言葉の森新聞 2008年2月4週号 通算第1020号
言葉の森新聞2008年2月4週号 通算第1020号
文責 中根克明(森川林)
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■■教育の大きな流れが変わる
言葉の森がスタートしたのは20年以上も前です。そのころに作った受講案内を、
途中何度か読み返すことがありましたが、ほとんど直さずにここまで来ました。とい
うことは、言葉の森の基本路線は、最初のころから今まで、時代の流れに沿っていた
ということだと思います。
しかし、ここに来て、教育の流れが今大きく変わろうとしています。それは、ゆと
り教育の行き過ぎに対する反省から、昔流の知識教育をしっかり行おうとする流れで
す。そのこと自体は歓迎すべきことですが、私は教育の根本の見直しがまだ足りない
ように思います。
今の教育は、受験に合格するようなところを目標にしているため、単純に知識教育
を復活させることは、どうでもいい知識の詰め込みをまた復活させることにもつなが
る可能性があります。
そんなことをふと思い、受講案内の大幅改訂を考えている今日このごろです。
■■得意のテーマ(うさぎ/きら先生)
さて、今年の私を占う初夢は、なんと料理バトルに出場してカレーを作っていると
いうものでした。年末年始と、芸能人が料理に挑戦するような番組が多かったせいか
もしれません。すっかり影響されて、豆腐と納豆と豆乳とあれこれミックスした奇抜
なカレーを作っておりました。この夢から受け取れるのは、やはり「今年もしっかり
主婦をして健康料理を作りなさい」とのお告げでしょうか。
いえいえ、これはカレールーを筆頭に値上げの年が来たことへの警鐘だったのかも
しれません。初春早々ため息まじりの話題は気がひけますが、庶民の生活を脅かす物
価上昇。その原因であるという原油価格の上昇。その元の元の大元の原因をさぐって
「喝」を入れようとたぐり寄せていくと、最初の波を引き起こしたのは自然を壊した
私たち人間でした。
このように、あることがらから出発して樹形図のように考え続けてみると、おもし
ろい発見があります。
たとえば、わが家の冬休みの宿題でこんなことがありました。娘たちは同じ高校の
同じ学年ですから、宿題の内容はほぼ同じです。なかに800文字ほどの小論文もあり
ました。テーマは年間を通して個人が取り組んできたものらしく(高校生にも総合学
習ってあるのですね。?)、もうすでに決まっていました。ひとりは「宗教」もうひ
とりは「科学技術」ということです。文理しっかり分かれたテーマ選択のようです。
ところが、それぞれが主題となる意見を決めて、その原因対策をさぐって書き進めて
行くうちに、微妙に作品がシンクロしていくことに気づいたそうです。 (盗作した
わけではないということですが、おんなじような作品ができちゃったそうです。)
つまり、これからの私たちに必要なものは「科学技術を補いうめていく宗教」であ
り、これからの科学は「宗教性をもった人間的なもの」にすべきという、お互いのテ
ーマが補填しあう内容になったというのです。テーマは全く違うのに、結果として同
じような文章を書いた娘たち。これはたんなる双子のテレパシーではないと思います
。さまざまな話題や議論があったとしても、それらはじつは深くつながっているから
、ひとつ自分のものにしておけば、どんなテーマでも書き進めていくことができると
いうことではないでしょうか。
今年はお正月の特別番組で、地球温暖化を考えるものが目立ちました。そういった
今このときの話題をただ聞き流すだけにしないで、自分が論文を書くつもりで吸収し
ましょう。温暖化の原因をどこまでもたどってみるのです。「自分が書くという意識
」で見聞きするという姿勢は、かなり力を発揮します。
自分のお得意のテーマをつくってみましょう。それを今年の目標にしてアンテナを
たてると、毎週の課題も、学校の勉強も、毎日のニュースも、自分に語りかけてくれ
る興味深い刺激になってくるはずです。楽しく進めていきましょう。
きら
■■「まずは○○してみよう」(いろは/いた先生)
「まずはやってみよう」。私が何かに挑戦するときにいう言葉です。いい加減に聞
こえるかもしれないけれど、この言葉のおかげでたくさんの楽しみを今まで見つけて
きました。頭でぐるぐる考えていたって答えが見つかることなんてないし、未来なん
てだれにも分からないんだもの。ならば「まずやってみよう」。いつもそう考えてい
ます。
でも、この「まずはやってみよう」ということ。意外と難しいようです。先生の子
どもも算数を解きながら「ねえ、ねえ。○○ってこれ以上約分できないかなあ」とか
「ねえねえ。ここにはこの数字であっているかなあ」などと聞いてきます。「まずは
やってみる」。こんな楽しいことをしない手はないのに、その先で止まってしまうの
です。もったいないなあ、と思わずにいられません。答えに到達するまでの道のりが
楽しい、自分で導き出すことが楽しいはずなのに、答えがあっていることの方が大切
だと思うなんて悲しいと思いませんか? 答えなんてしょせん数字そのものです。数
字を当てるだけのゲームなんて運がよければそれでオッケー。自分の頭なんて関係な
いのです。本当にもったいない! でもこれはきっとわが子だけに当てはまる例では
ないと思います。
昨年暮れ、国際学習到達度調査(PISA)の結果が出ました。日本の順位が著しく低
下していることはみなさんご存知のとおりです。日本の学生を困らせた問題はそれほ
ど難しものなのか、と問題例を見てみるとなんのことはない、「自分の考えを書く」
というものです。
科学的応用力の問題の一部をみると二つのグラフを比べて二人の意見が出されます
。なぜそのような意見が出るのか、を問う問題が二問、三問目の答えは「だれも正し
い答えが分かっていない」ことを答えさせるものです。問題文が多少難しく書かれて
いますが、かいつまんで説明すれば小学生でも答えることの出来る問題です。それが
正答率、17.6% OECD平均18.9%よりも劣っているというのですから驚きます。
原因の一つは正しい答えを出すことを「勉強」と位置づけた考え方だと私は思って
います。「まずは答えてみる」。この部分に重きを置かなければならないのではない
かと思うのです。
この世の中で、きれいに「正しい答え」が出せることはほとんどありません。ああ
でもない、こうでもない、を繰り返し出た結果、「正しかった」というのがほとんど
です。そして、ああでもない、こうでもない、の部分があるからこそ成長できること
も多々あるのです。
私が学生の頃、パソコンが普及しはじめました。とある出版社でバイトをしていた
私は新しいものを目の前に、困っていました。下手にさわって壊してしまったらどう
しよう、と思っていたのです。すると、その会社の方が一言「大丈夫だよ。そんなに
簡単に壊れるものでもない。バイトの子が失敗したことが大きな問題になることも無
い。だから好きにいじってごらん」と言ってくれました。ああでもない、こうでもな
い、が本当に楽しかったことを覚えています。
大人になり講師になった今、生徒に伝えたいのは「まずはやってみよう」の一言。
頭の中で考え続けても答えなんて出てきません。まずは鉛筆を持って書いてみよう。
頭の中で考えていたときにはつかみどころのない大きなもやもやだったものが、形と
なる喜びを感じて欲しい。感想文だってそう。正しい答えを書こうとするから、話が
おかしくなるのだと思うのです。正しい答えなんて無い。筆者が言っていることに沿
って書こうとするから難しく感じるのです。感想文で大切なことは「自分の感じたこ
と」を書くことです。それがたとえ世間の考えとは違っていてもあまり気にする必要
はないと思っています。学力到達度調査のテスト内容で分かるように、考え方を示す
ことが今、世界では求められているのですから。
「まずはやってみよう」。失敗なんて気にしなくていいのです。まずはやってみて
の失敗なんてたいしたことはないのだから。「やってみた」ことからどんな世界が広
がっているのかは後のお楽しみです。(^o^)
■■キーワードは「つなげる」?(はち/たけこ先生)
クリスマスプレゼントやお年玉で、ほしかったゲーム機やソフトを買ってもらった
生徒さんも多いのではないでしょうか。私はもしかしたら、子どものころ、携帯電話
、インターネット、携帯ゲーム機などの「デジタル機器」を経験しなかった「最後の
世代」になってしまっているのかな、と考えている今日このごろです。
実は、先月の作文で、エアコンの温度設定(デジタル)と、だんろやたき火などの
温度(アナログ)について考えてくれたものがありました。エアコンの温度は、たと
えば「27℃」と設定したら、その温度きっちりにしてくれます。しかし、キャンプフ
ァイアのたき火の温度は一定ではありません。火がついてから燃えさかり、消えてい
きます。便利かどうかはわかりませんが、その味わいはエアコンにはないものでしょ
う。私はとてもおもしろいところに気がついたと思って、電話でほめるとともに、作
文で気がついた違いは、こんなふうに発展できると説明しました。時計などで見ても
わかるとおり、「デジタル」は「ある一点」を示していて、「点」と「点」の間は「
切断」されています。しかし「アナログ」のほうは、一瞬正確な時刻を秒単位まで読
み取ろうとしても、じわじわと針はすすんでいくのが見えます。つまり「連続」が見
えるのだと。
そう思っていたら、今度は専門学校で教師をしている友人がネットの日記におもし
ろいことを書いていました。TVゲーム、パソコン、携帯電話など、デジタルを通して
生きてきた自分たち世代はいきなり「グローバルな視野をもて」と言われても、感覚
的につかめないのではないか、と。これもなるほどと感心しました。「グローバル」
ということは、「地球規模」ということですから、つまり「連続」しているのですね
。「切断」になれた日常では、意識的にものの見方を切り替えなければならない、と
いう指摘なんです。テレビのニュースで世界のことをやっていてもチャンネルをきり
かえたらそこには違う世界が。でも、本当は頭の上の空はずっとつながっていて、世
界のどこかのその事件はそこにいる人たちにとってはずっと続いている「連続」して
いるものなのです。
おりしも、お正月から読売新聞で連載されていた「日本の知力」でも、東大教授吉
見俊哉氏がくりかえしコメントしていました。「電子図書館は便利だが、検索技術の
進歩では、『木は見えても森は見えない』。我々は図書館に何度も通い、横並びの図
書から知識の地図を頭に描いて理解を深めてきた」(1月6日)「検索で得た知識が役
にたつのはある程度まで。一つの知識とほかの知識がどういう構造的なつながりがあ
るのか全体構造が見えなければならない」(1月9日)
デジタル世代のみなさんは、これから好きなことについて、「その先をつなげる」
ということを意識していかねばならないでしょう。なぜなら生命というのはアナログ
で連続しているものだから、そのほうが生理的に心地よいはずなのです。
たとえば、もしあなたの好きな人がサッカーが好きで、中でもトルコのナショナル
チームのある選手が好きと知ったら、あなたもひそかにトルコのニュースが出たら目
を向けるようになるかもしれません。あ、あんな国の選手が好きなんだ、って。ちょ
っとでも話題が出たら、知ったかぶれる?かもと気をつけて聞いたりします。でもそ
れからふしぎと関心をもつと、トルコのお菓子の試食にあたったり、いいなと思って
買ったグッズがよく見たらトルコ製だったり、なぜかあちらから近づいてくるんです
。しかし残念なことに失恋してしまうとします。……もうトルコなんか見たくない!
……でも本当は、わくわく片思いしながら調べていたトルコは、いい出会いから始
まっているのです。時が流れ、あるとき大人になったあなたは、トルコからの留学生
に会うかもしれません。昔知ったトルコについてのことを話してあげて喜ばれるかも
しれません。しかもその女の子のお兄さんは、昔好きだった人があこがれていたトル
コのサッカー選手に、サッカーを習ったことがある、と言い出すかもしれません。と
ても気に入って、好きになっていれば、ある時消えたように見えても、思いもよらぬ
ところでよみがえったりするのです。どうしてかというと、見えない深いところで、
意識していなくても、つながりつづけていたからです。そしてそれは、新しい展開へ
と「つながっていく」ものなのです。
「つなげる」というのは、長い長い間、実は自分の喜びになっているのです。トル
コというのは思いつきの例で、別に外国でなくてもなんでもいいのです。好きなこと
をつなげていけば、いつも意識していなくても、忘れたようでいても、そちらのほう
から一生にわたって、出たりひっこんだり、思わぬときにあなたを喜ばせてくれるで
しょう。努力しなくてもいい。ただまわりに注意をはらって、「あ、ここにもある!
」と喜べばいいのです。「つなげる」とはそんなことから始められるのかなと思いま
す。
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