで、
    国民の信頼は地に落ちていた。ある外務省高官によれば、「小
    泉首相と田中アジア大洋州局長らは、一発逆転のホームランを
    狙った」。

     こうして日朝それぞれの思惑が後押しして、田中とXとの間
    で、国交正常化に向けた密室での打合せが始められたのである。
    
■4.90億ドルの覚書■

     Xは、日朝首脳会談で小泉首相が持参する「お土産」につい
    て「確実な証拠」を求めた。北朝鮮の高官筋によると、日朝国
    交正常化は2003(平成15)年1月1日から、経済協力の金額は
    「毎年15億ドル6年間」、1兆円ほどにも上るという「覚書」
    をXは日本側から受け取った。Xはその「覚書」を、小泉首相
    名にして欲しいと要求したが、それは実現しなかったという。

     もう一つ大きな問題があった。拉致問題である。拉致被害者
    を帰して貰わないと、日本国民は納得しない。しかも本来の外
    交なら、拉致は国家主権の侵害であり、国際法上は「原状回復」
    すなわち「拉致被害者全員の帰国」を求めなければならない。

     しかし、Xは、拉致の事実と生存者の存在は認めたが、帰国
    させることはできないとの立場を譲らなかった。そこで「安否
    情報の確認」という線での妥協が成立した。

     こうしてミスターXと田中は「密室利権外交」を通じて「小
    泉訪朝」という歴史的イベントの筋書きを書き上げた。この頃
    が二人の得意の絶頂期であった。
    
■5.アーミテージ国務副長官の怒り■

     実は田中が「密室利権外交」で考慮していない側面がもう二
    つあった。日米関係と北朝鮮の核開発問題である。田中は同盟
    国アメリカにまったく相談も連絡さえもせずにXとの交渉を進
    めていた。「事前に(情報が米国に)漏れれば、(米政府によっ
    て)つぶれる」と判断していた。[1,p33]

     米国側が小泉訪朝を知らされたのは、わずか20日ほど前の
    8月27日であった。アーミテージ国務副長官が首相官邸を訪
    れた際に、小泉首相が9月17日に平壌で日朝首脳会談を行う、
    と伝えたのである。

     アーミテージ副長官は親日家で、日米関係が緊張した際にも
    常に「日本はアメリカにとって、最も大切な国である」と説き
    続けてくれていた。それなのに、こんな大事な事を事前に相談
    もなく、今さら通告してくる日本のやり方に、面子を潰された
    副長官は怒った。大統領から解任されることも覚悟した。

     アーミテージ副長官は米大使館に飛んで帰り、パウエル国務
    長官に電話して、ブッシュ大統領に事態を報告して貰った。大
    統領の判断を仰いだ上で、副長官は外務省首脳に明確に伝えた。

         核問題が解決しないのに、正常化はしないでほしい。交
        渉は慎重に進めるべきだ。日米は、同盟国ではないのか。
        今後は、事前にきちんと連絡して欲しい。[1,p44]

■6.日米同盟を破局から救った小泉首相の変わり身■

     田中局長は米国側の怒りに驚いて、急遽説明のためにワシン
    トンに飛んだ。そこで旧知の[1]の著者・重村智計氏に「核問
    題は米国と北朝鮮の問題ではないのか」と語った。[1,p39]

     北朝鮮のミサイルは、日本には届くが、アメリカには届かな
    い。北朝鮮の核問題は米国よりもまず日本が心配しなければな
    らない問題である。外務省高官がこんな基礎的な事を知らない
    はずはない。とすれば、この人物は、日本国民の生命・安全よ
    りも、自分の業績を優先していたことになる。こんな人物が得
    体の知れないXと「密室利権外交」を進めていたのである。

     小泉首相は、訪朝の5日前の9月12日、国連総会出席を利
    用して、ブッシュ大統領と会談した。ブッシュ大統領は「日本
    が経済協力資金を提供したら、それは核開発に回されることに
    なる。北朝鮮が核開発を完全に放棄するまでは、正常化は困る」
    と厳しい口調で言った。

     カンの鋭い小泉首相は、このまま日朝正常化に踏み切ったら、
    日米同盟が崩壊すると悟った。「核問題が解決しない限り、日
    朝が国交正常化することはない」と述べた。この変わり身の速
    さが、日米関係を救った。
    
■7.「8人死亡」情報の衝撃■

     2002(平成14)年9月17日、秋晴れのもと、小泉首相一行
    は平壌の空港に到着した。午前11時からの首脳会談に先立っ
    て、アジア局長どうしの事前会談が行われた。この席で、5人
    生存8人死亡の安否情報が書かれた1枚の書類が、日本側に手
    渡された。これを手にした田中局長は、半ば放心状態であった
    という。「8人死亡」では国民が納得しない。

     北朝鮮側の情報によると、日本側から「生きている拉致被害
    者を4人から5人程度出せばいい。後は正常化してから段階的
    に解決すればいい」と言ってきたそうだ。ここから、北朝鮮側
    は「拉致被害者を全員出さなくとも、国交正常化できる」と判
    断したという。[1,p193]

     もともと拉致問題を認めること自体に、工作機関「統一戦線
    部」や秘密警察「国家安全保衛部」は反対していた。そこに
    「4人から5人程度出せばよい」と言われたので、5人生存と
    し、残りの8人は死亡と急遽でっち上げて、終わりにしようと
    したのである。だから、1995年に日本赤軍リーダーの田宮高麿
    が「(拉致された)有本さんらは元気だ」と語っているのに、
    1988年に死亡したとしているなど、辻褄の合わない点が少なく
    なかった。

     しかし、田中にとってみれば、「5人生存」は期待していた
    が、「8人死亡」とまで言ってきたのは、予想外だった。

     実は「全員の安否情報」を北朝鮮に要求していたのは、小泉
    首相だった。首相は、田中−ミスターXとは別のルートを使っ
    て、「全員の安否情報が出なければ、小泉内閣は倒れる」と北
    朝鮮側に要求していたのである。この頃には、小泉首相は米国
    とのやりとりなどから、田中に乗せられている危険を感じてい
    たのかも知れない。
    
■8.密室利権外交を阻止するのは国民世論の役割■

    「8人死亡」の情報に日本国民は激昂し、日朝国交正常化どこ
    ろではなくなった。こうして、田中がXとの「密室利権外交」
    で練り上げたシナリオは頓挫した。

     田中のシナリオ通り進行したら、どうなっていただろう。拉
    致被害者5人は再び北朝鮮に戻され、秘密警察の脅迫のもとで、
    「平壌で暮らしたい」などと言わされていたであろう。1兆円
    の経済支援で、金正日政権は核開発を加速しただろう。同時に
    日米同盟は危機に瀕し、日本は北朝鮮の核の脅威に今以上に曝
    されることになったはずだ。

     そうした事態を防いだのは、「8人死亡」情報に怒った日本
    国民の世論であった。先に金丸信の密室利権外交が「戦後45
    年間の謝罪と補償」まで約束して、「土下座外交」と世論の批
    判を浴びて挫折したのと、同じ構図である。

     北朝鮮のような独裁国家との外交においては、一部の政治家
    や外務官僚が賄賂や外交功績などを餌に一本釣りされて、「密
    室利権外交」に引きずりこまれやすい。民主国家において、そ
    れを阻止するのは国民世論の役割である。

■9.金丸信、田中均の後継者は跡を絶たない■

     最近でも自民党の加藤紘一元幹事長が、「当時官房副長官だっ
    た安倍晋三前首相を中心に(拉致被害者を)返すべきでないと
    決めたことが日朝間で拉致問題を打開できない理由だ。返して
    いれば『じゃあまた来てください』と何度も何度も交流してい
    たと思う」と述べた。[2]

     発言内容の不当性は拉致被害者の家族会・救う会が抗議声明
    を出した通りであるが、もう一つ、なぜ今頃、金正日が喜ぶよ
    うな事を言い出したのか、に注目する必要がある。

     加藤は、1995(平成7)年に北朝鮮に50万トン、国内価格に
    して1千億円ものコメ支援を行った際に、主導役を果たした。
    当時、加藤の名代として北朝鮮と交渉をしていたのは、元秘書
    の佐藤三郎であり、佐藤が支援物質の通関業者としての顔も持っ
    ていたために、「利権疑惑」を呼んだ。[3,p61]

     同時に山崎拓・元自民党副総裁らが中心となって「日朝国交
    正常化推進議員連盟」を結成して、北朝鮮への制裁解除と対話
    姿勢への転換を主張し始めた。山崎は朝鮮総連の許宗萬副議長
    ら幹部と交友があり、朝鮮総連関係者によると「日本の政界の
    中では数少ないパイプ役」だという。[4,p13]

     いずれも、米国のテロ支援国家指定解除を見込んで、金正日
    将軍様の歓心を買い、「密室利権外交」を再開しようという魂
    胆であろう。安倍晋三・前首相が「百害あって利権あり」と激
    しく批判した通りである。

     金丸信、田中均の後継者として「密室利権外交」を継承しよ
    うとする者は跡を絶たない。
                                         (文責:伊勢雅臣)

■リンク■
a. JOG(560) 日朝「密室利権外交」小史(上)
    国交正常化を急ぐ金日成に、金丸信は「お国(北朝鮮)は百
   億ドルを要求できる」と答えた。
   http://archive.mag2.com/0000000699/20080810000000000.html
b. JOG(259) どうする?日朝交渉
    拉致犠牲者8人死亡。それでも国交正常化交渉を進めるべき
   なのか? それとも、、、 
   http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jogbd_h14/jog259.html

■参考■(お勧め度、★★★★:必読〜★:専門家向け)
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1. 重村智計『外交敗北――日朝首脳会談の真実』★★★、講談社、
   H18
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4062135051/japanontheg01-22%22
2. 産経新聞、H20.07.10、「拉致被害者、北に返すべきだった 
   加藤氏発言に抗議声明 家族会・救う会」、東京朝刊
3. 野村旗守編集『北朝鮮利権の真相』★★、宝島社、H15
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4796639608/japanontheg01-22%22
4. 野村旗守編集 『日朝交渉「敗因」の研究』★★、宝島社、H16

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ おたより _/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/
■392号「竹島問題 〜 『日韓友好』に隠された欺瞞」
  に寄せられたおたより

                                         「らっこ」さんより
    「竹島」に関しては、大変興味深く拝見させて頂きました。東
    京にも先生のような教師がたくさんいらっしゃれば、我が子を
    私立小になど入れはしなかったのに・・・と思います。

     東京の公立は言論・宗教の自由という大義名分のもと、各種
    の運動に参加する左教師が山のようにおります!個人の域に留
    めていればよいのですが、その思想を教壇の上で披露したがり
    ます。竹島問題も然り・・・

     友人の子のクラス(区立小)で、担任が社会の時間に「竹島
    という島はどこの国のものか?」の質問をしました。(授業の
    流れは当然「韓国」になっております)親から史実を聞いてい
    る子は、左の担任の意見に反論します。すると、親が呼び出し
    をくらうのですよ!

    「お子さんは協調性に欠けますね。私の授業でも、反論ばかり
    だ。これではいじめにあいますよ・・・」(実は教師がいじめ
    をしているのです)

     こんな話は珍しくないのです。我が子を左にしたくなければ、
    日々のニュース番組を親子で見て、全てに解説をつけ「本をた
    くさん読むこと」を促すしかないのです。疑問に思ったことは、
    まず親に聞き、その後自分で調べる。我が家ではそのようにし
    ております。

     今後、子どもの成長のためにも先生のブログを拝見させて頂
    きます。私たち親子のためにも、よろしくお願いいたします。
    
■ 編集長・伊勢雅臣より

     学校やマスコミからの偏向情報に対しては、国民一人一人が
    それぞれの場で戦って、健全な世論を作っていくべきでしょう。

     読者からのご意見をお待ちします。以下の投稿欄または本誌
    への返信として、お送り下さい。
     掲載分には、薄謝として本誌総集編を差し上げます。
    http://www2s.biglobe.ne.jp/~nippon/jog/jog_res.htm

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