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2009/09/07

KIP090907「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学38」

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 2009年09月07日(月)   第2761号
 日刊! 関西インターネットプレス
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■本日のコラム「源氏物語に見る 王朝貴族の失敗学38」
        悲劇の幕は上がった
 月曜日月イチ担当:フリーライター 鳴川 和代

みなさま、こんにちは。鳴川です。まだ暑さは残りますが、空の色がすっ
かり秋ですね。今回もよろしくおつきあいください。

■六條院の女性が集まって…

前回、柏木が女三宮の姿を偶然目にしてから、柏木の心は女三宮のことで
いっぱいです。寝ても覚めても思うのは彼女のことばかり。挙げ句の果て
に、女三宮の兄の東宮にうまく取り入って例の子猫を手に入れたりしまし
た。柏木は子猫を懐に抱いて寝たり、まるで恋人のように扱うところが描
写されています。

その後、物語では髭黒右大将の娘が蛍兵部卿宮の結婚、光源氏の実子の冷
泉帝は譲位し、東宮が帝になりました。光源氏の娘の明石の女御は子ども
も多く、このままいけば后になるでしょう。帝の妹の女三宮は内親王とし
ての位も上がり、経済的にも安定しています。そんな中、光源氏の愛はや
はり紫の上に注がれていましたが、紫の上の心にはずっと以前から、出家
の願いが芽生えていました。しかし、その願いを光源氏に訴え出ても聞き
入れてもらえません。出家すれば男女関係を絶たなければいけません。光
源氏にはそれが耐えられなかったのです。つまり、光源氏のエゴだけで、
紫の上は出家の道を閉ざされていました。

女三宮の父・朱雀院は50歳を迎えます。当時50歳といえば長寿の部類。女
三宮が光源氏に降嫁したころ、体調が悪くて明日をも知れぬかもしれない
など、なんだかんだいいながらも、相変わらず朱雀院は健在です。もちろ
ん、これはお祝いしなければということで、光源氏は女三宮主催の「五十
の賀」のプランを練り始めました。

そこで思いついたのが「女楽」。六条院の女たちの合奏です。明石の君は
琵琶の名手。紫の上は和琴、明石女御は箏の琴、そして女三宮は琴の琴
(きんのこと)。この琴の琴は、光源氏手ずから指導したもの。そのた
め、最近は紫の上よりも女三宮のところに泊まることが多くなっていまし
た。

朱雀院の五十の賀は2月10日過ぎの予定です。その前に試楽を行うことに
しました。つまりは本番さながらのリハーサル。息子の夕霧に加え、その
子どもたちや髭黒の子どもたちなど縁続きの子どもたちも呼び、とても賑
やかです。おつきの女童たちも季節にあった美しい衣装を着て、彩り豊か。
このあたりは源氏物語ならではの華やかさで、読み応えたっぷりです。

主役はいずれ劣らぬ4人の女性たち。女三宮は衣装だけがあるようで、小
さくかわいらしい風情で、たおやかな青柳に例えられます。明石女御はそ
れにもう少しつややかさや奥ゆかしさが加わり、いってみれば藤の花。匂
い立つような美しさの紫の上は桜。明石の君は身分は低いものの、優雅
で、花橘に例えられています。

無事、試楽が終わり、光源氏は紫の上と戻り、あれこれと語らいます。そ
の中で再び紫の上は出家を願い出ますが、やはり光源氏は聞き入れません。
その翌朝、紫の上は突如発病しました。胸が苦しくなり、熱が出ますが、
光源氏に知らせないよう苦しみをこらえます。ところが、たまたま連絡の
あった明石女御にそれを知らせたため、明石女御から光源氏に連絡が届き
ました。紫の上はそれから病みついてしまい、朱雀院の五十の賀も延期に
なってしまいました。光源氏は試しに場所を変えてはどうかと、紫の上を
彼女が育った二条院に移して、転地療養することになりました。

■女主人の寝室に男を引き入れる女房

柏木は中納言に昇進しました。帝の信任も厚く、将来を嘱望された人です。
女三宮の姉の女二宮を妻にしていましたが、女三宮よりも出自の低い女二
宮では飽きたらず、相変わらず心の底では女三宮を思い続け、女三宮の女
房の小侍従に何とか便宜を取りはからってくれるよう、せっついていまし
た。この小侍従は柏木の乳母の縁続きだったため、柏木は昔から女三宮の
様子を聞いていたのでした。

柏木にとって、紫の上も光源氏も六条院から離れているいまは、人目も少
なく、大きなチャンスです。なんとか物越しに話ぐらいでも…と、とても
低姿勢で小侍従に頼みます。柏木にとって女三宮との唯一の絆はこの小侍
従です。ですから低姿勢にならざるを得ません。でも、柏木の熱意という
か、執着が小侍従を動かし、なんとかやってみましょう、ということにな
りました。

それは賀茂の祭りの御禊が間近に迫った4月10日過ぎのこと。もちろん、
光源氏は紫の上のところに行ったきりです。祭りの前日とあって、女房た
ちの一部は齋院のお手伝いに出かけなければいけません。また、ほかの女
房たちも準備に忙しく、ある女房は恋人に呼び出されて留守。女三宮のそ
ばは小侍従だけという(柏木にとっては)千載一遇の機会がやってきまし
た。

小侍従はこれがチャンスと、柏木を女三宮の寝所に導き入れました。こん
なに近くまで寄らせなくても、御簾越しに声だけ聞かせればいいのに、小
侍従は出過ぎたまねをしたのかもしれないし、男性の性を甘く見ていたの
かもしれません。それまで眠っていた女三宮はふと、男性の気配を感じて
目を覚まします。光源氏かな、と思いました。でも、それにしては様子が
違います。しかも自分をベッドの下に抱き下ろすではありませんか!

さらに、ずっと昔からお慕いしていました、とか、あはれとだけでもおっ
しゃって、とか、訳のわからないことをあれこれとかき口説きます。女三
宮は「ああ、以前から手紙を寄せていたあの人か」と思い当たりますが、
それでも知らない男に抱き寄せられて、恐怖はつきません。汗もしとどに
流れ落ちます。

一方柏木。初めて間近にみる女三宮は、姫宮の威厳や重々しさよりも、ひ
たすら可憐で、かわいらしく、上品で柔らかな雰囲気が勝っています。そ
の姿に、押さえていた理性も吹き飛び、このまま女三宮を連れて去ってし
まいたいと思うほどでした。

どれほど時間がたったのでしょうか。柏木は短いまどろみの中で夢を見ま
した。あの子猫を女三宮に差し上げた夢。どうして差し上げてしまったの
か、と思っているうちに目が覚めました。横では女三宮が呆然としていま
す。そのものずばりの表現はありませんが、この部分の描写から、柏木が
無理矢理に女三宮と関係を持ったことがわかります。そこで女三宮は初め
て、あの猫が御簾を巻き上げ、柏木に姿を見られたことを聞かされます。
「こんなことになって光源氏様にどんな顔でお目にかかればいいのか…」
目の前の柏木のことよりも、光源氏に知られることの方が、女三宮には恐
ろしいのでした。

光源氏の運命の凋落を示すような若菜の巻。紫の上の病気は、光源氏のエ
ゴが招いたものでしょう。出家を許されず、不安定な地位の紫の上。しか
も女三宮と同じ席で女楽に臨まなければなりません。積もり積もったスト
レスが、彼女をむしばんだ結果といえるのではないでしょうか。

そして女三宮と柏木の過ち。深い考えもなく男を女主人の寝室に導く小侍
従。人が少ないのに、恋人の呼び出しに応じて出て行ってしまう女房。女
三宮の女房たちは、主人を守るという意識が欠けていたとしかおもません。
その結果招かれた二人の過ち。物語に広がった大きな波紋は、どのような
悲劇を招くのでしょうか。


【プロフィール】
鳴川 和代/なるかわ かずよ
大阪在住のライター。フリーランス。
手がける分野は生活一般から情報通信、医療関係まで多彩ですが、
個人的にテーマにしているのは「個人情報保護」と「源氏物語」。
脈絡なく並んでいますが、いずれもライフワークと考えとります。
先日、陸上自衛隊の富士総合火力演習に行ってきました。迫力満
点、空間がふるえるというのを体感しました。実はたまに、こう
いうのにも行ったりするんです。

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